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星の丘学園戦記  作者: 東雲 暁星
学園戦記、夏
49/91

学祭戦記、夏 ― 綻び



「もう飽きてきたわ…」





総会長と長谷川の差は歴然と見えた



相手が総会長なら こんなにたやすく放送室を乗っ取れなかった



仮に乗っ取ったとしてもすぐに追っ手をよこしただろう



それが どうだ?





占拠はいとも簡単に



追っ手の気配すらない





…もう少しデキると思ってたのに



残念だわ



そう思ってため息をついたと同時だった





『よう 聞こえるか可哀相なサトミさんよぉ

引き立て役 ご苦労様…さて もうおしまいの時間だ』





突然 操作パネルの隣にあったヘッドホンが喋った





「あら 長谷川じゃないの」



そう言ってヘッドホンを手に取る



「ご機嫌麗しゅう 不様な次期総会長候補筆頭さん

わたくしの寛大さに免じていまの失言はなかったことにしてもよくてよ?

貴方がいまの失言を即座に取り下げるならね」



ヘッドホンについているマイクに向かって悠然と言い放つ





ヘッドホンを装着する手は震えていた





怖いのか…?





違うわ…これは武者震いよ!!



ようやく長谷川が手を打つのね…!!



この自分を捕まえるために!!





『取り下げる?はっ そんなつもりはこれっぽっちもねぇよ』





きっとこの会話は罠ね



会話に気を取られている隙に放送室に突入しようとしているに決まってる





…バレバレよ





「なによ せっかく許してあげようと思ったのに」





いつでも離脱できるように天井からぶら下がるロープを手繰り寄せる



ドアが突破された瞬間にロープを登り始めても十分逃げ切れる



自分の体力と渋谷の作戦



綻びなんてひとつもない…!!



すべては計画通りなんだ!!





『ほぅ…いつまでその虚勢が続くかな?』




長谷川が挑発する



いつもの自分なら間違いなく挑発にのっていただろう





だが…いまは違う!!



油断や隙は文字通り命取りになる



隙を見せたら突入される



逃げ切れる自信はあるが―もう少し生徒会の邪魔をしていたい



もっとこの快楽に浸っていたい!!



だから挑発を軽く受け流す





「虚勢?主導権はわたくしにあるのよ?」



そう 放送室を占拠している



これは最大の強みだ



自分が優位に攻め 長谷川はあくまで抗戦という状況



「貴方こそ 虚勢はよしたらいかが?」



しかし返ってきたのは舌打ちでも焦りによる唸りでもなく―



馬鹿にしたような短い笑いだった



「何がおかしいのよ?」



額に汗が伝う



たったそれだけなのに―とてつもなく嫌な予感がした



『何がって…お前 ほんとバカだな』



嘲るような台詞に背筋が凍る



…何が言いたい?



『簡単に放送室を占拠できた?

だからどうしたってんだ?』



いつのまにか右手は拳を作っていた



何が…言いたい…!?



『…不思議には思わないのか?』



「なに…が…?」



声になったのかわからない



なにか嫌な予感がする



周りの温度が急に下がったようだ



視線さえ感じる





…落ち着け



このままではすべて長谷川の思惑通りになる…!!



動揺したら負けだ



平静を保つんだ…!!



「だから…だからなんだって言うのよ!?」



思わず叫んでいた



ヘッドホンの向こう側の口元に笑みが浮かんだ気がした



『こう考えるのはどうだ?

わざと警備を手薄に見せ掛け 放送室を襲撃したくなるようにした と』



どういうことだ…?



わざと占拠させたとでも言いたいのか…!?



「そんなこと…なんの得があるって言うのよ!!」



もう平静を保つのは無理だった



言いようのない恐怖が這い上がってくる



両手でロープを掴む





…逃げてやる



逃げ切ってやる!!





…だが





『おっと そうはいくかよ!!』



まるで長谷川は自分の姿が見えているかのように言い放ち―





バンッ!!





放送室の片隅で音がした



「なっ…!?」



「生徒会だ!!動くんじゃない!!」





囲まれていた



一瞬だった…





ロッカーから2人



段ボールに1人



放送スタジオから3人



計6人の男女に囲まれていた





ドアから入ってきたなら逃げ切れる絶対的な自信があった



でもこんな至近距離から出てきたんじゃ さすがに逃げ切れない…





『チェックメイト だ』



付けたままのヘッドホンから―死の宣告が聞こえた





「全部…罠だったのね」



返答はない



それが答えだ



「…ひとつだけ教えなさい」



『なんだ?』



「なぜわざわざこんな茶番劇をしたのよ?

なぜわたくしが侵入した瞬間に取り押さえなかったのよ?」



『ふたつも質問すんなよ

ひとつじゃねぇのか?』



「いいから教えなさい」



ヘッドホンの向こうが微かに鼻で笑ったような気がした



『不測の事態に対応するだけじゃうちら生徒会側が確実に不利なんだ

…それはわかるか?』



…言いたいことはわかる



暴徒側は生徒会側の様子を見て騒ぎを起こす



生徒会側は暴徒側が騒ぎを起こして初めて暴徒の動きがわかる



暴徒は攻め続け生徒会は必死にそれを鎮圧しようとする



つまり基本的には生徒会側が先手を打つことは不可能なのだ



『だからな 罠を張り獲物を待つ かかった獲物は暴れる…だが』



一旦長谷川が言葉を切る



『罠にかかった獲物を仕留めるのは簡単だ

そしてその獲物を手に俺らは堂々と勝利報告をする

罠の存在を知らない一般人はこう感じる

生徒会側が勝った と』



「つまり…わたくしは貴方たちの引立て役

負ける脚本しか用意されていない悪役ってところかしら?」



『その通りだよ

コードネーム 正義は悪を潰して初めて輝く

見事に嵌まったよ ありがとう』



「くっ…完敗…ね

あんたは絶対いい死に方しないわよ」



『結構 あーそれとだな』



「なによ?まだなにかあるの?」



『渋谷は罠のこと知ってたと思うぞ』



「なっ…!?」



絶望が憎悪に変わった



綻びなんて確かになかった



確かに計画通りだったんだ…



自分のじゃない 長谷川と渋谷の計画通り…



「ははっ…」



そして再び絶望へ



「わたくしは2回も騙されたのね…

不様だわ…早く連れていきなさいよ」



『…最後にもうひとつ

可哀相なサトミに教えてやるよ』



「…なによ」



『お前が放送室に抜擢された理由はもうひとつある

というか 消去法でお前になるんだよ』



「どういうことよ…?」



『恐らく武田は別のところで行動を起こす

それはお前じゃ面白くないんだよ

それをわかって渋谷は武田をそこへ お前を放送室へよこしたんだろう

…まぁ武田の向かう先も罠だがな』



「意味がわからないわよ」



『だろうな お前が理解するのはきっと明日以降だろうな

いまからお前は監獄行きだから』



「分かってるわよ!!

いいから早く連れてきなさい!!」



『はいはい じゃ 護送隊 よろしくな』



その声と同時に放送室のドアが開く



特殊なロックをかけておいたのに いとも簡単に



3人の男子生徒が入ってきた



「あなたが噂の本多君かしら?」



「…そうだ 是非お前とは別の機会に逢いたかったものだな

お嬢様キャラはSという万国共通の―」



『本多 任務だ』



「ぬっ そうだった」





がしっと腕を掴まれる



「ちょ…ちょっと!!」



ヘッドホンが外され アイマスクをつけられる



『…ゲームオーバーだ サトミ』



それが最後に聞いた言葉だった





暗闇に意識が落ちた




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