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20-2 野呂爽馬 クラス全員登場Ⅱ

クラス28人いるので、なかなか書ききれません。20話は長いので3つに分けて出します。

どうか、もうしばらく、お付き合い下さい。



 さて、戦闘班六人にお茶を配り、カップを使い切った。炊事場に寄って洗うことにする。


 炊事場では、調理班が夕食の準備をしていた。


 今日の夜は「収穫祭」をするらしい。そのための料理を今から作っているのだろう。


「調理班」のリーダーは、家が洋食屋だった喜多(きた)絵麻(えま)さん。鉄製の鍋をボウル代わりにして、肉を大量にこねていた。


「あっ、ひょっとして、ハンバーグ?」


 ミンチをこねると言ったらハンバーグだ。


「見たわね」


 そう低い声で言ったのは、さきほど掃除をしてくれた友松あやさん。同じくミンチをこねている。


「えっ? ダメだった?」

「うそうそ。みんなをおどろかせたいから、黙っててね」


 ハンバーグなんて何ヶ月ぶり? 間違いなく、みんな喜ぶだろう。


 そのとなりにいた高島さんもうなずく。


「前は、びっくりさせようとカレーを出したのに、ドクのコーラに全部持っていかれちゃったから。今日こそ主役は、調理班よ!」


 学校一美人と言われる高島(たかしま)瀬玲奈(せれいな)さん。歌がうまい。前に子守唄を聞いた時は涙が出た。


 それからもう一人、回復のスキルを持ち「ゴッドマザー」と一部から言われる花森(はなもり)千香(ちか)さん。


 四人とも一生懸命にミンチをこねている。


「三二個のハンバーグって大変ですね」


 大人数の食事って大変だ。


「ノロさん違う、俺らは、だいたい五〇作るから」


 うしろから声をかけられた。男子の土田(つちだ)清正(きよまさ)くん。土田くんは、主にパンが担当だ。今もパン生地をこねている。


「五〇?」

「だって、おかわりするやつも多いから」


 ああそうか! 僕は一人前でいいけど、みんな年齢で言えば育ち盛りだもんなぁ。元相撲部のゲンタくんなんか、五人前は食べそうだ。


 土田くんの手元を見ると、パン生地も大きい。


 土田くんが作るパンは、めっちゃくちゃ美味しい。天然酵母のパンだと聞いた。土田くんは酵母を見る顕微鏡のスキルがあるので、ぴったりなんだろう。


 この調理場では、つい最近、大きな石窯を作った。今日の収穫祭は、そのお披露目でもあるらしい。


 その石窯はオーブンにもなるので、いろんな料理ができるそうだ。今晩の料理が楽しみ。


 お茶がいるかと聞いたけど、肉をこねてるので要らないと言われた。土田くんもパン生地をこねてるので、同じく要らない。


 残念に思ったが、しょうがない。調理場に引いてある湧き水でカップを洗った。あとは水差しに水を入れ、調理場を出た。


 設備班はどこだろう? お風呂をお願いしないと。


 そう思いながら里を歩いていると、一つの家から女子の話し声が聞こえた。


「お茶いりますかー?」


 家の下から声をかけてみた。窓からひょいと顔をのぞかせたのは、関根さんだった。


 関根(せきね)瑠美子(るみこ)さん。元の世界では美容師を目指していた。スキルは脱毛。「ルミコ・プラチナム」ってスキル名。そんな脱毛サロンがあった気がする。


「いりまーす! 上がってもらっていいですか?」


 僕はうなずいてハシゴを上った。部屋に入ったところで、思わず目を伏せる。ベッドの上に、うつ伏せで裸の女性がいたからだ。


「ああ、大丈夫。和夏ちゃんに今、背中の薬草パックを試してるの」


 ベッドに寝ているのは空気の温度調節スキルを持つ、黒宮(くろみや)和夏(わか)さんらしい。


 たしかに、よく見ると背中一面に緑色の何かが塗られていた。


「ありがとう、ノロさん」


 黒宮さんが動いたので、またあわてて目を伏せた。


「バカッ! 動いちゃダメでしょ!」


 そう言ったのは「おすわり」のスキルを持つ、門場(もんば)みな実(みなみ)さんだ。


 その隣では、ライトのスキルを持つ沼田(ぬまた)睦美(むつみ)さんが笑っていた。設備班の四人が勢揃いだ。


「見ちゃった?」


 沼田さんの質問に、ぶんぶん首を振った。何かが見えたような気がするけど、僕は違うことを聞いた。


「カップは?」

「ウチ? Dよ」


 黒宮さんが答えた。


「あ、いや、紅茶の」


 さっき見えた光景を思い出す。頭を振って消去した。


 この関根さんの家にカップはあるようで、四つ出してもらった。


「お茶、何がいいですか?」

「香りがいいやつ!」

「うちもー!」

「あたしもー!」


 僕はうなずいて、ポケットから花と葉っぱを乾燥させた物を出した。カップに入れ水を注ぐ。


「チャルメラ・チャルメラ!」


 カップの中の水が瞬時に湯になった。


 二回スキル名を言ったのは、ハーブティーは三分ではなく六分入れておきたいから。


 二回言うと予約みたいなものだ。三分後に、もう一度スキルがかかる。今のとこ、二回までは連続でかけれる。使い続けたら三回もいけるかもしれない。


「二回鳴ったら飲みごろです」


 そう言い残して、僕は家を出た。きっと顔が赤い。早く出たかった。スキルは一度かけてやれば、僕が近くにいなくても発動する。


 あっ! お風呂のこと言うの忘れた!


