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野生のJK柏野由紀子は、異世界で酒場を開く  作者: Y.A


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第45話 スープカレー

「ユキコさん、これは?」

「スープカレーよ」

「『かれー』ですか? 僕も初めて聞く料理名です」

「スープの色が黄色いんですね」

「でも癖になるような香りがしますね。これはいいかもしれません」


 私は、お店の横に移設したテントの中で明日お客さんに出す料理を作っていた。

 やはりお店の横に移設する予定の、屋台の設営を任せていたララちゃんたちが、徐々に周囲に漂い始めるカレーの匂いに釣られて様子を見に来た。

 カレーは香りが命なので、ララちゃんたちが気になって様子を見に来たということは大成功というわけ。

 明日も、その香りに釣られて多くのお客さんたちが集まってくるはず。

「ユキコさん、もしかして距離を離していた屋台をお店の隣に移すのって……」

「そういうことね」

 今、ヨハンたちが懸命に掃除しているブランドンさんのお店では、このスープカレーを出す予定だ。

 屋台は前と同じ品を出す。

 すでに好評な屋台にお客さんが集まると、お店から漂うカレーの匂いを必ず嗅ぐことになる。

 すると、かなりの割合で新メニューであるスープカレーを試しに食べてくれるはずだ。

 一度食べさせてしまえば、もうあとはこちらのものである。

 たとえ世界は違えど、カレーの魔力に勝てない人は多いはずなのだから。

「スープを黄色くする素は、町で売っている香辛料ですか」

 ここは王都よりも暖かく、漁港の他にも交易をする港もあるので、海外から入ってきた香辛料がかなり安く売られていた。

 地元で作られている香辛料も多く、カレ―粉の調合には好都合だったのだ。

 カイエンペッパー、胡椒、ニンニク、ショウガ、クミン、コリアンダー、クローブ、シナモン、カルダモン、ナツメグ、オールスパイス、キャラウェイ、フェンネル、フェヌグリーク、ターメリック、サフラン、パプリカなど。

 地球と名前が違う香辛料もあるし、同じものもあった。

 ファリスさんによると、一部魔法薬の材料になるものもあるそうだ。

 ただ、そこまで重要な材料ではないそうで、値段はそこまで……サフランとかは高価だけどね。

 そんなに沢山使わないからいいけど、あとこの世界に飛ばされて来た時、死の森で採取できたものもあった。

 胡椒とか、ウコンとか、その他にも色々と。

 あとは、ハーブ類なども野生種があって大量に採取してあり、試験的に調合してみたけど、やはりお祖父ちゃんに教わったカレー粉の調合が一番かな?

 色々と配合を変えて試作すれば、また別の結論が出るかもだけど、今のところは私が知っているカレー粉でいいだろう。

「女将さん、鍋が二つありますね」

「そうよ。肉とシーフードの二種類だからね」

 カレー粉だけでは塩気も出汁もないので、カレーでは上手に出汁を取ることも必要だった。

 市販のルーには塩も出汁も入っているけど、ここで手に入るわけがないのだから。

 スープカレーにしたのは、やはり米がないから……。

 パンに浸して食べてもらうので、トロミはつけなかった。

 ああ、できればトロミをつけてジャポニカ米でカレーライスにしたい。

 この世界でも、探せばあると思うんだよね。

 お米。

「一つは、魔猪や鳥の骨や筋肉などで取った出汁に、下ごしらえした魔猪やウォーターカウのモツ肉や筋肉を入れてトロトロに煮込んだもの。メインに、バラ肉の角煮が入ります」

