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1 出会い

 動けない以上、今やる最良の方法は動かないことだ。とにかく無駄なマナの消費を抑える。幸いというべきか、待ち人は思ったよりも早く現れた。


「アニキ、これを見てください」

「……ほう。ありゃヤマ達か。随分面白いことになってるな」


 人相の悪い男達の登場。十中八九、少し前に喰べた追放者の仲間だろう。どう見ても俺様を振るうには不合格だが、この場から移動する運び手としてなら採用してもいいだろう。


「魔剣か。機能次第なら今後の襲撃が楽になるが……おい! ちょっとあれ、もってこい」

「へ? お、俺がですかい? でも触ると危ないんじゃ……」

「だからなんだよ? さっさとしろ!!」

「は、はい!」


 親玉と思われる男に怒鳴り散らされた男がこっちにやってくる。情けなくて、見目も良くない。そんな男が俺様に触れようなど、身の程知らずも良いところではあるが、ここでマナを奪っては前回と何も変わらない。俺様は大人しく地面から抜かれてやった。


「どうだ?」

「いや、あの、特にはどうにも」

「ほう。……おい、お前も持ってみろ」


 賊の親玉は何人かの部下に代わる代わる俺様を握らせる。そしてようやく満足したのか、最後になってようやく俺様を掴んだ。


「へへ。信じられねぇくらい綺麗な剣だぜ。例の部族でコイツの試し切りと行くか」


 さて、何とか移動できそうではあるが、次はどうするか。前回の追放者と仲間ならおかしなことではないが、コイツらもやはり近くにいるらしい部族を襲うつもりのようだ。マナを効率よく摂取する為に俺様を剣として扱う者が必要ではあるが、こんなチンケな男の片棒を担ぐのも何だかな、という話だ。


「見つけた」

「うおっ!?」


 と、男共が無様な声をあげるが……正直俺様も驚いた。この小娘、いつの間にここまで接近したのだ?


 まるで森の精のように何処からともなく現れた少女はまだ幼く、十にすら届いていないかもしれない。それなのにこの美しさはどうだ。輝くような銀色の髪と金と銀で構成されたオッドアイ。見るからに野蛮な男達を前にしても静かな佇まいは神秘的ですらあった。


「ア、アニキ、コイツです」


 色めき立つ追放者達。どうやら少女と因縁があるようだ。


「おいおい。マジのガキじゃねーか。テメーら揃いも揃ってこんなチビに負けたのかよ!」

「いや、そいつマジで強いんですよ」


 ふむ。察するに、どうやらこの男共あの少女に返り討ちに遭い、それを聞いた親玉が乗り込んできたというところか。ありきたりで、なんてしょうもない闘争だ。やはりこと男共は俺様を振るうに値しない。


「けっ、情けねぇ。だが……ガキのくせに信じられねーくらい整った顔してやがるな。おいガキ、俺の仲間になれ。それでこっちの仲間を斬ったことは許してやる」

「やだ」


 少女の返答は子供らしい簡潔さに溢れたものだった。


「ああっ!? 何つった? もう一回言って見ろや」

「……うるさい」


 子供相手に凄んだ結果、迷惑そうに返されて、親玉のこめかみに青筋が浮かぶ。


「そうかい。じゃぁ力ずくだ。おいお前ら、死なない程度に遊んでやれ」

「え? お、俺たちがですか?」

「他に誰がいる? こんなガキにビビってないで、さっさとやらねぇか!」


 親玉に怒鳴られた下っ端どもが、慌てて少女に襲い掛かる。さて、お手並み拝見だ。この男共が俺様を振るうに値しないのは既に嫌と言うほど証明された。ならばこの少女はどうか? 男共の反応を見るに期待はできそうだった。


 そしてそれは証明される。


 光の線が幾重にも宙を走る。男共はあっさりと目標の少女を認識から損失する。


「あ、あれ? どこ行きやがった?」

「お、おい。お前、その腕……」

「腕? いや、お前こそなんか首に赤い線がーー」

「「「あっ!?」」」


 バラバラの肉片が地面へと散らばった。


 いや、見事! 全くもって見事! 奔放に見えて、なんという洗練された剣筋か。少女に襲い掛かった男共は斬られたことにすら気付いてなかった。


「ひぃいいい!?」

「やっぱバケモンだ!!」


 少女の圧倒的な実力を前に、男共は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 やれやれ。何と情けない。


「て、てめーら! 待ちやがれ」


 この男はこの男で、役に立たない部下を怒鳴っている場合ではないだろうに。


「はっ!? ど、どこに行きやがった? 卑怯だぞ! 出てこい!!」


 怒鳴っている間に少女を見失った親玉。間抜けすぎる男が今度は部下ではなく少女の姿を探して周囲に視線を向ければーー逃げ惑っていた男共が肉片となって地面を転がっていた。


「な、なんだとぉおおお!!」


 素晴らしい! 年齢を考えれば破格と言っていい運動能力。それを支えるのはその小さな体に見合わぬ大量のマナと、それを完璧に操るずば抜けた才能。


 この少女こそ、俺様を振るうに相応しい。

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