「関根さーん」

「はーい?」

「コウくんたちが、お風呂入りたいって」

「りょうかーい!」


 よし。これで大丈夫。この里には、ゴエモン風呂のような直火で焚く風呂が3つある。だいたいいつもは、女子は二つ、男子が一つで使っていた。女子のお風呂は長いから。


 さて、水差しの水がなくなったので、食料庫の裏にある湧き水に戻ろう。


 食料庫まで戻って思い出した。頭脳班の研究室に寄るのを忘れている。


 頭脳班とは、なんとなく誰かが言いだした名称だ。


 何か決まった役割はないけど、常に一番忙しい三人を指してそう呼ぶ。


 さきほどの食料貯蔵庫の隣に小屋がある。そこが頭脳班の研究室だ。


 僕は湧き水を補給して、研究室に入った。


 部屋の壁は上から下まで本棚があり、この世界の本がぎっしり並んでいる。反対の壁には引き出しの棚があり、色んな植物や岩なんかが入っている。


 頭脳班の三人は部屋にいた。ドクくん、姫野さん、ゲスオくんの三人だ。


 ドクくんが、中央に置かれた大きなテーブルで本を読んでいた。


 ドクくんこと坂城(さかき)(しゅう)くん。スキルは鑑定。でもスキルより、その頭脳のほうがスゴイ。この世界の文字も、あっというまに覚えてしまった。


「ノロさん、ありがとう」


 僕の顔を見て「ありがとう」ってことは、お茶がいるってことだ。


「どれがいい?」

「スーッとするのがいいかな」

「わかった」


 部屋にあったカップに水を入れ、ポケットのハーブを浸した。


「チャルメラ・チャルメラ!」


 ハーブティーなので二回だ。 


「もう、使いこなしてるね。自分のスキル」


 ドクくんが感心している。感心するのは僕の方だ。スキルが進化すると教えてくれたのはドクくんだ。


 ドクくんが読み解いた本によると、この世界には魔術とスキルがある。どちらか一方しか使えない。


「魔術を使える」というのは、それが一つのスキルらしい。スキルは一人に一つ。なので、魔術が使える人はスキルを使えないようだ。


 この世界の人は、生まれた時に一つスキルを持って生まれるらしい。それは特に大したものでは無いそうだ。剣を振るのが速いとか、真っ直ぐな線を書けるとか。


 僕らのような異世界からくると、なんて言ったっけ、後付け? でスキルを付けれるので、強力なスキルが付けれるそう。


 もうね、言われている意味の半分もわからないけど、ドクくんはこの世界を理解している。僕の頭が100だとしたら、ドクくんは1万、いや1億だ。それって何倍なんだろう、まあいいか。


「あ、わたしも同じの!」


 作業台で、なにか地図のような物を書いていた姫野さんが言った。姫野(ひめの)美姫(みき)さん、スキルは表計算。一度、どういうものか説明されたが、まったくわからなかった。


 姫野さんのカップを受け取り、お茶を作る。


 ゲスオくん静かだな、と思ったら部屋の隅にあるベッドで寝ていた。


 ゲスオくんこと蛭川(ひるかわ)日出男(ひでお)くん。スキルは「お茶目な落書き」という名前で、人のスキルを改造できる。


「もう、ドクのために置いたのにね」


 姫野さんがあきれた顔で言う。


 ドクくんは研究をしだすと、昼夜問わず集中してしまうらしい。そのためにベッドを置いたようだ。


 ゲスオくんは、さぼってるように見えるが、実際にはゲスオくんは忙しい。一人でみんなのスキル改造をしないといけない。


「むふふ。先生、ダメでござるよ」


 ゲスオくんが寝言を言った。先生とは、僕らがいた中津高校の美術の先生だろうか。美人なので男子生徒から人気が高い。


「ねっ、血液って沸騰させれないの?」


 姫野さんがゲスオくんを指して言う。それを想像してみたが、恐ろしくてブルブルっと震えた。


「冗談よ」


 姫野さんは笑ったが、目は笑ってなかった。怖い。


「ドルルールル」と木のカップなので、こもった音が鳴った。


 二人に渡して、僕は研究室を出た。


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