 角煮はショウユなどを用いず、スープカレ―の味に合うように煮込んであった。

「ユキコさん、お野菜は?」

「野菜は別に加熱してあるの」

 一緒に長時間鍋で煮込むと、煮崩れてしまうから。

 甘みを出すタマネギやハチミツなどは入っているので、野菜は茹でてから火で炙り、お客さんに提供する直前に入れる。

 そうすれば、具としてのお野菜も存分に楽しめるというわけ。

 もう一種類は、ツテができた漁港から仕入れた魚介類を用いたシーフードカレーにする。

 こちらは、魚の骨やアラ、貝、甲殻類の殻などで出汁を取り、やはり具である魚介類は長時間煮込まないようにする。

 野菜も、お肉のカレーと同じ扱いね。

「肉か魚か、自由に選べるようにしたわ」

 この二種類のスープカレーを、私は大鍋で作っているわけだ。

「夕食に試食しましょう」

「楽しみです」

「僕もです。どんな味がするのかな?」

「この香りだけで堪らないですね」

 夕方になって明日から営業する屋台の設営やら準備も終わったので、私はアルバイトたちにもスープカレーを賄として提供した。

「これ、もの凄く美味しいですね」

「パンに浸して食べると最高!」

「この辛みが癖になりますね。魔猪のバラ肉もホロホロで、スープを吸って美味しいです」

「これが新メニュー……親父の店でも出したいな」

「いつも思うんだけど、女将さん、若いのによく色々と新しい料理を思いつくな」

 ララちゃんたちのみならず、飲食店経験があるアルバイトたちにもスープカレーは高評だった。

 ブランドンさんはかなりの大金を報酬として出したので、このくらいはね。

 問題は、ヨハンがこのスープカレー二種を毎日安定した味で出せるかどうか。

 あと修行も兼ねているので、当然他の課題も出す予定だ。

「あの三人にも賄を出しますか。契約のうちだからね」

 私たちは、お店の掃除が終わったのか、スープカレーを持って様子を見に行ってみた。

「綺麗になったわね。できるじゃないの」

「まあな……」

 今度は、ちゃんとお店を綺麗に掃除できたようだ。

 やればできるわけだ。

「お店を綺麗に保つのも、店主の大切な役割よ。あんたたちが一週間で汚すから」

 私たちがブランドンさんからお店を借りた時、お店はちゃんと掃除されていて綺麗だった。

 私たちもちゃんと掃除して綺麗さを保っていた。

 だが、ヨハンたちが一週間営業しただけで店は汚くなった。

 ちゃんと掃除ができない店主のお店に、お客さんが入るわけないのだから。

「これからは毎日こまめに掃除すれば、ここまで手間はかからないわよ。毎日ちゃんと掃除すればね」

「言われんでも」

「じゃあ、夕食の賄ね。これを明日から出すから」

 私たちは、ヨハンたちにスープカレーを賄いとして提供した。

「なんか、えらく黄色いスープだな」

「あっでも。いい香りがする。癖になるかも」

「これ、辛いけどうめえ!」

「デルク、本当か? 確かにもの凄く美味しい」

 ヨハンたちは、スープカレーを貪るように食べていた。

 そしてそれが終わると、今度はこのお店をスープカレーのお店にするための準備だ。

 明日オープンなので、急ぎ準備しなければ。

 スープカレーももっと大量に作らないと。

「インゴとデルクは、とにかく材料の下ごしらえを続けなさい」

「包丁の使い方が違う! こうです!」

「「はいっ!」」

 インゴとデルクは飲食店で働いた経験がないみたいで、ララちゃんから包丁の使い方から厳しく指導を受けていた。

 ヨハンがメインで調理するにしても、この二人も調理補佐くらいできるようにしなければ、お店を回しきれないからだ。

「あんたは……基礎はできているのね」

 材料の下ごしらえ、出汁の取り方は、まあ合格といった感じだ。

 となると、あとは私が指導できる間に、あの作業ができなければ話にならない。

「黄色い粉?」

「これが、このスープカレーの命。カレー粉よ」

「『かれーこ』かぁ……」

 ヨハンは小瓶に入ったカレー粉を、神妙な目つきで見つめ続けていた。

「で、試験はこれを自前で調合できるかどうか。色々な香辛料を配合したものだけど、どんな材料をどのくらい使っているのか。この小瓶の中身を参考に、自分で調合できれば合格」

「調合できればか……」

「このカレー粉が、このスープカレーの味に決定的な影響を与えるわ! 出汁の取り方とかもそうだけど、基本的なものは作れるし、それはあんたがあとで研究すればいい」

「研究を続けるのか?」

「当たり前じゃない。もし今私が試作したスープカレーをあんたが完璧に作れるようになったとして、他の飲食店が真似しないと思う?」

「いや、それはない……」

「他のお店がもっと美味しいものを作ってしまえば、またすぐにお客さんが飛んでしまうわよ。あんたがこのお店をずっと続けたければ、一生新しい美味しさを追求しなければ駄目。大変だから、嫌ならやめてもいいけど」

