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ハダカのオツキアイ、します!

心配だったけど、ホテルに着く頃には綸子の酔いも覚めていた。

市電の中で少し眠らせたのが良かったのか。


(お酒の種類で酔い方が変わるのかな……? 全く分からん)


 前のたこ焼き屋のキス事件の時は、確か缶チューハイで、負ぶって家に帰ってからもベロベロのままだったうえに自分でブラ脱ぎ始めてたし。


(ああいう酔い方は……心臓に悪いわ)


 そのときのまだほんのり温かなブラジャーの感触が甦る。

 綸子の体温と体臭と柔軟剤の香りの混ざったそれは妙に生々しくて----。


 いけない、もう駅だ。


「降りるよ」

「……うん」


 目をこすりながらも少女は素直に座席から立ち上がる。


「帰りそこのセブン寄っていい?」

「いーけど。お酒はもう買いませんからね」


 ちょっとだけきつめにそう宣言したら、「えっと、うまい棒をかうだけだからさ」と上目遣いになる。


「ホント? このあとお風呂入るんだから、どっちにしてもアルコールはもうだめよ」

「はーい先生」


 そんでもって綸子がうまい棒を物色している間に私はこれからの予定と明日の予定を頭の中で整理したりして、札幌とさほど変わらない店内をぐるっと一周した。


「さっきはゴメンね、ふーこっち」

「別に飲ませちゃった私が悪いんだし、そこで柄にもなく気を使って語尾に変なモノ付けるくらいなら他で気を使っていただきたいのですが」


 うまい棒以外にも何やらガサガサ買い込んだ袋を下げて、綸子は「柄にもなくは余計だと思う……」と不服そうに呟いた。


 ホテルへ向かう道はもう流石に誰も歩いてはいない。

 たまに地元のお店の小さなトラックが通り過ぎるくらい。


 そんな細い道を並んでで歩いていたら、突然綸子が堰を切ったかのように喋り始める。


「さっきはホント迷惑かけちゃってゴメン!」

「いいよ別に、って急にどうしたの?」


 少女は一呼吸おいて、私の前にタタタッと駆けて来た。


「まぁ私が悪いんだけどさ、悪いんだけどさぁ……今だって一応私達同棲中ではあるけど、夜寝る時は別々の部屋じゃん? 私が夜中に色々やるからしかたないんだけど、でも……」


 そこで、ぐっと、何かを堪えるような顔になってレジ袋をブンッと振り回して叫ぶ。


「ゲームも仕事も全部終わって布団に潜った時に、隣にふーこがいないのって、ホントはすっごく寂しいんだよッ!」

「……そ、そうなんだ?」


 正直この言葉は意外だったので、私はなんと応えたらいいものかちょっと困った。

 好きで別々に寝てるんだと思っていたから、それはまぁ綸子の性格からしてそういうもんなんだろうなで終わっていたし。


「だからすごくこの旅行楽しみにしてたの! 朝から夜までずっと二人でいられるから! ふ―こは大人だから分かんないかもだけど!」


 そこまで言って、やっと気が済んだのか綸子はまた私の隣を歩き始めた。


「ゴメン……リンコの気持ち、私全然気付いてなかった」

「いや、別々に寝るのは私が言い出した事だからさ、それはいいんだけど……うん」


 でも、それにしては私が綸子のように考えた事は正直なかった。

 朝ご飯は一緒だし、夜ご飯も一緒だし、日曜日はドライブするし、土曜日も何故か散歩に付き合わされたりしてるし----キスだって、毎日してる。


 キスは、してる。

 それ以上はしてないけど----。


(そっか、考えてみればそこまでしているのに一緒に寝てない方が世間的には珍しいよなぁ……)


 今度は私が考え込んでしまう番だった。


 私の「好き」と綸子の「好き」は重なっているようでずれている。


(私は、ずっとこのままでもいいと思ってたけど……この子はもっと私よりも「好き」の度合いが違うんだ……)


 そう考えたら、急に胸の中がぐちゃぐちゃになる。


 そうか、綸子はそんなに私と一緒に居たかったんだ。

 だけど私は別に寝ようって言われて、それ以上踏み込まなかった。


(本当は、一緒に寝ようって言うのを待ってたのかな?)


