諧謔の死
あゝ、くだらんことばかり。申し上げます。わたくしは、死ぬるのです。さようなら。グッド、バイ。
というような工合の茶番、猿芝居を、此度も繰り返すのである。
春のヒ、何ともない、暮れ方のことであった。川のほとりに寝そべり、足先を川に入れ、せせらぎに一揉み二揉みされ、
「あゝ、侘しい」
と、魅入られてしまったかのように、幾度となく声を放つ。葦のように、か弱い声である。
撫でるような春風が、入水を婉曲的に嗤うのだ。呵責に酷く苛まれ、身が冷えてきたゆえに、むくりと立ち上がり、シテは白洲梯子を駆け下った。
はゝ、くだらなかろう。私には、おもしろいことなど書けぬ。文学を嗜むのならば、──いや、もうよい。止めたまえ。墓穴を掘るだけだ。などと言い聞かせ、阿呆は舞い戻る。あゝ、たりねえ。刻が掌から溢れてくる。捨てよう捨てよう、かなぐり捨てよう。あの小篇、この短編、最小限まで削っておこう。
と或る佳篇の、パスティーシュを見つけた。私も、その佳篇のオマージュを書きしたためるつもりであった。無論、慄いた。まあ、このことは一旦忘れよう。
ベンチに座る少女、か弱そうな青年へ、
「何をしているのよ。貴方は男でしょう? も少し堂々としたらどう?」
か弱き少年、勇ましく、
「君だって、もっと、女らしく、……」
言いかけて、口をつぐんだ。
言論の統制が、やって来るのではなかろうか。世間とかいう、正しい人間の方々のお目を、かいくぐらなければ、なりませぬ。逃避行だ、逃走だ。そうでもしなければ、先に待つのは、鉄鎖の呪縛、縊死である。さあ、叫べ! 死ぬる覚悟を握りしめろ。
言葉はナイフと同じようなものだ。取り締まられても、何一つおかしくないが、必要なのだ。ステーキは、素手で掴み、裂きたくなかろう。
因循姑息だ、と卑しめられようと、どうだってよい。現代の失格者へと成ろうではないか。
私のパスティーシュなど、冒涜にしかなり得ない。死のうか。俗世からの逃避行。
M町のこの川は、殆ど枯れてしまった。
春のひ、薫る、暮れ方のことである。