「ここで退けるか! カレー粉の調合、やってやるぜ!」

 さすがに覚悟を決めたのか。

 ヨハンは、私の試験を受けると宣言した。

「明日からお店の営業は続けるから、研究は閉店後になるけど……」

 寝る時間以外はずっと仕事なので、まあブラックな期間になるはずだ。

 それでも大丈夫なのかと、私はもう一度念のために聞いてみた。

「どうせ休みでも遊びに行く金なんてねえよ! ちゃんとお店に定休日が作れて、店が黒字になってから遊べばいいだろうが」

「わかっているのならいいわ。あと……」

「あとなんだ?」

 必ずしも、私とまったく同じ調合にする必要はないと、ヨハンに言っておいた。

「どういうことだ?」

「私の調合は、別にこれで完成品というわけではないわ。私もたまに調合の研究をしているけど、忙しいからなかなかできないのも事実なのよ」

 もしかしたら、ヨハンがもっと美味しいカレー粉を調合できるかもしれない。

 それができたら、それでも合格というわけだ。

「よくよく考えてみたら、私はこの地では余所者よ。この地方の人たちの好むカレー粉を調合できるのは、この地方で生まれ育ち、調理経験もあって、ブランドンさんの孫であるあんたかもしれない。難しいけど」

「なるほど。俺にその可能性があるのか。やってやらぁ! それとな!」

「なによ?」

「俺は『あんた』じゃねえ! ヨハンと呼べ」

「わかったわ」

「店長、俺はやるぜ!」

 ヨハンが覚悟を決めた翌日から、ブランドンさんのお店はスープカレーの専門店になった。

 近くに屋台を移動させたため、それ目当てにお客さんが集まり、お店から漂うカレーの匂いに釣られて次々とお客さんが入ってくる。

「肉を三つね!」

「俺は魚で、彼女は肉ね」

 次々とお客さんが入ってきて注文が入る。

 そのうち行列ができてきて、その対応も新しい仕事として加わった。

「初日から大盛況ですね」

「忙しいです」

「この料理は美味しいからなぁ……」

「ヨハンさんの料理も悪くないんだけどなぁ……肉三つお待たせしました」

 ララちゃん、ファリスさん、インゴ、デルクは注文取り、スープカレーの盛り付け、配膳でてんてこ舞いの忙しさであった。

「女将さん、これは翌日の分はもっと仕込まないと」

「ヨハン、大丈夫?」

「やる! 店長がいる間に、一人でも多くのお客さんに食べさせて味を覚えさせる。俺は必ずこの味を安定して作れるようになってやる!」

 随分とやる気を出しているけど、ブランドンさんに叱られたのがかなり堪えたのかもしれない。

「えっ! 品切れ? 向こうの砂浜で遊んでいたら、この店の話を聞いたんだけど……」

「もうしわけありません」

「今日は泊まるから、明日食べる! 絶対に食べる!」

「お待ちしております」

 夕方、品切れで閉店となってしまった。

 まだ食べられずにいた人たちは悔しがっており、明日必ず食べるのだと町に戻って行った。

「これは予想以上に人気ね」

 明日に備えて、もっと仕込まないと駄目ね。

 どうせこのお店に泊まり込むし、仕込みはみんなでやれば沢山できるわね。

「ヨハンさん、どうです?」

「苦いなぁ……これは駄目だな」

 夕食のあと、私たちはスープカレーの出汁を取りながら夕食やデザートを食べて取り留めのない話をしていたけど、ヨハンだけは真剣な表情で各種香辛料を擦り降ろし、色々と調合してその味を見ていた。

