学祭戦記、夏 ― 最初のミス
『それにしても先輩 結構酷いことしますねー』
「んあ? なんのことだ?」
タケ…じゃなくて 変態の放送ジャック騒動を収拾し終わった頃にイヤホンからまひるの声が響いた
『もう とぼけないで下さいよー
まぁそんなサディスティックな先輩も好きですけどね ぽっ』
「ぽっ じゃないよ…で 本当に何の話?」
『ぶー 先輩がつれないですぅー』
途端に拗ねた声が聞こえる
『まぁ冗談はこの辺にしといてですね 変態先輩のことですよ』
「変態がどうかしたのか?」
『だってわざわざ女子トイレに放送機材を置くように指示したのは先輩ですよ?
あれって初めから変態先輩をターゲットにしてたんですよね?』
「や 違うぞ?
あの場所を選んだのはちゃんとした理由があるんだよ」
『ちゃんとした理由…ですか?』
「おう そうだ あの場所は最上階 しかも隅っこだ」
『あっ わかりましたよー!!
逃げ場がないんですね?』
「そゆことだよ
ついでに言うと 学園祭の最中にあんなとこに行く物好きはそういないだろ?
つまり張り込んでいればターゲットの接近に一発で気付ける」
『なるほどです
ターゲットが人混みに紛れて行動するのを封じるわけですかー
でも…まだわからないこともあるんですよ』
「ん?なんだ?」
『先輩は最初から あたかも変態先輩が来ることを想定してたじゃないんですかー?
だからターゲットが変態先輩だったバージョンと 別の生徒だったバージョンの両方を作戦指示したんじゃないんですか?』
「おっ 鋭いな まぁ…アレだ
サトミも変態も渋谷の指示で動いていた
そして渋谷は初めから女子トイレに放送機材があるのを知っていた そして…」
一呼吸置く
「渋谷は敢えて変態を女子トイレ担当にした
渋谷はこれが罠だと知っていたからだ
ここまでわかるか?」
『う… 全然さっぱりですー…』
「…と とにかくだ
変態は俺たち生徒会と渋谷の両方に嵌められたってことだよ
偶然にして必然ってヤツだ」
『えと…』
しばらくまひるがぶつぶつと独り言を呟いていたが…やっと口を開いた
『つまりは先輩のサディスティックな性格が変態先輩を陥れたんですね!!』
そしてまったく理解してなかった
「…もういいや とりあえず雑談はこの辺にしとこうか
持ち場には戻ってるのか?」
『はい バッチリですよー
先輩の指示通りです なんたって私は先輩の従僕ですから』
「じゅっ…!?
い いきなり何を言い出すのさ…」
意味をわかって言ってるのか わかってないのか…
どちらにしろ困ったものだ…
『だってー…私は先輩だけの私ですから
先輩の指示は絶対なんです
あっ でも…絶対だからって あんな命令やこんな命令は……でも先輩になら…いやでも…やっぱりまだ早いですよ…』
…どうやらスイッチが入ったみたいだ
こうなったら放置するしか手はない
「仕方ないな…」
ため息をつくと同時に腹が鳴った
「うっ…」
「ハセ君? どうかした?」
「いや そういや昼飯食ってねぇよな…」
「あ うん 私もお腹空いちゃったよ」
あはは と 照れ笑いを浮かべる
「とりあえずメシにしようか 何が食いてぇ?」
「んーと お店回りながら決めない?」
「あぁ そうだな」
イヤホンの向こうで いまだにまひるがひとり盛り上がっているようだった
責任がどうとか言ってるよ…
俺はまひるが落ち着くまでの間 イヤホンを耳から外すことにした
きっと…これが間違いだったのだろう
だけどこのときはそんなことまったく思いもしなかった…
…あんな展開になることが