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その2 お次はアクセサリーを選びましょう

 ドレス以外のティアラや小物は隣の部屋にあるので、一旦衣裳部屋から出て移動しないとならない。

 建物の構造上、入口から来た入館者と鉢合わせてしまうのが地味に恥ずかしかったりする。


『わ、すごーい、ドレス着てる!』

『あれでしょ、貸し衣装やってるんだっけ? 私もやりたいー』


 めちゃくちゃ反応して来るのはやはり若い女の子達だ。

 あまり注目されるとまだ『なりきれていない』私は旅先のテンションが素に戻ってしまいそうになる。


(ダメよ風子、理性は捨てるの! 私は悪役令嬢! 悪役令嬢になるのよ!)


 その点綸子は既に『完成』している。

 うっすらと笑顔を浮かべて長い裾を引きずりながらゆっくり歩く姿は、このまま公会堂の宣伝動画に  使ってもいいんじゃないかと言うくらい周囲の雰囲気に馴染んでいる。


「ふーこ」

「え、どうかしたの?」


 少女は小声で囁いた。


「……さっきからスリッパ脱げそうなんだけど」


 こんなナリをしていても、言う事はやっぱり綸子である。


「はい、それではこちらの中からお好きなだけ小物をご利用ください」

「わ、ティアラだ!」


 気が付いたら少女はもうティアラのコーナーで熱心に物色している。


 帽子にアクセサリーセット、ブーケ、あとなんやかんや。

 普通に暮らしていたら使わなそうな小物が部屋を埋め尽くしている。


「私これにしようかな」


 綸子が選んだのは金色の細めに編み込んたティアラ。


 スワロフスキーだろうか、小さく輝く光が全体を星のように飾っている。

 ミルクティー色の髪にしっくりと馴染んでいる。


「いいね、なんかリンコらしいって感じ」


 こんなに可愛いお姫様がいたら、私も気合を入れて悪役令嬢になるしかない。

 しかし深みのある青のロングドレスに似合う悪役令嬢っぽいティアラって----?


「ねえ、これは?」


 悩んでいる私の前に綸子がブラックダイヤっぽい石をあしらった銀色のティアラを出して来た。

 あとちょっと黒い石が多いとハロウィンっぽくなりそうだけど、これならギリギリ悪役っぽい。


「どう? 合う?」

「合う合う! 怖いお姉さまって感じがする!」


 ぐ。

 自分で悪役令嬢を目指していたくせに、綸子にそう言われるとビミョーに凹む私。


「あー、お似合いですねお二人共」


 お姉さんの笑顔が優しい。

 これ絶対王立学園の卒業パーティーで皇太子に振られる直前ってフラグなんですが。


「あとはブーケもありますし、ネックレスとかもどうですか?」


 10分後、綸子はピンク系の小さめのネックレスにイヤリング、そしてピンクの薔薇のブーケという格好で現れた。


 私はブラックダイヤっぽい三連ネックレスに大きめのイヤリング、黒レースの扇子。


「カンペキだね!」

「……そうかな?」


 並ぶと確かに正反対ではあるけど双子コーデだ。

 うん、想像していたより着れてる----と思いたい。


「では、お支度が整ったようですので、今から貸し出しのお時間をスタートさせていただきますね」


 お姉さんが定期券くらいの貸し出しカードを渡してくれる。


 明治のドレスはポケットがないので、ブーケとスマホと一緒に持って、衣裳部から廊下に出る。

 あ、今もドレスってポケットないんだっけ?


 結婚式とかしばらく呼んでも呼ばれてもいないから忘れちゃった、テヘッ。


「で、どうする?」


 綸子が聞いて来る。

 さすがに人通りの多い廊下は歩きにくいので、自然と裾をたくし上げる格好になる。


「貸出時間30分くらいだよね? だったらゆっくりできる二階の大広間とかバルコニーに行ってみない?」

「いいね、この格好で海とか見たい。ロマンチックじゃん?」


 意見がまとまったので、早速移動である。


 が、この移動がとにかく大変なのだ。


 廊下を歩く分にはまだいいのだが、古い建築の階段をビニールのスリッパで上り下りするだけでもひやひやするのに、かなりの重量のあるドレスを着て上るのは骨が折れる。

 何かの運動か?


「わ、リンコ裾踏んでる!」

「ごめんごめん!」


 一人ずつ階段を上ってもこの騒ぎだ。

 これ昔の人って結構階段から落ちて死んでたんじゃないの?


 この手のドレスを踏んだりして破いてしまったらどのくらいかかるんだろうとか、そっちじゃない方の明治時代に思いを馳せながら、私はようやく二階へと到着した。


「疲れた? 大丈夫?」


 後ろから上がって来た少女に手を差し伸べると、にへへと笑って掴んで来る。

 ほんの少しだけ手が熱い。


 ずるいよ。

 こんなお姫様がいたら、私は悪役令嬢になり切れない。


「じぁあ、まずは海を見ようか」


 早く風に当ててあげたくて、私は綸子の手を掴んだままバルコニーへと向かう。


 さぁ、二人だけの舞踏会の始まりだ----。


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