 香辛料は私からの提供だけど、ブランドンさんが代金を出したようなものか。

 真剣にやっているから、彼も満足だと思う。

 それと、ヨハンは思っていた以上に舌がいい。

 もしかすると、ブランドンさんの血を一番継いでいるのかも。

 だから彼は、ヨハンに最後のチャンスを与えたのだと思う。

 他の孫たちは、絶対にお店を継いでくれないだろうから。

「どう?」

「大人の味を目指して少しビターにしたんだが、これだと子供に受けない。辛みもありすぎると困るな」

「ああ、それね」

 お客さんの中に意外と子供が多かったので、明日からは『甘口、中辛、辛口』も選べるようにしようと思う。

 カイエンペッパー、胡椒、ニンニク。

 このあたりの量を調整すればいいし、そのレシピも持っている。

 大鍋では甘口で作って、最後の仕上げで辛みを調整すれば問題ないのだから。

 それ用の小さい鍋やコンロにも余裕があった。

 古いけど、このお店はとても使いやすいのだ。

 ブランドンさんは最後一人でお店をやっていたから、自分で改良を加えたのだと思う。

「よく考えつくな」

「お祖父ちゃんの知り合いに教わったのよ」

 その人は、お祖父ちゃんが獲った猪や鹿の肉を使ったカレーを限定メニューで出すカレー屋さんだった。

 私もよくお祖父ちゃんと食べに行っていて、店主さんに基本的なカレー粉の調合を教えてもらったのだ。

 勿論、そのお店の細かい調合レシピは秘密だったけど。

「秘密なのか……」

「だって、料理人はソースの調合レシピを秘密にするじゃない。それと同じよ。でも、自分で新しい味を作り出さなければ秘密もクソもないわ」

「それはそうだ。店長、俺はやるぜ! 地元の連中が好む、改良型のスープカレーの完成を以って、このお店で出せるようにする」

 そして、それから一週間。

 ヨハンは、暇さえあればカレー粉の調合を試していた。

 その間、スープカレーの仕込み、調理、配膳、行列の整理などとよく働いており、これならブランドンさんも満足するはずだ。

「屋台も繁盛してるな。店の隣にあるのに」

「それはそうよ」

 砂浜にはここしかお店がないし、屋台でスープカレーは出していないからメニューも被っていない。

 選択肢があった方が、お客さんもよく集まるというわけ。

「冷たいジュース、かき氷、あとは海鮮焼きとかも人気ね」

 ジュースとかき氷は、スープカレーのあとのデザートに。

 海鮮焼きは、もう一品欲しいという人向けであった。

 漁港から仕入れたイカ、魚、貝、エビなどを網で焼いたものに、塩ベースのタレをかける。

 新鮮な魚介類を用いた海鮮焼きも、海水浴客に人気だった。

 むしろ、これを食べに砂浜に来ている町の人たちもいたほどだ。

「なあ店長」

「なに? ヨハン」

「あくまでももしもだが、俺がカレー粉を完成させたら、店長は町とかでお店をやる気とかあるのか?」

「それは……」

 私のお店は王都にあるからねぇ……。

 今は事情があってお店を開けないでいるけど、きっとお爺さんや親分さんが骨を折ってくれているはず。

「王都のお店には、私のお店の再開を楽しみにしてくれている人たちがいるから、状況が落ち着けば戻ると思う」

「そうか……あっ、でもよ。もし努力の甲斐もなくっていうか……どうにもならない事情で、お店が再開できない可能性もあるじゃないか。店長もそういうリスクを考えておく必要があるというかさ」

「それはそうね」

「そうなったら、この町で店をやればいいさ。祖父さんも俺も大歓迎だし、物件探しも協力するからさ」

「考えておくわ。その前に、ヨハンがちゃんとカレー粉の調合を完成させないと」

「おおっ! 俺はやるぜ!」

 さらに数日後。

 ついにヨハンは、カレー粉の調合を完成させた。

 試しにスープカレーに使ってみると、私が調合したカレー粉を使ったスープカレーよりもお客さんに好評だった。

「美味しさは同じだと思うけどな。この地方の人たちにはこっちの方が好まれるんだ」

 わずかな差だし、多分王都だったらどちらを出してもお客さんの反応は変わらないはずだ。

 でもこの地方の人たちは、ヨハンの調合したカレー粉を用いたスープカレーを好むはずだ。

「合格よ。これからは、そのカレー粉を使った方がいいわね」

「やりましたね、ヨハンさん」

「俺ら、これからもヨハンさんと一緒に頑張りますよ」

 思った以上にヨハンたちは頑張って、短い期間で課題をクリアーした。

 あとは、私たちが一切手伝わずに数日営業させてみて、問題がなければブランドンさんの依頼は終了ね。

 どうやら心配する必要はなかったみたいで、ヨハンたちは自分で集めてきた従業員たちと一緒に無事にお店を切り盛りし、これにて私が受けた依頼は無事達成となったのであった。

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[一言] 日本のカレーの原点は、大日本帝国の海軍カレーだそうです 横浜海軍カレーが有名ですが、茨城県土浦市の予科練カレーから派生したという、ツェッペリンカレーが街興しフードになってます 因みに、日本人…
[一言] ターメリックとウコンは同じものなんですが?
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