ドラゴンジム
ある日のこと、僕は、近所にできた新しいジムへと向かった。
ポストに入っていたチラシを見て、なんだかおもしろそうだな、と思い、興味本位で店ののれんをくぐったのだった。
しかし、このときの僕はまだ知らなかった。
これがすべてのはじまりだったのだ……
のれんをくぐると、凄まじい怒号が店内に響く。
「背筋を伸ばせ! そして真っ直ぐ拳を突き出せ!」
客たちが、いっせいに声を出して拳を前に突き出す。
「ウワァチャァァァ!」
「いいか、これがパンチだ! わかったか! このウジ虫どもめぇがぁぁ……」
「押忍っ!」
間違えて空手道場に入ってしまったのだろうか。
「いらっしゃいませ!」
僕を迎えたのは漢服を着た、可愛らしい店員だった。
「あぁ、あのぉ……僕はじめてなんですけど……」
「あ、そうですか、それならまずはじめにカタを選んでくださいね」
「カタ?」
「そうです、カタです。基本は……そうですねぇ、水に雷、火に獣、あとは……」
「ねぇ、きみのカタは?……きみの!」
「わたしと同じカタがいいんですか? でも……」彼女はなぜか顔が、ぽわっとほてり、上目遣いになった。
「大丈夫です!」
「……わかりました! じゃあ、いっしょに頑張りましょうね」
「はい!」
「世界目指して!」
「せ、せかい?……」
「それでは個室にご案内いたしますね」
「こ、個室!!」
「特別なカタなので……あ、それと、成人されてます? それと肝臓はお強いほうですか?」
「えぇ、問題ありません!」
「よかった、あははっ!」
僕は広い座敷へ案内された。部屋にあるのは白い壁と畳だけ。
彼女は酒瓶をもってきたかと思うと、扉を閉め、ラッパ飲みしはじめる。
「なにそれ……」
「う、う、う、ぷはぁぁ、え? 酒だけど」
「う、うん……えぇっと……」
「ほら、飲んで」
「えっ? そのまま? 間接キス……」
次の瞬間、彼女の顔はまた真っ赤になる。
「早く飲めっつってんの!!」
「あっ、はいはい!」
慌てて僕は瓶を受け取った。
そのあと、二人は座敷にあぐらをかいて酒をごくごくと飲みはじめる。
なんだこれ。
彼女は、酔いが回りはじめると、体をくねくねさせて立ち上がる。
「ぐえ、へ、へ、よぅし、貴様に伝授してやろう、これが先祖伝来のひっ――う」
「ちょ、や、やめてぇぇ!」
「ウワァチャァァァ! ウワァチャッ、ウワァチャッ、ウワァタタタタタタタタタ!」
これが、僕と彼女の馴れ初めである。
そして僕は、彼女と世界を目指すことになった。