カフェで寄り道ッ!
旧イギリス領事館から函館八幡宮までは、市電に乗れば五駅分くらいだ。
とはいえ、函館の市電は函館山エリアは駅と駅の間が短く、場所によっては駅のホームから次の駅が見えるくらいの距離感である。
なので私は、行きは歩き、帰りは市電と決めていた。
「五つも? 結構歩くなー」
ちょっと不安そうな顔になる綸子。
「大丈夫、途中で休憩するから」
「途中っていうと……、あ、函館公園?」
函館公園内のこどものくには、日本最古の観覧車で有名だ。
綸子がどうしても乗りたがっていたやつである。
「函館公園行く前にもパフェ食べるし、のんびり歩けばいいよ」
「うん!」
パフェと聞いてさっそくHPが回復したようだ。
って、五分前にアフタヌーンティーセットを平らげてこの反応である。
(腹ごなしという概念がないんかいコイツ……)
まぁ、アラサー女の私とこの子じゃ燃費も全然違うから、そういうもんなんだろう。
まずは十字街の駅に向かって、ぶらぶらと歩く。
心配したより日差しは強くなく少しだけ吹いている風が気持ちいい。
綸子はさっき買ったお土産の袋を下げて嬉しそうだ。
しかし何故に函館土産に歯ブラシ立て?
「だって、漫画とかだとよくカップルが同棲したら歯ブラシを同じコップに入れてたりするじゃん?」
「まー、たまにあるけど」
私の時はやらなかったけどね、と心の中で呟きつつ私は相槌を打つ。
「で、今の私達って付き合ってるけど部屋は別でしょ?」
「別ですね」
私は昼型っていうか会社勤めだし、綸子は夜型でしかもパソコンがベッド周りにあるという生活スタイルなので、カップルと言いつつ、いまだに同じフロアの別々の部屋で寝起きしている。
「……だからさ、気分だけでも同じ歯ブラシ立て使いたいかな、って」
う。
めっちゃ可愛い事言うじゃん----。
あの家の花綺麗だねとか、今のタクシー牛柄だったけど見た? などとたわいもない話をして、時々綸子が写真を撮ったりしながら歩いていたら、そろそろ次の目的地だ。
「あー、ここかぁ」
古民家っていうのか土蔵と言うのか、とにかく古い建物を使った喫茶店だ。
道路に向かって両開きになっている土蔵の窓のくすんだ朱色が灰色の壁によく合っている。
「ここのね、ほうじ茶パフェが食べたかったんだ」
「ほうじ茶パフェ……そういうのもあるのか」
私もそれにする事にした。
二階席に案内されると、一階のカウンターとキッチンが見下ろせる席に座った。
スタッフは皆女性で、忙しそうに作業している。
土蔵だったからか、空気が心なしかひんやりしていて、落とし気味の照明に照らされた古い壺や置物を 座布団に座り、ぼーっと眺めていると、なんだかタイムスリップしたような気分になって来る。
途切れ途切れに聞こえるお客さん達の話し声に、時折キッチンでカチャカチャ何かを混ぜる音。
(ウチの近くにもこういうお店あったらいいのになぁ)
頬杖をつきながらそんな事を考えていると、
「アンニュイなふーこ、いただき!」
いきなり撮られる。
使い方を覚えたらとにかく何でも撮りたくなったらしい。
「さっきの牛柄タクシーまたいないかな、今度は取るんだ」
「モーモータクシーなら、駅前とかで結構走ってるからまた見れるんじゃない?」
そう言うと、「さすがふーこ、詳しいねぇ」とねっとりした返しが来た。
「なんか焼けちゃう」
「焼くような男じゃないから……私のマンションは焼けたけど」
笑えない冗談を言ってたら早速パフェが二つ来た。
「うふふ、お揃いだぁ」
だから一々撮るなっつーの。
林屋パー子か?
丁寧に作ったのが分かるパフェは、ほうじ茶の味がしっかりしていて、想像よりも美味しかった。
普段なら頼まないメニューなのにこの子といると勢いで頼んでしまったけれど、こういう出会いもいいものだ。
しばしパフェの余韻を堪能した後、私達は店を出る。
次に目指すのは函館公園----のこどものくにだ。
ゆっくり歩いて約10分。
函館八幡宮の御朱印帳をゲットするまでは、もうちょっとだけかかるんじゃ。




