学園祭準備編 ― 言葉巧みに…
「失礼します」
「失礼する」
俺たちは
本校生徒会室のドアをノックし 開けた
パン パン!!
ドアを開けた途端に耳障りな音と僅かな紙吹雪が俺たちに襲い掛かった
「………はい?」
状況がイマイチ…
いや まったくわからない
…クラッカー?
何かおめでたいことでもあったか?
俺と本多が来たというタイミングだぞ?
…俺と本多はデキてないぞ?
「さぁ 今回の主役のお出ましだよ」
部屋の一番奥からさっきの聞いたばかりの声
どことなく…いや
おもいっきり楽しそうな口調だった
本校生徒会室は無駄に広い
普通の教室より一回り…いや
ニ回りほど広いそれは100人の生徒を収容しても狭いとは感じない
…が 今回ばかりはそうは言えない
「うわっ…」
そこには
本校・附属の生徒会役員 風紀委員 保健委員といった生徒会側の生徒が全員集合していた
その数およそ170人
当然その中にはもちろん…
「貴様 このユキ様より遅いとは
まったくもっていい度胸じゃ─…」
「もー 遅いですよ先輩ー」
「ハセ君 おはよー」
「あ あぁ…おはよ」
いつもの面子も揃っていた
というか
いったい何事ですかな?
本校生徒会室に全員集合しちゃってさ
…まさかこの総会長に限って団結式みたいなのは絶対やらないだろうし─
「さて と…これで全員だし
団結式といこうか?」
「えっ!? ほんとに!?」
「嘘だよ めんどくさい
…君は相変わらず面白いね」
周りから笑い声が漏れる
あぁ…
やっちゃった…
「さて と
主役が登場したし いい加減本題に入るよ?」
なんか軽くスルーされたな…
総会長も相変わらずだ…
「…って 主役!?
俺たちのことですか?」
まさかほんとに俺と本多で男同士の禁断でアツい青春ストーリー開幕!?
「ふっ 違うね
君だよ 長谷川君」
「え? いゃ…だから─」
「君だ と言っているんだ
本多君も ではなく 君
君たちじゃない」
「あ はい…」
ってことは 俺だけが主役?
…よかった
本多と愛を語らずに済みそうだ
「…って 主役って?」
すると総会長は
呆れたようにため息をついた
「だからそれをいまから話すんだよ
話が進まないからしばらく黙っていてくれるかな」
そう言いながらさっきのテレビで見た格好のままの総会長は
いかにもインテリな眼鏡越しに威圧感をたっぷり放ってくるんだから
俺はただただ黙って何度も頷かざるをえないわけで…
当然そんなやり取りを見ている人たちの何人かが笑いをこぼす
畜生…
170人の生徒の前で曝し者にされてる気分…
…ってか実際曝し者か
「さて と
いいかな諸君?」
総会長が話を進めようとした途端に空気が変わった
影響力は絶大だ
生徒会室から音という音がすべて消えた
「諸君も知っての通りあと一ヶ月程で学園祭だ」
総会長は表情ひとつ変えずに話を進める
「当然恒例の"戦争"が勃きるだろう
だがしかーし だな
私を含む有能な本校4年生は今年度卒業だ
つまり来年度は優秀な私たちはいないのだよ
ここまでは理解できるかね 長谷川君?」
「あ あぁ…」
「じゃあ続けようか
さて…と
新総会長は新4年生が就くのが世間一般至極当然
…だがしかし だな
あいにく彼らは無能だ」
総会長の容赦ない台詞に本校3年生のほとんどが俯く
総会長はそれを一瞥しただけで話を続ける
「まぁ…
手駒としては使えなくもないかなぁ?」
フォローのつもりかただの追い撃ちか…
本校3年生の大半はバツの悪そうな表情で俯くだけだ
「要はな…頭の回るヤツがいないんだよ
そんなヤツらが総会長になったところで…結果は言わずもがな だろ?」
確かに
いまの総会長だからこそ暴徒は鎮圧できている
いまの本校3年生じゃ正直相手にならないだろう
それは以前
総会長が両軍に干渉しなかったときに全員が痛感したことだ
いまさら意見する人間は誰もいない
「そこで…だ
単刀直入に言おう
君には次期─つまり二代目の総会長に就いてもらいたい」
「…─って えぇ!?
いきなりそんな─」
「まぁ待ちたまえよ
…君は非常に素晴らしい戦歴の持ち主だ 良くも悪くもね」
「は はぁ…」
「"戦争"を誰よりよく理解しているだろうし
とっさの判断力もあり 型破りな手段も取る
まさに私の理想だよ」
そう言って俺を頭からつま先まで舐めるように見る
ありえないくらい居心地が悪かった
「だがしかし だ
新本校1年生が総会長就任となると当然反対意見が出るだろう
一応 年上には年上なりのプライドがあるだろうからねぇ
ゴミクズ程度のプライドがね」
嘲るように言い放つ
「…じゃぁどうしろと?」
総会長は口元に笑みを浮かべてさらっと言った
「私は今回の学園祭
一切干渉をしないことにした」
「─え!?
それじゃ指揮官は!?」
「それを君に任せるんだよ
この場にいる駒はそれに納得している」
「それって…」
「そうだ!!
君がこの170余りの駒を操り 見事生徒会側の完全勝利を演出してみせろ!!
クズキレみたいなプライドしか持っていない無能で可哀相な上級生共に二代目総会長はお前以外ありえないことを奴らの腐りきった脳ミソに叩き込んでやれ!!」
「でも…っ」
「なんだ 不安か?尻込みしちまうのか?
この私が見込んだお前はこの程度か!?
貴様は役立たずな上級生ども以上のゴミクズなのか?」
「くっ…!!
そんなことは…」
半ば脅迫チックな台詞を浴びせられたじろぐ
しかし総会長は容赦なく続けた
「…当然だが
失敗 敗北はすなわち君に総会長は務まらないことを自ら公表するのと同じ
そんなんではゴミどもは君を認めないぞ?」
「そりゃそうだけど…」
さっきからあの総会長が畳み掛けるように喋っている
どこか芝居がかった―しかも圧力的な―それは迫力十分だ
「だがしかし だ
私の思うに二代目の総会長に相応しい器の持ち主は君以外いなくてねぇ…」
両手を軽くあげ
お手上げのポーズをとる
ひと呼吸置いた総会長の表情はまさに知将のものだった
「さて 君の答えを聞こう
君に挑戦する勇気は…勝利を収める自信はあるか!!」
その表情は
俺がどのような回答をするのかお見通しだった