学祭戦記、夏 ― ミッションスタート
『お~っほっほっほ
放送室はわたくしが占拠させて頂きましたわ 無能な生徒会の皆様方』
聞こえてきたのは武田ではなくサトミの声だった
「サトミちゃんだね…
武田君だと思ってたのに」
サヨも同意見のようだ
「まぁまだ武田を失うのが惜しいのかもな」
そう言って鼻で笑う
どうせ渋谷は俺たちが放送室に罠を張っていることはとっくに知っているだろう
そこでサトミを捨て駒として起用か
渋谷らしいな
それとも―渋谷はその先を見据えて武田の起用を先送りにしたのかもな
…あいつなら十分ありえるぜ
まったく…恐ろしいヤツだぜ…
そんなことを考えている間にもサトミの演説は続いていた
「さて…そろそろ行きますかな?」
当然いつまでもサトミを野放しにしておくほど俺は紳士的じゃない
いや 発言の機会を与えただけ紳士的だと思ってほしいね
だって罠だもの
ポケットから秘密兵器を取り出す
本体をスライドさせると画面の下にいくつもキーが現れる
スライドタイプのケータイさながらだ
本多お手製のそれは 使い心地がたまらなく最高だ
キーのサイズ 本体の重量
ありえない量の作業がこなせるこの携帯端末
もはや本多の技術は一般普及しているパソコンを越えている
俺は素早くキーを打つ
第1段階 クリア
今頃この作戦に関わっている役員の耳にあらかじめ作っておいた作戦開始のアナウンスが流れているところだろう
すぐにまたキーを打つ
ディスプレイに通信準備完了 と出る
第2段階 クリア
「…いくか」
そう短く言い放つ俺の口元には恐らく―いや 間違いなく―笑みが浮かんでいただろう
罠にかかった獲物を捕らえることを最高の楽しみにしているハンターのような
サディスティックな笑みを
「よう 聞こえるか?可哀相なサトミさんよぉ
引き立て役 ご苦労様…さて もうおしまいの時間だ」
コードネーム
「正義は悪を潰して初めて輝く」
ミッション スタート