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6 驚かせたい

 かつて魔神と称えられ、空前絶後の力をもって多くのドラゴンを屠った最強の存在。今は剣の身に甘んじてはいるが、それが本来の俺様だ。そんな偉大なる俺様の巫女となったマリの住居は、無論俺様の偉大さに比べれば細やかではあるが、それでもそこいらの建物と比べて明らかに大きい、中々に立派なものだった。


 目的地に到着したことで馬車が止まる。マリは荷物袋から黄色い花を取り出した。


「マリ様、それは?」

「薬草。お母さんに」


 ここまで聞いた会話から推測するに、どうやらマリの母親がここの守護者のようだ。魔人の気配はないので、恐らくは魔人に近い力を有した人間なのだろう。この天才児の母親なら十分にあり得ることだ。しかし何やら体調が良くない様子。


 不調の守護者が守る街。


 マリ達の帰還に他の者達があれほど湧いていたのも納得だ。


「ただいま」


 怒られることを気にしているのか、マリがおっかなびっくりとした様子で玄関を開ける。


 するとそこに銀髪の髪を腰まで伸ばした、炎のような瞳の女が仁王立ちしていた。


「マリ! 貴方って子は! やっぱりついて行ってたのね。何でお母さんの言うことをーーぶへバァ!?」


 飛び散る鮮血。女の口から吐き出された血がマリとメイドに降り注いだ。


「マ、マリーナ様、大丈夫ですか? マリーナ様!!」

「へ、平気よ。むしろ、ゴホッ、ゴホッ。ハァハァ……ぜ、絶好調って感じーーブハァ!?」


 ピチャ、ピチャと床に血が飛び散る。マリ達と行動を共にしていた男二人が慣れた様子でその血を拭き始めた。


「お母さんこれ」

「これは、月見草? どうしたの、これ?」

「森で拾った」

「まさか……これを取るためについて行ったの?」

「ううん。それはついで」

「違うんかーい! お母さん、危うく感動で泣いちゃうとーーゴホッ、ゴホッ」

「大丈夫ですかマリーナ様! マリ様、マリーナ様にあまり突っ込ませないでください」

「……ごめんなさい」


 口を抑える手を真っ赤に染めたマリ母。ふと彼女の赤い瞳が娘の持つ剣、つまりは俺様に向けられた。


「マリちゃん。その剣、どうしたの?」

「拾った」

「拾ったって……なんか随分凄そうなんだけど」

「そうなんです。聞いてください、マリーナ様。この剣、レジェンド級武具なんですよ!」

「はい? ……え~と、魔物討伐に加えてマリちゃんの面倒を見たりと、最近ロロナちゃん忙しかったわよね。今日はもういいから、早く休んじゃって」

「いえ、本当なんですって。見ててくださいよ。マリ様、その剣、少しの間貸してください」

「……はい」


 というわけでメイドへと手渡される俺様。全員の期待のこもった視線が俺様の黒色の刀身に集まってくる。


「見ててくださいよ。凄いですからね」


 まったく、こやつは俺様に何を期待しているのだ?


 メイドは剣の切っ先を天井に向ける形で俺様を握っているが、ひょっとしてまた重くなったり軽くなったりするのを期待しているのだろうか? ふ~む。さて、どうしたものか。証明したい相手はマリの母親。俺様の所有を認めさせる意味でも協力するのはやぶさかではないが……どうせなら違うことして驚かせたい。そんな欲求がムラムラと湧いてくるのだ。だから俺様はーー


 刀身だけめっちゃ巨大化した。結果、天井に突き刺さってしまった。


「ええっ!? う、嘘!? 色んな意味で嘘ぉ!? ゴホ、ゴホ」

「わっ!? マ、マリーナ様、気をしっかり」

「お母さんにツッコミさせないで」

「も、申し訳ありません」


 そんな感じで帰宅早々てんやわんやなマリ一家。血を吐いたマリ母の容体が安定するまでその騒ぎは続いた。

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