表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

諧謔の死

作者: 梅田 絡迷



 あゝ、くだらんことばかり。申し上げます。わたくしは、死ぬるのです。さようなら。グッド、バイ。

 というような工合の茶番、猿芝居を、此度も繰り返すのである。

 春のヒ、何ともない、暮れ方のことであった。川のほとりに寝そべり、足先を川に入れ、せせらぎに一揉み二揉みされ、

「あゝ、侘しい」

 と、魅入られてしまったかのように、幾度となく声を放つ。葦のように、か弱い声である。

 撫でるような春風が、入水を婉曲的に嗤うのだ。呵責に酷く苛まれ、身が冷えてきたゆえに、むくりと立ち上がり、シテは白洲梯子を駆け下った。

 はゝ、くだらなかろう。私には、おもしろいことなど書けぬ。文学を嗜むのならば、──いや、もうよい。止めたまえ。墓穴を掘るだけだ。などと言い聞かせ、阿呆は舞い戻る。あゝ、たりねえ。刻が掌から溢れてくる。捨てよう捨てよう、かなぐり捨てよう。あの小篇、この短編、最小限まで削っておこう。

 と或る佳篇の、パスティーシュを見つけた。私も、その佳篇のオマージュを書きしたためるつもりであった。無論、慄いた。まあ、このことは一旦忘れよう。

 ベンチに座る少女、か弱そうな青年へ、

「何をしているのよ。貴方は男でしょう? も少し堂々としたらどう?」

 か弱き少年、勇ましく、

「君だって、もっと、女らしく、……」

 言いかけて、口をつぐんだ。

 言論の統制が、やって来るのではなかろうか。世間とかいう、正しい人間の方々のお目を、かいくぐらなければ、なりませぬ。逃避行だ、逃走だ。そうでもしなければ、先に待つのは、鉄鎖の呪縛、縊死である。さあ、叫べ! 死ぬる覚悟を握りしめろ。

 言葉はナイフと同じようなものだ。取り締まられても、何一つおかしくないが、必要なのだ。ステーキは、素手で掴み、裂きたくなかろう。

 因循姑息だ、と卑しめられようと、どうだってよい。現代の失格者へと成ろうではないか。

 私のパスティーシュなど、冒涜にしかなり得ない。死のうか。俗世からの逃避行。

 M町のこの川は、殆ど枯れてしまった。

 春のひ、薫る、暮れ方のことである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