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24-6 姫野美姫 「わたしの秘密」


 わたしが予想した通り、今回の原因はハビスゲアルさんだった。ウルパ村の近くで捕縛されそうになったらしい。


「よく逃げられたな」


 キングが感心して言う。ハビスゲアルは胸を反らした。


「これでも魔法使いの端くれ。しかしキング殿、さきほど、やっぱりと仰った。予想していたので?」

「ああ、言われた場所に食料がなかったからな。これはハビじいに何かあったと」

「裏切られた、ハメられたとは、お思いにならなかったのですか?」


 キングは笑った。


「いや、それなら、こっちの里に来るだろ。こっちに来たら、さすがにやばかったわ」

「それは確かに。この里の近くに食料を運ばずに良かったですな」


 キングは、ふと気づいたようにハビスゲアルを見た。


「あれ? そういやハビじい、回復魔法は使えないの?」

「使えますが?」

「自分の傷、治せば?」


 ハビスゲアルは自分の釣った腕を見た。


「ああ、これですな。回復魔法は人にはかけれますが、自分にはかけれないのです」

「まじか! じゃあ、花森も?」


 キングが回復スキルを持つ花森千香ちゃんを見た。花ちゃんがうなずく。


 わたしはこれを知っていた。だから花ちゃんは助ける順序が上位でないといけない。


「花森、ハビじいにかけてくれる?」

「もちろん」


 花ちゃんは笑顔で答え、ハビスゲアルに回復スキルをかけた。


 かけられたハビスゲアルが、釣った腕を動かしておどろく。


「これは、かなりの回復魔法と同じになりますな。吾輩より数倍強い」


 キングは立ち上がった。


「ハビじい、花森、しばらくはみんなの回復をよろしくな」


 それから、キングはみんなに向かって言った。それは、意外な言葉だった。


「みんな悪いけど、ちょっと、ハビじいとサシで話さしてくれ」


 みんなが顔を見合わせる。しかし、キングに言われてイヤとも言えない。広場に集まっていた人々は、それぞれの場所に散っていった。


 わたしはウルパ村から逃げてきた人々を、空き家や仮のテントに案内する。


「ヒメー」

「ヒメー、クックーちょうだい」


 覚えのある声に振り向いた。フルレとイルレ、無事だった!


