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うれしはずかしチェックイン!?

この時間だと旅行客も次第に増えてきた。

市電乗り場に向かう人やお土産屋さんの袋を持った人達の姿も目立つ。


「おー、なんかすごい観光地っぽい感じゃない?」

「うん、やっぱりウキウキしちゃうよね」


 カモメが鳴き交わす青い空の下で、うっすらとした奇妙な連帯感に包まれるようにして、誰もがどこか明るい顔で行き交っている。


「なんか不思議だよね」

「何が?」


 少女はポツリと呟く。


「今までだったらさ、あんな風に大きな荷物をもったり誰かと歩いてたりする人を見ちゃうと、自分以外はみんな幸せな気がしてダメだったから……」

「……今は違うの?」


 多少はね、と小さく答えが返ってきた。

「……どんなに幸せに見えてもそうでない人もいるんだって、頭では分かってる。でも……まだその実感が湧かなくて、今も目の前の人達がなんだかすごく遠くに見える時があるんだ」


 それは単なる行楽地の雑踏でふと感じる、特有の感傷じみたものに過ぎないのかもしれない。


「だから自分で来たいって言っておいてなんだけどさ、なんか、まだこういうの慣れなくて……ごめんね」

「……まあ、うん、生きてたらだいたい一度はそんな気分になるものよ。私もそうだった訳だし」

 

 でも、綸子のその気持ちと私の気持ちはまた全然違うものなんだろう。

 だけど私はズレた答えでお茶を濁すしかない。


「……さ、まずはともあれチェックインよ。せっかくなんだから楽しい事だけ考えようよ」

「……うん」


 タクシーはあっという間にロータリーを抜け、海沿いの橋を渡る。

 この橋もドラマとかでよく見るやつだ。


 ホテルは遠くからでもすぐに分かる高さだった。

 タクシーなら五分、歩いて十五分くらいという感じだろうか。


「ここ?」

「そう、結構いいでしょ?」


 日差しの明るい車寄せから入ると、ホテルのロビーは一転して照明を抑えたシックな雰囲気だった。

 ロビーにコの字に置かれたソファに綸子を座らせ(荷物も持たせて)チェックインに向かう。


(えーと名前……あ、そうだった、この場合は麦原風子と綸子でいいのか)


 鴨島さんの希望によりこの旅行中は私と綸子はいとこ同士の気の置けない二人連れ、という設定だ。

 そんな事言われても雰囲気があまりに違いすぎるので、私はどうしても慣れないんだけども。


 久し振りのチェックインはあっさり終わり、鍵を渡された私は綸子の所に戻る。

「ね、どうだった?」

「何が?」


 いやだからさ、と綸子はちょっと身をくねらせるような格好をする。


「ちゃんと麦原綸子って書いてくれた?」

「まあ鴨島さんの指示だからね」


 あえてそこを強調して答えたら「それだけ?」とかぬかしやがった。

「なんかこう、ときめきみたいなものなかったの?」


 いや別にただのチェックインだし----。


「だってさ、初めての二人きりのお泊り、それもホテル……何も起きないはずはなく……」

「いいからさっさと部屋に行くわよ」


 何を企んでいるのかは知らないけれど、綸子はこれでかなりハイテンションっぽい。

(なんとなく分かるようになってきた)


 でも、ちょっと荷物重いんですけど、などと言いながら微妙にしなだれかかってくる綸子の体温は、それほど嫌ではない。


「ほら、ちゃんと歩く」

「はーい」


 しかしこれでやっとチェックインが終わった段階なのだ。

 これから何が起こるのか----楽しみ半分怖さ半分、私は部屋のキーを握り締めてエレベーターに乗り込んだ。

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