学園祭準備編 ― 攻めも守りも
「さて…と
みんなを待つかね」
「そうだな」
今日は附属の生徒会側の全員会議
いつものメンバーだけだと無駄に広いこの部屋も狭く感じれるほどになる
とはいえ
まだ集合時間まで1時間弱ある
…さすがにひまだ
本多とは仲が悪いわけではないが話が弾む相手でもない
というか共通の話題がない
確かに俺は割とSだが
男をいじめて快楽を得るような人種じゃない
さすがにそこまで人道から外れてはいない…はずだ
「んー さすがにひまだなぁ…
俺ちょっと飲み物買ってくるよ
お前は何か飲むか?」
無難なとこを攻めてみた
…誰だいま"攻め"で反応したヤツ
過剰反応だぞ
…こほん
気を取り直して立ち上がった瞬間だった
ブツン
何か音がした
ザッ ザーーーーー
「…!?」
「なっ なんだっ!?」
それは部屋の片隅から聞こえてくる
その正体は…
「てっ テレビかぁ…驚かせやがってよ」
ふぅー と安堵の息を漏らした
「…って テレビ!?」
何を安堵のため息なんてついているんだ俺は!?
「あぁ そうだ」
本多が冷静に相槌をうつ
「このテレビって…確か壊れて…」
「あぁ そうだ
おまけにコンセントは抜いてある」
「だ だよな…」
コンセントの抜いてある壊れたテレビが急に点いて砂嵐を映し出している
しかもなかなかの音量で
…結構うっとうしい
「気味悪ぃなぁ… ブッ壊すか?」
俺がそう提案すると…
「あー ちょっと待ってよー!!」
砂嵐に混じって誰かの声がスピーカーから流れてきた
「…えっ!?」
驚きで漏れる俺の声
「あれ?ちゃんと聞こえてるかな?
あーあー マイクテストー
てすてすー
あーあー 聞こえてるー?」
スピーカーから小馬鹿にしたような声が響く
「何なんだこれ?」
「さぁ?なんのつもりだろうかね あの野郎」
あの野郎?
あ そういえば―…
聞いたことのある声だなぁ…
誰だっけ?
そんなことを考えていると
「OKかなー?
えー こほん
やぁやぁ 附属生徒会の重鎮 長谷部君と多田君!!
ご機嫌いかがかね?」
「長谷川と本多だよ…総会長…」
「…わざとだな」
そうだ 声の持ち主は学生のトップ
つまり本校の生徒会長だ
通称総会長
最高にして最低で最強の戦略家で策略家
勝利の為には手段を選ばず 他の生徒はすべて─暴徒ですら─思い通りに動く手駒として操る
まさに軍師
実際 決戦当日は本校生徒会室に引きこもり
ひとりでチェスの駒を弄り 不敵な笑みを浮かべながら戦場で戦う生徒会側の駒に指示を出している(本多調べ)
安楽椅子探偵気取りですかコノヤロ
だがしかし 誰も奴に文句を言えない
なぜなら―
いままで一度たりとも敗北がないからだ
勝率10割!!
そして開校当時から生徒会長を務めているために生徒会側の勝率も10割…と言いたいが
以前一度だけ他の生徒会役員がその態度にブチ切れたことがあり
総会長がまったく―生徒会側にも暴徒側にも―干渉しなかった行事があった
そのとき生徒会側が惨敗し 総会長の実力を改めて痛感したため誰も文句を言わなくなった
ということがあった
実力は本物だから
「ふっ 総会長殿がいったい俺達に何用か?」
いつのまにか壊れているはずのテレビの画面には収まりかけの砂嵐の中に総会長が映っていた
両肘を机につき
口の前で手を組み
あたかも偉そうにしている
本多がそのカメラ目線の目を睨み挑発するような口調で壊れたテレビに言い放つ
総会長にこんな減らず口を叩くのはきっと本多くらいだろう
「テレビに言ったって仕方なくね?」
俺がツッコミを入れると
まるでさっきの本多の台詞が聞こえたかのように盛大に鼻で笑い
いますぐ本校の生徒会室まで来たまえ
とだけ言って画面から消えた
同時に画面の砂嵐も消え
再びのブツンという音を合図に生徒会室は再びの静寂に包まれた
「…一緒に飲み物買いに行くか?」
「…あぁ そうだな」
お互い立ち上がり 附属生徒会室を後にした
総会長の第一手が
学園祭という盤上に"いま"打たれた