 うわ。

 なんか私、すごい薄情かもしんない。


(ゴメン……同棲してるのに寂しい思いさせるとか、そんなの恋人って言えないじゃん……)


 今聞かれたら、ちゃんと「好き」って自信を持って言えない。

 目を見て、その瞳の奥を覗き込んで「好き」って言える自信がない。


「ふーこ? ふーこ? どしたん、急に難しい顔になって?」

「あ、ごめんごめん、休み終わって会社に出たら仕事めちゃくちゃ積んであったら嫌だなって、急に思っちゃってさ」


 慌てて誤魔化して、綸子に笑いかける。


「いやぁ、旅行に来てまだ一日目なのにこういう事考えちゃうとダメだよね」

「そうだよ、私の事放っておいて会社の事とか考えないでよね!」


 わ、嫉妬された。

 嬉しいけど、今はフクザツだ。


(……ま、今の件は後でゆっくり考える事にして、温泉に入ってスッキリしよう)


 ホテルの周りもほとんど人がいない。

 フロントは静かだ。


「皆まだ帰って来ないのかな?」

「うーん、夕食食べたらそのまま夜景見に行く人が多いからね。あと近くに地ビールレストランもあるし……繁華街のある五稜郭の方に行く人もいるし……ね、だから今の時間が温泉空いてるよ」


 そう言う私の言葉に綸子は「そっか、温泉があるんだっけ」と呟く。

 妙にテンションが低いのがちょっと気になったけど、流石につかれたんだろうなと思いながらエレベーターに向かう。


 部屋に戻ると、綸子は当然のようにソファでうまい棒を食べ始める。

 一緒に買ったソフトカツゲンの紙パックは大事そうに冷蔵庫に入れている。

 

 私は備え付けの水を飲みながら明日の天気をチェック。

 快晴とは言えないけど今日と同じく青空が広がりそうだ。


「ね、明日の夜景綺麗そうだよ」

「やった、一番愉しみにしてたんだよねー!」


 無邪気に喜ぶ綸子は、本当に修学旅行生みたいに楽しそうだ。


(やっぱり来て良かった……)


 そう思いながら、「ねぇ、それじゃあそろそろ温泉行こっか?」と聞いてみる。

 途端に、綸子はビクリとなる。


(え、何か変な事言った?)


「あ……へ、部屋にもあるよね、シャワー?」


 急にわたわたした声になって綸子が入口横のバスルームを指す。


「え、温泉もしかして嫌だった!?」

「あ、いやその……温泉、やっぱり行ったことないから、ちょっと……」


 自分でもなんと言えばいいのか分からない、みたいな感じで少女はさっきまでの勢いは何処へやら、急にモジモジし始める。


「ふーこは、いいの? 裸になるんだよ?」


 いやそんな真顔で聞かれても----。


「大丈夫だよ。今なら人少ないし、それに外の露天風呂だと灯篭の灯りみたいなやつしかないから、近くまで行かないと顔も分からないくらいだし」

「……露天風呂、一緒に入ってくれる?」


 私は笑った。


「当たり前じゃん、一緒に入れるとこ選んだんだから」

「そうなの?」


 丸い目で数秒私を見詰めて、少女は私に抱き付く。


「これって、私とふーこが裸のお付き合いするって事でいいんだよね?」

「なんか今更感はあるけどね」


 言われてみればそうなんだけど。


(一緒にお風呂か、やっぱりドキドキするな……)


 こうして私麦原風子と蓮見綸子は同棲して数か月を経て、ついに一緒にお風呂に入ることになったのだった。

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