学祭戦記、夏 ― 真夏なのに…
「いらっしゃいませご主人さ…って長谷川!!
な なにをしにきたんですの!?」
「………………」
俺とサヨを出迎えたのはクラスの副委員長のサトミ
相変わらずの口調だ
だがしかし問題はそこではない
ご主人さ…ってなんだ?
ん?続きが気になるなぁ?
しかもその格好はなんだ?
明らかにメイド服だよな?
「用事が無いのならさっさと消えてくださいませんこと?
わたくしは忙しいのよ」
忙しいねぇ…
あれかな?ご主人へのご奉仕で忙しいのかな?
初登場の時はわからなかっただろうが 何と言うか…お嬢様口調なんだよな
え?初登場って何かって?
こっちの話だよ 気にすんな
「まぁまぁサトミちゃん
私たち同じクラスじゃんか」
「わたくしは長谷川が気にくわないだけですの
サヨさんなら大歓迎…と言いたいけれど―今日だけはわたくしたち敵同士ですのよ?」
「うぅ…」
有無を言わせない口調のせいでサヨが黙り込む
「で お前は今日はずっと店番か?
…いや 違ったな ずっとご主人さまにご奉仕か?」
わざと挑発するように言う
「…あんたには関係なくってよ?」
右手を拳にしてプルプル震わせている
「ご主人さまに暴力はいけないよな?」
にやにやしながら問い掛ける
普段の借りを返さんとばかりに
「と…とにかく長谷川には関係なくってよ」
なんとか堪えたようだ
「関係あるだろうが…
頼むからおとなしく店番しててくれよ」
「ふん…誰があんたなんかの命令なんて聞くもんですか」
「あーわかったよ 存分に暴れてくれ
…これでどうだ?俺の命令は聞けないんだろ?」
「…仕方ないわね
そこまで言われたら暴れない訳にはー…」
「ちょっと待てぃ!!
いま俺の命令は聞かないってー…」
「なによ いちいちめんどくさいわね」
「…それはもれなくこっちの台詞だ」
「だいたいわたくしはあんたなんかとー…」
凄い剣幕で迫られる俺
助け舟はプールサイドから出た
「サトミちゃん ご主人さまがお呼びですよ」
クラスメイトの女子生徒だった
見事にメイド服
お客様と言わずにご主人さまと言うあたり 徹底してるな…
「…仕方ないですわね
首を洗って待ってなさいですわ」
そう言い残し踵を返す
「…俺が首洗うのか?」
こういう台詞って悪役に言うもんじゃ?
…俺悪役?
「さぁ…?」
サヨもいまいち納得してないような相槌をうった
俺の目線の先にはサトミ
女生徒たち(お客みたいだからご主人さま?)相手に接客をしているみたいだ
その女生徒たちは 尊敬…というか 憧れの眼差しをサトミに向けている
あぁ そういえば―あいつ女生徒からの人気高かったな
一部の間ではお姉様だなんて呼ばれてるし
…俺にゃわからんな
理解に苦しむね
ふと時計を確認してみる
11:00まであと5分か…
「一応気になるから行くか?」
「ん そうだね」
そう言って プールをあとにしようとしたとき 急に声をかけられた
「あ は 長谷川君と…
サヨさん いらっしゃ い…?
あっ…お お帰りなさい…ませ?」
声に振り返るとそこには委員長がいた
だが いつもと違ったのは
「その服…」
「あっ… う うん…」
やっぱりメイド服だった
そういえばサトミやさっきの生徒とは違うデザイン
…というかみんなバラバラのデザインだ
男子生徒は燕尾服か
…意外と本格的だな
…プールサイドなのが盛大に疑問だが
「えっと…お客さん?」
「ん あ いゃ そういう訳じゃねぇんだ
とりあえず顔くらい出そうと思ってね」
「そ そうなの…」
落ち込む委員長
んー 委員長+メイド服
アリかも
「もー ハセ君 なに見とれてるの?」
サヨがむすっとした声で言う
「あ うん 悪ぃ」
「でも委員長似合ってるよね
…私も着てみたかったな」
「えっと…一着余ってる…よ?」
「本当?あーでも残念 私たち仕事が―」
サヨの台詞の後半は聞こえなかった
決して声が小さかった訳ではない
ただ
それ以上に大きな音がしただけだ
中庭の方から
「な…っ!!」
「嘘っ!?なにいまの…?」
途端にイヤホンから声
『だっ…代行…!!中庭で問題発生!!
爆発と思われます…!!』
爆発!?
おいおい…冗談じゃねぇぞ…!!
「サヨ 急ぐぞ」
「あっ うん」
「じゃーな委員長」
「あっ…う」
委員長が言い終わる前に俺たちは走り出した