 駆け寄って抱きしめる。母親が申し訳なさそうに後ろから出てきた。


「そちらの方は大丈夫でしょうか?」

「そちらの方?」

「イルレを助けていただいた、女の方です」


 遠藤ももちゃん! すぐにピンと来た。話を聞くとやっぱりだ。イルレが集団から離れて迷子になった。それを探したのが遠藤ももちゃん。


 ももちゃん、わたしがこの双子と仲が良かったのを知ってたからじゃないだろうか。


 これはちょっと考える。結果として大事に至らなかったが、自分の行動が周りに影響している。


 いや、そもそも、この状況が失敗だ。まったく想定できていなかった。


 軍師気取りでやってはいるが、やはり自分では荷が重い。プリンスあたりがやったほうが、上手くいきそうな気がする。


 フルレとイルレ、それに両親の四人には、わたしの家に泊まってもらうようにした。狭いけど床にも布団を敷けば四人寝れる。わたしはセレイナのとこにでも泊まろう。


 広場を通ると、キングとハビスゲアルは、まだ話を続けていた。ほかのみんなは気を利かして二人には近づかない。


「ヒメちゃん、備蓄庫開けていい?」


 調理班リーダー、喜多絵麻ちゃんに聞かれた。もちろん、うなずく。ウルパ村の中からも、元気なお母さんたちが炊事を手伝うと申し出があった。


「ヒメっち、お風呂どうする?」


 そうこうしていると、今度は設備班から聞かれる。うわぁ、お風呂かぁ。入れてあげたいなぁ。


「今日は、元から里にいた人は我慢してもらって、ウルパ村の人に入ってもらおう」

「うん、それいい! お風呂入ってぐっすり寝てほしいね」


 設備班の黒宮和夏は嬉しそうに言った。和夏ちゃん、自分は入れなくなったのに、やっぱり優しいね。


 一通り食事と寝床の手配が終わると、もう夜も更けていた。


 広場に二人がいないので、もう話は済んだのかと思えば、調理場のほうにいた。お茶を飲みながら、まだ話をしている。


 それは、ちょっと今まで見たことのないようなキングだった。お互いに熱に浮かされたように熱心に話し合っている。


 その姿に、みょうな胸騒ぎを覚えた。近くをプリンスが通ったので、呼び止めてみる。


「キングたち、何話してんだろ」

「さあな。まあ、なんとなく予想はつくが……」


 そう言って去っていった。親友は予想がつくのか。わたしにゃ、さっぱりわからん。


 セレイナの所に行こうかと思ったけど、大きな満月が出ていた。頭の中を整理したいし、月の光で明るい里を散歩する。


 里の外れまで歩いて、満月を見上げた。前にいた世界の月より大きく、兎さんの模様がない。やっぱり異世界なんだなと、こういう時にしみじみ思う。


「おや、珍しい。月夜に誘われ才女のお出ましか」


 こういうのを言いそうな人は一人だ。


 周りを見た。誰もいない。ならば上、ほらいた。高い木の枝に男性が一人立っていた。ヴァゼル伯爵だ。


「伯爵こそ、一人で何を?」


 ばさり、と伯爵が下りてきた。


「一人ではありませんぞ。ジャム殿もいます。同座しますかな?」

「ええ、いいけど……」


 わたしは辺りを見回した。ジャムパパの姿はない。


 ふいにヴァゼル伯爵が後ろに回った。わたしの両脇に手を入れる。


「えっ! もしかして!」


 おどろくより早く身体は宙に浮いた。ばさっばさっと力強く羽ばたくと、太い木の枝の一つに着いた。


 とんっと枝に立たされ、思わず幹にしがみつく。た、高い!


 その前の枝には、ジャムパパが足を投げ出して座っていた。尻尾が枝にくるりと回って身体を固定している。


「腰を下ろして、その細い枝を持って……」


 ジャムパパに言われたように態勢を変える。ああ、座ったほうが怖くない。


 ジャムパパの手にはカップと瓶があった。


「ええっ! お二人、こんなとこで飲んでるの?」


 ヴァゼル伯爵は涼しい顔で笑った。


「今日は里の中が騒がしいので。ここなら月もよく見えますし」


 月を見上げる。うわ、ほんとだ。ここだとより綺麗に見える。


 しばらく月を眺めていた。異世界人の二人は、こんな木の上でも器用に酒を注ぎ、黙々と飲んでいる。


 この三人だけというのも珍しい。気になったことを聞いてみよう。


「伯爵、この間のあれ、ほんとの所はどうなんです?」


 あれとは、主従の呪いだ。呪いを解くことはできるのか、できないのか。


「ほほう、人の秘密を暴きにきましたな。満月に免じて話しても良いですが、秘密を一つ聞くのなら、秘密を一つ渡すのが礼儀です」


 秘密? そう言われても何も思い浮かばなかった。


「ヒメノ、今日は色々とあった。お前は大丈夫か?」


 ふいにジャムパパが微笑んだ。辛いと言いそうになり、あわてて止めた。よくよく考えると、この二人は若者ばかりの28人を背負った大人だ。


 やろうと思えば、自分たちだけで生き抜くほうが楽だろう。この二人の前で疲れたなんて、言ってはだめだ。


「うん。ぜんぜん。ありがとうジャムパパ」

「そうか。無理するなよ」


 ジャムパパはそう言って、またカップに口つけた。このリザードマンに最初に会った時は怖かったはずだけど、もはや何が怖かったのか、細かく思い出せない。


 一つ、思いついた。この二人になら言っても問題ないことだ。


「キングとプリンスがいるんだけど、どっちって言われたら、少しキングのほうが好きかな」


 ヴァゼル伯爵が笑った。


「それはたしかに、秘密でありますなジャム殿」

「そうだな。若いというのは素晴らしい」


 二人の顔が「微笑ましい」といった感じだったので、わたしはイタズラ心が芽生えた。


「あら? それは、お二人も同じですよ。友松あやちゃんは、ジャムパパのほうが少し好き。遠藤ももちゃんは伯爵でしょ」


 二人が見合った。


「関根瑠美子ちゃんは、ジャムパパかな」

「セキネ……毛を抜く能力の子だな。俺とはあまり接点がないが……」

「ツルツルの肌が好きなんだって。ジャムパパの肌を洗いたいって言ってた」


 ぶほっ! とジャムパパは葡萄酒を吹き出した。


「隅に置けませぬな、戦士よ」

「伯爵も人のこと言えない。絵の具スキルを持つ毛利真凛ちゃんは、伯爵を描くのが夢」

「むむっ、畑のほうから感じる視線の気配は、毛利殿であったか」


 ヴァゼル伯爵、覚えがあるようだ。


「でも、クラスのみんなは、基本的に二人が好き。思えばキングとプリンスの大人版みたいなもんですよね」


 ジャムパパは困った顔で頭を撫でた。ヴァゼル伯爵も眉を寄せている。


「伯爵、わたしの秘密はこんなところでどうでしょう?」


 わたしの秘密は言った。さあ、伯爵! 次はあなたの番ですよ?

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