観覧車に乗ったらする事は何でしょう?
観覧車には私と綸子しか乗っていない。
気持ちぎこちない動きで、ゴンドラはゆっくりゆっくりと上がっていく。
小さな遊園地に満ちていた子供達の歓声、遊具の駆動音、音楽にアナウンス。
全ての音が曖昧に混ぜ合わさり、松の木の葉擦れの音と共に私達を包む。
(あ、そうか椅子が剥き出しだから外の音が直接聞こえるんだ)
「へへ、あの新幹線なんか遅くて面白い。新幹線なのに」
観覧車のあるエリアを囲むようにして、子供サイズの電車の乗り物が楕円の軌道を走っている。
ちゃんと踏切もあって、小さい子達にはそっちの方が人気のようだ。
「アレは乗らなくていいよ」
綸子が照れたようにもじもじしながら笑いかけてくる。
「乗らないわよ」
いやこれ照れてるんじゃないな、この剥き出しのゴンドラがちょっと怖いのか。
だけど、このゴンドラじゃないと楽しめない事もあるのに私は気付く。
「あ、リン! サングラス外してみて? あっち海だよ、見える?」
「わ、ホントだ! こんなに低いのに見えるんだ」
青空の下、右の方角に違う青が見えて来た。
左側は函館山。
山頂に日差しを浴びて白く輝いて見えるのはロープウェイの駅とケーブルだ。
そう。
函館の地形をギュッと凝縮したような風景が、ここからなら見えるのだ。
(函館のこの感じ、南に来たんだなって実感する……)
ゴンドラは夕方近の濃くなり始めた日差しの中で天辺に達する。
「!?」
綸子が顔を近付けて来る。
「ほら、観覧車に乗ったらキスするんでしょ?」
「ん……!?」
後ろに誰もいないからいいけど、ドキドキが止まらない。
と、思ったら、繋いできた綸子の右手が熱い。
なんだ、自分も緊張してんじゃん。
「こういうの、もっと小さいときに乗りたかったな」
そう呟いてから、「でも、初めてがふ―ことだからいっか」と笑う。
嬉しい事を言ってくれるじゃん。
青い空。
白い雲。
夏の色になっている海。
松の緑。
ほんのり香って来る松脂の匂い。
ひっくり返したおもちゃ箱のような沢山の色の乗り物達。
ぐるぐると回る小さな北海道新幹線。
目をキラキラさせながら綸子は一心に周囲の景色を見詰めている。
人って、こんな漫画みたいに目をキラキラさせる事ってできるんだな、思いながら横顔を見てたら、
「ふーこ、凄い楽しそう。子供みたい」
「は?」
何故か私が笑われてしまったのがちょっぴり悔しい。
ま、いっか。
この子が笑うのを見てた私も笑っていたのが、何だか恥ずかしいのと嬉しいのと。
なんて、気が付いたらもう地面がすぐ目の前だ。
「はい、おかえりなさい」
係員のお姉さんが降ろしてくれる。
「なんだかあっという間だったね。でも景色綺麗だったね」
「うん」
綸子もちょっとぼーっとしている。
「……楽しかった」
「それなら良かった」
何度も振り返るようにしながら観覧車を見上げ、綸子は階段を下りていく。
その後ろを幼稚園くらいの子供達が歓声を上げながら走っていく。
少し速度を緩めて私は後ろからついて行く。
函館公園にはミニ動物園もあって、何か南国の鳥っぽい声が「ケーッ」とか聞こえてくる。
次はそこにも行こう。
「えと、ここからまたちょっと歩くね、大丈夫?」
「うん、全然大丈夫」
さて、次はいよいよ本来の目的地である函館八幡宮だ。




