作戦会議 失敗!
なんだかんだで週末はやって来る。
土曜日、洗車と給油の後で、私達はとある和風レストランの小上がりで二人して唸っていた。
函館旅行のプランの方向性を固めるために----ではなくて、そのメニューの豊富さに悩んでいたのである。
確かにウチの会社のおじさん達の言う通りだ。
一応寿司がメインとはなっているが、入口に足を踏み入れた途端、色んな料理の匂いがして私達は顔を見合わせた。
「ステーキがあるよ?」
「ありますねぇ」
メニュー表にだけではない。
小上がりの壁にもメニューがぎっしり。
「かにグラタンいいなぁ……」
綸子が、とろんとした目になる。
「甘海老とリンゴのタルタル……って、それは和風なのか?」
私の悩みなど全く眼中にない様子でメニューを食い入るように見詰めている。
「豚串もある……はぁ……どうしよう、こんなんメニューの宝石箱やん」
これでもあの道内随一の大企業ロータスグループの令嬢なのだ。
ニートだけど----。
(とはいえ、実際には実業家な訳だから私が雇われているんだけどね)
私達の関係は説明しようとするとなんだか必要以上にややこしくなりので、周囲には年の離れた友達という事で通している。
(ま、そんな事は今更いいか……難しい話は後で考えよう)
ご飯は美味しく食べるのが一番だ。
奥の方には寿司専用カウンターもあるので、もともとはお寿司がメインだったのだろう。
宴会や法事もできるとかで、二階もあるし、確かに広い。
ここは札幌に隣接する工業地帯。
工場と倉庫が多く、家族連れに混ざって作業服の人達もちらほらいる。
高速のインターチェンジも近いから、この辺りを仕事場にしている人達にとっては、食事と言えばここ! みたいな感じなんだろう。
メニューが多いのも飽きが来なくて良さそうだ。
「じゃあ、私はサービスステーキにする!」
おう、昼間から元気で何より。
「私は穴子天丼にしようかな」
「あ、玉子巻きあるよ? 食べない?」
綸子が目ざとくメニューを指差す。
玉子巻き----ありそうでなかなかないんだよねこれが。
「いいね、二人で半分こしようか」
お蕎麦くらいでいいかというつもりで入ったのに、広い店内の活気の中にいると、なんだかガッツリ食べたくなってしまう。
食欲って、不思議だ。
広い窓から見える駐車場には車がどんどん入って来る。
窓のすぐそばに停めたピカピカのチャンプ号を眺めていると、
「おお、もう来た」
そして注文して五分ほどで、頼んだものがやってくる。
このスピードも働く人達の人気の秘訣なんだろうなぁ。
「あはは、見て見て! 牛のお皿にステーキが乗ってる!」
牛型の鉄板の上でジュウジュウいっているステーキを見ながら綸子が笑ってる。
ツボに入ったらしい。
「なんかかわいそう……でも可愛い」
「……そう?」
ステーキに付いているお味噌汁は私のと同じエビの頭入りだ。
あくまでも和風レストランなんだぞという矜持のようなものが感じられる----いや、知らんけど。
でもエビの出汁のお味噌汁は確かに美味しい。
漬物も美味しい。
穴子の天丼も、穴子がふっくらしていて美味しい。
穴子二本に海苔の天婦羅、あとシシトウがいいアクセントになってる・
(ふむ、やっぱりドライバーさん達の情報は侮れないな……)
美味しい店は運送配送の人に聞けとはよく言ったものだ。
食後のお茶も美味しい。
「あとね、隣のケーキ屋さんに行きたいんだけど……」
「別にいいよ?」
そう言って連れていかれた先で、綸子は土鍋に入ったプリンを買って来た。
「はい、ふーこのソフトクリームだよ」
言いながらもう自分のを舐めている。
函館でこのペースについていけるのか、少し不安になる。
「ムギさん何か言ってた?」
いきなり聞かれて私は噎せそうになる。
「な、なんで?」
「いや……ふーこって、真面目だからちゃんと報告とかしてるんだろうなって」
真面目というか、他人様のお嬢さんを預かるんだからそのくらいはしておかないと。
そう言ったら、「そういうとこがふーこなんだよね」と何故か嬉しそうに笑った。
「ダメかな?」
「褒めてんの!」
そんなわけで、函館旅行のプランはプの字も出る事なく私達は満腹で帰途に就いたのだった。
大丈夫なのか、私----!?
土鍋プリンは美味しかった。




