学祭戦記、夏 ― 救世主と書いてヒーローと読む
「…って きゃっ!!」
かわいらしい悲鳴をあげ 廊下に入る手前で立ち尽くす
そりゃそうだ
ロケット花火や癇癪玉がどんどん廊下に飛び込んで来るんだから普通なら驚くよ
「そこで待ってろ!!」
音に掻き消されないように叫ぶ
聞こえたかどうかわからないが サヨはその場から動こうとはしない
俺は空になったマガジンを捨てる
残りの弾数と暴徒の数がほぼ同じ…!!
もう外すわけにはいかない!!
パンッ!! パンッ!!
…よし 2人倒れた!!
確認を終え すぐに回避行動に移る
窓から相変わらず危険物が飛んでくる
相変わらず一進一退か…
「……ふっ」
息を吐き 再び構える
パンッ!!カシャン!!
「なっ……くぅっ!?」
俺は1発しか撃ってないが…2人倒れた
「は…ハセ君!?」
驚いてサヨが叫ぶ
倒れたのは暴徒1人と…俺だった
「くっ…そ 俺は大丈夫だっ…!!」
痛みを堪え叫ぶ
どうやら銃身にロケット花火が直撃したようだ
直接俺の体に当たったわけではないからそこまで心配はないが…
弾かれた手には鈍い痛みが走る
しかしそんなことくらいで休んでいるひまはない
手から飛んでいった銃を拾いマガジンを抜…こうとして止まる
…抜けない!?
マガジンが抜けない…!!
「…くそっ!?」
さっきの衝撃でマガジンが抜けなくなっちまったのか!?
マガジンは空だ…
銃の中に1発残ってるだけ
…だがそれも普段通りに撃てる保証はない
…暴徒はあと10人
ゲームオーバーか…?
「くそったれがぁ!!」
思いっ切り壁を殴る
再び鈍い痛みが拳に伝わる
「ここまで…なのか…?」
壁にもたれ掛かりズルズルと力無くその場に座り込む
こっちの事情など知らない暴徒は相変わらず攻撃の手を緩める気配がない(とは言え10人しか残ってないが)
俺はマガジンの抜けなくなった銃の安全装置をロックし 懐にしまった
…お手上げだ
引き上げよう
懸命に戦っている役員には悪いが 俺じゃダメだったよ…
ポケットから秘密兵器を取り出し 役員全員のイヤホンに回線を繋ごうとした
―が それは一件の通話により憚られた
『ふっ…会長 救世主ってのはこういうときに現れるものだよな?』
雑音の中に知ってる声が確かにあった
「…本多?」
『まぁ見ていろ 俺の実力をな』
通話終了
…いったいなんだったんだ?
その疑問も…すぐに吹き飛んだ
…サヨの大声で
「ハセ君 あれっ!!」
サヨが校舎裏を指差す
立ち上がり 目線をやると…
何かが猛スピードで走っている
走っている?
役員の脇を抜け―
暴徒に…突っ込んだ
…突っ込んだ!?
「なっ…なんだあれ!?」
いや…俺はアレを知っている…
あのフォルム あのエンジン音
間違いない…護送車だ…!!
護送車と言っても車じゃない
どっちかというと立ったまま運転するフォークリフト的な感じで 運転手の座る席がなく ちょっとした荷台がある
なぜ護送車と―生徒会内部の人間のみだが―呼んでいるかと言うと
色々な物を運ぶからだ
表向きには各露店の在庫や運ぶのが大変なものを運ぶためにあるとされているが…
本当の目的は拘束した暴徒を護送すること!!
詳しくは俺でも知らないが―
拘束された暴徒はその場で気絶させられ "棺桶"に入れられる
そして棺桶を監獄に運ぶのだが…
監獄の場所はレベル5のトップシークレットなので 一般生徒にバレないようにする必要がある
そこでカモフラージュとして各露店の在庫などをついでに運んでいるというわけだ
つまり一般生徒は護送車を運転するのが生徒会の護送隊だとは知らないし
そもそも護送車という名前も知らないわけだ
…だが 目の前で爆走してるのは普段の護送車との決定的違いがあった
それは…スピード
護送車は校内も普通に走るため速度10km/h以上出ないような造りになっている
…だがどうだ?
眼下の護送車はまるで暴れ馬だ
残っている暴徒をまるで蹂躙するかのように跳ね飛ばす
護送車のフロントが丸いために跳ね飛ばされた暴徒は重傷を負うことはないだろうが―戦意を削ぐには十分だった
『改造に手間取った…
ほんとならもう少し早く登場できる予定だったのだがな』
再び本多の声が今度はイヤホンに響く
「はは…ははっ」
なんとかなった…
というか いままでの苦労はいったい…
役員が次々と暴徒を拘束していく
さらに護送車が2台ほどやってきた
…これは改造してないみたいでゆっくり近付いてきていたが―
『会長だけに美味しいとこを持ってかれるのは御免だからな』
1番美味しいとこを持ってった人間が何を言いますか?
「はぁ…」
ため息が まだ火薬の臭いのする廊下響いた
騒動が片付いてきていた
校舎裏に護送車はもうないし バリケードも片付けた
「ふぅ…」
だんだんと淡いオレンジに染まりつつある空を眺めてため息が出た
…って もうすぐ夕暮れ!?
「やばい!!サヨ 急ぐぞ!!」
「ふー?」
たませんらしき塊と格闘しているサヨの手を引き走る
「間に合わなくなる…!!」
「はひひ?(何に?)」
「…決まってんだろ?メインイベントだよ」
俺の口元に笑みが戻ってきていた
ケリをつけようか…渋谷!!