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4 感傷

「名前違う。魔剣ちゃん」


 マリよ、メイドは別に俺様の名前をレジェンドと言ったわけではないぞ。まっ、俺様がレジェンドなのはその通りではあるのだがな。


「魔剣ちゃん?」


 気持ち良いくらい驚愕を露わにしていたメイドが、マリの言葉に不思議そうに目を瞬いた。


「私がつけた。レジェンドは可愛くない」

「ち、違いますよお嬢様。レジェンドは剣の名前ではなくて、かつて魔神様がお作りになられ、現在では魔人様のみが所有されている伝説の武器、それがレジェンド級武具なのです」

「魔剣ちゃん、すごい?」

「すごいなんてものじゃないですよ。しかもお嬢様は剣に選ばれているご様子。ただでさえマリーナ様の才能を受け継いでおられるお嬢様にレジェンド級武具が……凄い! これは凄いことですよ!!」


 メイドはマリを抱っこするなり、ブンブンと振り回す。パッと見は冷静を売りにしてそうな女であるが、実際の性格はそういうわけではなさそうだ。それに従者の割には中々にアグレシッブな行動。どうやら二人の関係は堅苦しいものではなさそうだ。


「ロロナ殿、お嬢様も戻ってこられましたが、討伐はどうされますか?」

「そうですね。偵察に向かわせた二人の報告待ちですが、追放者の脅威が消えたのなら、予定通り魔物退治を行いましょう。ただ皆も知っての通り、狼型の魔物はかなり厄介です。向かってくるならともかく逃げられると仕留めるのが難しい。なので今日は付近の地形の確認と罠の設置を重点的に行います」


 む? そういえば先日美味しくいただいた魔物も狼型ではあったが、ひょっとして……。


 男二人が戻ってきた。


「どうでしたか?」

「それが……これを」


 男が取り出したのは、マナを抜かれて干からびた狼。その中でも比較的損傷が軽い個体だった。


「これは? ひょっとして討伐依頼にあった魔物ですか?」

「特徴が一致しておりますので、恐らくは」

「見たところドレイン系統の攻撃を受けたようですが、その遺体はどこに?」

「お嬢様が斬った賊の近くに。賊の中にも似たような状態の死体がありました」

「何ですって? それではまさか……マリ様?」


 全員の視線を受けたマリはメイドの腕の中で胸を張る。そして凄いでしょと言わんばかりにピースして見せた。


「おおっ!? す、すごい、この歳で追放者達だけではなく、狼型の魔物までも倒すとは」

「やはりマリ様は天才、いや神童だ。この子は魔神様の生まれ変わりなのだ」


 俺様の生まれ変わりとは、また大きく出たものだ。しかしマリめ。魔物を退治したのは俺様だというのに、一瞬の躊躇もなく自分の手柄にしてしまうとは。その図太さ、気に入ったぞ。


 剣や術の才はあってもつまらない死に方をする者を多く見てきた。この世界を生き残るには強さだけではなくしたたかさも必要なのだ。その点、この小娘は期待できる。


 魔剣としてマリを手伝うことでマナを集めていく。この方法はかなり有効に思えた。ひとまず十年くらい試してみても良いだろう。


 神童の才に従者達は、はしゃぐだけはしゃぐと、数日かけて近隣に魔物と追放者の残党がいないことを確認。仕事が終わったことを部族に伝えた。その際、部族の何人かが幼いマリに対して恭しく頭を下げていたのが印象的だった。それはまるで幼い俺様を見ているようで、従者達の言う生まれ変わりが笑い飛ばせなくなる光景だ。いや、生まれ変わりというよりも、むしろこれは……。


 感傷にも似た奇妙な感情を覚えながらも、俺様はマリの小さな手に連れられて森を後にした。

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