第56話 よくある結末
「というわけで、グレイトモスキートの毒液を加工した、巨乳になる魔法薬がここに」
「素晴らしいですね」
数日後。
私とリルルは、町の魔法薬屋さんにグレイトモスキート毒液を多めに渡すことで、巨乳になる薬を無料で作ってもらった。
今、私とリルルは二人きりで、彼女の家の彼女の部屋にいる。
共に貧乳に悩む者同士、私たちは厚い友情で結ばれたのだ。
同じ目標に向けて苦難を乗り切った仲なのだから、仲良くなって当然というわけ。
「ユキコさん、これが薬に付随していた説明書です」
「説明書どおりにしないとね」
間違った使用方法で効果がなかったら、それこそ目も当てられないのだから。
「なになに……『本日は、巨乳薬をご購入いただきありがとうございます』か……まずは挨拶からなのね……」
「ユキコさん。次ですよ。次」
「そうね。『ええと……まずは、薬に同封している針がちゃんと付属しているか、ご確認をお願いします』。あるわね」
「針ですか?」
針?
なにに使うのかしら?
「次は……『針は使用前に熱湯などで煮沸消毒をするか、火で炙るなどして確実に消毒をお願いします』。針を刺すの?」
「ちょっと不安になってきました」
多分これは、薬の効果を胸の奥まで行き届かせるのに必要なものなのよ。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
ちょっとくらい、痛いのは我慢しないと。
「『針にたっぷりと薬を浸し、これを胸の各所に刺していきます。なるべく胸の奥にまで浸透させてください。すると、胸が腫れてきます。この状態を維持すれば、あなたも巨乳に……』できるか!」
「騙された!」
原料が毒液の時点で気がつくべきだった!
ずっと胸が腫れた状態だから巨乳になっただなんて、そんなの詐欺じゃないの!
「だから、グレイトモスキートの毒液って安いんですね……」
事実を知れば、使用者がいなくなる魔法薬……。
需要がないから、その原料が安くて当然というわけね。
他の使用目的でも需要が少ないみたいだから……。
こうして私たちは、なによりも求めていた巨乳への道を一旦諦める羽目になったのであった。
でも、どこかに副作用なしで巨乳になる魔法薬があるはずよ!
いきなりこの世界に飛ばされ、元の世界に戻れないのであれば!
それくらい見つけられなくてどうするのよ!
きっと、見つけてみせるから!
「ユキコさんたちは、もうこの町を出て行かれるのですか。寂しいですね」
「お店が再開できるまでの間、新たな食材を探して新しい料理を作り、新メニューの候補にするのが旅の目的だから。またこの町にも遊びに来るわよ」
「その時は歓迎しますから」
私の胸は巨乳にならなかったけど、沢山の食材を得られたので大満足……そう、大満足なのだ。
それに、私は巨乳になるのを諦めたわけではない。
この世界のどこかに、きっと私を巨乳にしてくれる方法があるはず。
そんなわけで、グレンデルと別れの挨拶をしていたのだけど……。
「あれ? リルルさんは? あとオルガも」
ボンタ君は、リルルとオルガが見送りに来ないことを不思議に思っていた。
昨晩は必ず見送りに行くと言っていたからだ。
「寝坊でもしたんですかね?」
「先日は、森の奥まで大変でしたからね」
でもファリスさん、それは何日も前の話だから。
若いんだから、疲れが何日も取れなんてことは……と思ったら、二人がやって来た。
「二人とも、寝坊したの?」
「すまないな、今日はどういうわけか起きられなくてな」
「私も普段は、寝坊なんてしないんですけどね……はははっ」
到着するなり謝る二人だったけど、私は気にしない。
だって、子供なオルガはともかく、リルルは同じ悩みを抱える親友同士なのだから。
ところが、私のそんな気持ちはわずかな時間で完膚なきまでに砕かれてしまった。
「リルルちゃん、寝坊したのにオルガ君と同じ方向から来たよね。リルルちゃんの家は反対側のはず」
グレンデルの指摘により、私たちの間に大きな緊張が走って。
同じ時刻に寝坊し、家の方向がそれぞれ逆方向なのに、二人は同じ方向から……。
それはつまり……。
「お泊りかぁーーー!」
この二人、まだ十五歳なのに……いや、この世界だと特に珍しくもないのか……。
「まあ、そういうことだな」
「オルガがなかなか起きないから悪いのよ」
「俺の寝起きが悪いことなんて、リルルは十分に承知しているだろうに」
「知ってるけど、今日は駄目でしょう」
「わかったよ」
この二人、もう本物の夫婦みたい……。
すでに大人の階段を上ってしまったのか?
私なんて、まだ彼氏いない歴年齢の独身なのに……。
「……」
「女将さん、グレンデルさんが……」
ファリスさんに言われてグレンデルの様子を確認すると、彼女は失恋のショックで呆然としていた。
彼女もオルガのことが好きだったからねぇ……。
リルルが懸命に巨乳になろうとしていたのを見ていて、自身が巨乳であるグレンデルは自分が負けるとは思っていなかったのであろう。
「(リルルさんは胸の大きさを気にしていましたけど、肝心のオルガさんは気にしていなかったのでは?)」
簡単に説明すると、ララちゃんの言うとおりだったという。
「オルガは、胸が大きい女性が好きって聞いたけど?」
「誰がそんなことを? 別に胸の大きさなんて関係なくないか? 女性を好きになるのにさ」
「そうなんだ……」
ボンタ君が探りを入れてくれたけど、オルガの返答はイケメンそのものだわ。
子供っぽい部分もあるけど、オルガがモテるわけね。
「ユキコさん。そういうわけなので、私はもういいかなって……」
「なっ!」
今回の魔法薬は見事に失敗だった。
だから私たちは誓ったのだ。
もし私が巨乳になる方法を見つけた場合、必ずリルルにもそれを教えると。
厚い友情から出た私の親切心は、見事に裏切られてしまった。
これを不幸と言わずに、なんと言えばいいのか。
「ユキコさん……」
「グレンデル……」
とここで、失恋のショックで放心していたグレンデルが私に声をかけてきた。
リルルによる思わぬ裏切りにより、私は友をなくしてしまった。
でもここに、新しい友グレンデルが……って!
そうなるわけがないじゃない!
「あなたには、この巨乳があるからいいじゃないのよ! 大丈夫よ! あなたは可愛いし、きっといい人が見つかるわよぉーーー!」
「ふぇーーーん! ユキコさん! 私の胸を揉まないでくださぁーーーい!」
「こんなに大きくて! 少しでもいいから分けなさいよ!」
「無茶言わないでください!」
グレンデルめ!
こんなに柔らかくて大きくて!
羨ましいわ!
「あの……ユキコさんは、胸がなくても十分に魅力的ですから」
「実際、複数の男性にモテてますよね」
「確かに……」
そうかもしれないけど、私はやっぱり巨乳になりたいのよ!
そうすれば、親分さんが……きっと親分さんだって巨乳の方が好きなはずなんだから。
あっ、そうだ!
それとこれは別として、私たちはちゃんと友達になったので!




