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12 出迎え

 ビギニングと名付けられた街の朝は早い。まだ周囲が薄暗い中、男たちが集まって狩りの支度をしている。人類の天敵が跋扈するこの世界で大量の麦や野菜を安定して栽培し続けるのは容易なことではない。なので狩りは食糧調達の重要なウェイトを占めるのだ。


「狩りはね、遠出組と日帰り組に別れるの。日狩り組は周囲に危険な兆候がないかを調べるのも役割の一つだから、獲物が取れなくても決まった時間に戻って来ることになってるわ。一方遠出組は一定量の獲物を狩れるまでは住居巡回をし続ける形ね。遠出組に参加できる最小年齢が十三歳だから、マリちゃんにはまだちょっと早いわね」


 早朝の冷たい空気の中を親子が仲良くジョギングしている。どちらも普段のヒラヒラした格好ではなくて長袖長ズボンの動きやすそうな白い服を着ている。俺様が若い頃なんか、鍛錬の時は服をダメにしないよう男も女も全裸が主だったが、変われば変わるものだ。


「マリーナ様、走って大丈夫なんですか?」

「おはようございます、マリーナ様。またそうやって走っていられるお姿を見れて嬉しいです」

「本当に良くなられたんですね。良かった。本当に良かった」


 すれ違う街の者達に、いちいち話しかけられるマリーナ。そんな母親をマリがじっと見つめている。ちなに俺様は未だに腕輪だ。


「ん~? どうしたのかな、マリちゃん。ひょっとしてお母さんがあまりにも人気者でヤキモチ妬いちゃったのかな?」

「違う」

「またまた~。本当はプックラ焼けてるんでしょ」

「焼けてない」

「あっ、でも安心してね。お母さんの一番はいつだってマリちゃんなんだから」

「……私も」

「ん?」

「私の一番もお母さん」

「も~。この子可愛すぎ」


 隣に走っているマリをひょいと持ち上げると、頬擦りをするマリーナ。


「いつかお母さん以外の一番ができても今の可愛いマリちゃんのままでいてね」

「お母さん以外なんてない」

「マリちゃんはまだ若いからそう思うんだよね~。でもすぐだよ。きっとすぐに気になる男の子が……ありゃ? うちの前に誰かいるね」


 恐らくは見回りも兼ねているのだろう、マリとマリーナは街を色々なルートで三周ほどして家へと戻ったが、そんな親子を出迎えたのは玄関の前で腕を組んで立っている黒髪黒目の少年だった。


「マリちゃんのお友達?」

「知らない」


 脳天を叩いた相手のことを昨日の今日でよくもまぁ忘れられるものだな。魔神の俺様もビックリだ。


「あ~。もしもし、そこの君。うちに何か用かな?」


 アルタ少年はマリーナに抱っこされているマリを見るなり、これみよがしの笑みを浮かべた。


「会いたかったぞ、我がライバルよ。それとマリーナ様、おはようございます」

「はい。おはよう。……ライバル? マリちゃんと君が?」


 娘が知らないと言った少年のライバル宣言に首を傾げるマリ母。そして母と同じように小首を傾げるマリ。少年は特別長くもない前髪を大袈裟に掻き上げた。


「驚かれているようですね」

「う~ん。特には」

「その通りです。昨日、マリ様と俺は接戦を繰り広げ、その果てに互いをライバルと認めあったのです」

「あら、いい話」


 まだ子供なだけかもしれないが、それでもあの惨敗をそう表現できるメンタルは大したものだと思わなくもない。ちなみにマリは昨日という単語でようやく少年を思い出したのか「あっ」と言わんばかりに小さく口を開けた。


「ふ~ん。君がマリちゃんとライバルね~」


 なんだ? マリを抱えたマリ母が値踏みするかのように少年を見てる。アルタ少年は有名人のそんな視線にも動揺することなく……あっ、違う。頬が赤いし、なんか変な汗をかいてる。これは緊張してますわ。


 そんな図太いのか繊細なのか、今一つよく分からない少年に対し、マリ母はーー

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