学園祭準備編 ― 偶然か必然か
「ったくよぉ…なんでこの忙しい時期に…」
当然誰も俺の独り言に答えてはくれない
夕焼けが綺麗に空を色付ける時間帯
俺はなぜかひとりで寮の屋上目指して階段を上っていた
「夕飯食べようと思ってたのにな…
ほんとタイミング悪いぜ畜生…」
20分ほど前に俺は夕飯を食べるためひとり学食へ向かっていた
すると廊下で数人の生徒と話をしていた教師になぜか呼び止められ こう言われた
『悪いけどさ 寮の屋上に行ってきてくれないかな?』
話はこうだ
その教師に相談していた生徒たちの部屋は寮の最上階らしい
そしてここ最近屋上で物音がしている気がするので不気味に思って教師に相談していたところだった
そこでたまたま通り掛かった俺は見てきてくれるように頼まれた
というわけだ
ちなみに
寮の屋上は基本的に立入禁止
だから余計不安だとか
本来 普通の生徒のIDで開けることのできる鍵は自分の部屋と自分の教室 自分の部活の部室や更衣室くらいだ
教師や俺のようなごく一部の生徒会役員は学園の敷地内すべての鍵を開けることができる
…まぁ解錠した記録が残るから―例えば俺が女子更衣室にこっそり忍び込むことはできても俺が解錠したことがバレバレなわけで―悪用はできないけどな
「さて…着いたか」
ちなみに俺は一回も寮の屋上に来たことはない
…だって用事がないし
なにが好きでわざわざ殺風景な寮の屋上に来にゃならんのだ?
こんなとこに来るやつはよっぽどの物好きしかいねぇよ
…あと暴徒か
いや でも寮内での暴徒行為は数少ない禁止項目だ
それを破ると…一般社会で言う極刑
誰も破ったことはないが 破ればおそらく数ヶ月"お小遣"がなくなるだろう
…つまり食事すら摂れなくなる
だからまぁここに暴徒はいないだろうな…
…というか鍵がかかってるから普通の生徒じゃここに入れないしな
ピッ という電子音のあとに鍵の開く音がした
「さて…何がでるかな…?」
最悪ただ野鳥が巣を作ってるだけかも知れない
そしたらあの教師に俺の夕飯を奢らせてやる!!
ギィ… と扉が音を立てて開く
そこには…ただ綺麗な夕日と赤く染まりつつある空があるだけだった
「…やっぱ誰も居ねぇじゃん」
ため息混じりの呟きが空しく夕焼けに溶けた
「よっしゃ 今夜は奢りだぁー…って 待てよ…あれはなんだ…?」
屋上の片隅に寮の部屋より少し大きいくらいの建造物
…しかも明かりがついてる!!
誰か居るのか…!?
とりあえず近付く
「………」
静かだ゛物音はしない
でもやっぱり明かりがついている
…突入するか?
それとも応援を呼ぶか?
「…いや 突入だ」
俺は誰にも聞こえないくらいの声で呟いた
このときはすっかり夕飯のことを忘れていた