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25-10 有馬和樹 「悪霊か精霊か」


 新たなドラゴンをどうするか考えていると、あらっ、うしろから気配? 


 トレーラーのうしろに大勢の人影が現れた。五、六〇人はいる。ローブを着ているが、小さい?


「ハビじい、うしろのあれ!」


 ハビスゲアルは振り向いて、嫌悪感丸出しの顔をした。


「愚かな。教団が持つ魔法学校の生徒です」


 やっぱり! 年齢は十二か十三、小6ぐらいだろう。


 どうする? 前と左右は魔法に対して防御できる。真後ろは誰もいない。


「集団で行う強力な魔法があります。おそらくそれ狙いかと!」


 ハビスゲアルは飛んでくる火の玉を結界で防御しながら、早口で教えてくれた。


 生徒たちの前に引率の先生のような男が出てきた。着ているローブが派手、というより高級そうだ。重厚な茶色い布地に銀の刺繍がほどこされている。


「あれは、三番目の司教ウァサゴ!」

「あれで三番? もう、七二人の司教って馬鹿ばっかなの?」

「……面目ございません」

「まあ、上に行くほど馬鹿なら、一番下だったハビじいが、一番まともかも」


 しかし、子供たちに攻撃させる前に止めたい。攻撃が始まれば、こちらも応戦せざるを得ない。


『ドラゴン、そっち行く!』


 遠藤の悲鳴に似た通信。くそっ。姫野を見た。姫野も、いい手を思いついてない様子だ。


「ギョズミー!」


 魚住はドラゴンと格闘しているので四苦八苦だが、なんとか振り向いた。


「な、なにキング」

「もう一匹、どうにか時間かせいで!」

「ええっ! 無理だよ!」

「そこをなんとか!」

「無理だって!」

「……からの?」


 魚住が怒って黙った。


 すまん魚住。でも、おれを磯釣りに連れていってくれた時、道具が波にさらわれたよな。あの時だって、ありあわせの物でなんとかしてくれたじゃないか。


 魚住は額の汗をぬぐった。


「ちくしょう、実戦でもしたことないけど、やってやるよ!」


 汗をぬぐった、その左手を見た。


「ダブルロッド!」


 おお、見えなくてもわかる。二刀流か! これでドラゴンはしのげる。あとはチビッコ。


「姫野! たぶん、奥の手なんだろうけど、使おうぜ!」


 姫野がうなずく。


「ぼだいじゅー!」


 ゴゴゴゴ、と地響きのような低い声が、地の底から響いてくる。


「……ワレヲ呼ブノハ誰ジャ」


 ありゃりゃ、ずいぶん悪ノリしてる。ゲスオあたりが何か吹き込んだか。


「菩提樹、うしろの子供を脅してやって」

「……心得た」

「なんで、そんな低い声?」

「……ゲスオ殿が、怖がらすには、こうだと」

「オッケ。それで子供を怖がらせてみて」


 ゴゴゴ、と生徒たちの前に地面から巨大な菩提樹の上半身が出現した。


「あわわわ」


 司教だか、引率の先生だかの男が腰を抜かして尻もちをつく。


 菩提樹が生徒を見下ろし、口を開いた。


「……オ主ラ、魔法使イカ?」


 一番前の男の子が、女の子をかばうように前に出た。


「失せろ、この悪霊め!」

「むむ、わらわは太古の樹の精霊ぞ」

「嘘だ!」

「嘘とな?」


 巨大な菩提樹の上半身は、ずいっと前かがみして少年の前に近づいた。


「お主の目は節穴か。今見ているのは何じゃ?」

「悪霊だ」

「悪霊とな。それを見たことがあるのか」

「ないけど……ないけど神様はそう言ってる!」

「ほう、神様とやらに、そう聞いたのか」

「司教様が、そうおっしゃったのだ!」


 少年が伸ばす手をくぐり、うしろの少女が前に出た。


「あなた、もしかして、校庭の隅っこにある木?」

「ほう、よく気づいたな。左様。わらわは菩提樹の精霊」

「たまに感じてたの。あの木って、しゃべりかけてるみたいで」

「良い素質じゃ。それを大事にすれば、よい魔法使いになるぞよ」


 少女はにっこり笑い、うなずいた。


「み、みなさん、この悪霊に火焔球を放つのです!」


 腰を抜かしていた引率がしゃべった。


 おれはトレーラーの屋根を蹴って飛び降りた。一直線で引率の元に走る。


『キング、ミンチはダメ!』


 姫野の声。わかってる。


 走る勢いそのままに、おれは男のアゴを蹴り上げた。吹っ飛んで起きてこない。気絶したな。


 カツカツッ! と音がした。おれの足元に矢が跳ねる。トレーラーから離れたおれを狙ったか。


 っつうか、子供いるんだから危ねえだろ!


「おい、お前ら、あぶねえから逃げろ」


 子供らが、わらわらと逃げていく。それでよし! と一息。おれの右手を誰かが握った。


「はい?」

「わたし、菩提樹さんと一緒に行くの!」


 さっきの女の子だ。


「お前な、あぶないから帰れって!」

「いやよ! せっかく会えたんだもん!」

「いつでも会えるだろ!」

「ウソ! お母さんそう言って、ハミルと会えなかった!」

「ハミルって誰だよ!」

「ウチの猫よ!」


 風切り音がして、体を伏せた。頭の上を矢が飛んでいく。


「んにゃー!」


 イライラして思わず奇声を上げた。女の子をおんぶして走り出す。


 近くの家の屋根で物音がした。兵士が一人、落ちてくる。おれを狙ってた弓兵かな。


 トレーラーまで戻り、おんぶしたままハシゴを上がる。


「キング、ちょっとそれ」


 おれの背中を姫野が指差している。なんかこれ、デジャブを感じる。


「ああ、知り合った女の子だ。できれば一緒に行動したい」

「そ、そう。まあ、キングがそう思ったんなら……ってどういうことよ!」


 あはっ、そりゃそうだ! ジャムさんを連れてきた時とは違う。


「キング! 限界だ!」


 魚住が叫んだ。そうでした、ごめんなさい!


 おれは耳に手を当てた。


『業務連絡、業務連絡、カラササヤさん、出番ですよ。どうせ近くにいるんでしょ』

『はっ! ただいま!』


 さきほど兵士が落ちた屋上に人影が現れた。二階の屋根から一階の軒に飛び降り、地面に着地する。やっぱりな。


 そして大きく息を吸い込み、顔を上げた。土煙を上げそうな勢いで走り出す。


「烈突の槍遣い、カラササヤ。参戦いたす!」


 ……あのおじさん、この戦いに向けて、名乗り口上を考えてたな。


「王よ、相手はどちらに!」

「上空、二匹の竜!」

「はっ! 槍はどちらに!」

「そのへん!」

「ははー!」


 カラササヤさん、走りながら重装歩兵の槍を拾う。勢いそのまま、槍を担いだ。


「投擲!」


 ものすごい勢いで槍が空を裂く。二匹のドラゴンのうち、青いドラゴンの羽に当たった。ドラゴンが落ちてくる。


「さらに投擲!」


 赤いドラゴンの羽にも当たった。二匹とも、落ちてくるのは大通り。それもトレーラーの前方!


……戦で大将は座って待てというが、これは、おれが出るしかない!

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