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18 黒宮和夏 「黒くまくん」

視点変わります。黒宮(くろみや)和夏(わか)

ほか今話登場人物(ニックネーム)

門馬みな実(ミナミ)

茂木あつし

有馬和樹(キング)

小暮元太|(元太)

 夏が嫌いだ。


 自分の名前は「黒宮和夏」で「夏」が入っているのに嫌いだ。


 だって、暑いじゃない。汗かくじゃない。カキ氷が美味しい? 違うね。カキ氷が美味しいのは、冬に暖房の部屋で食べるカキ氷だ。


 そんな自分が異世界に。この世界に落ちて最初の思ったことは「生きていけない」だった。


 電化製品がない? 生きていけるか! ところが、ハゲたジジイがスキルを一つくれるという。迷うことなく書いた。「空気の温度調整」と。


 これで完璧! と思った。


 違った。


 アホが考えることは、やっぱアホだった。ほとんど野宿じゃん。自分の周りの空気を冷たくして、もって三分だった。


 木の上の家は、少しかかる。でも少しだった。あっちこっち空いてて通気よすぎ。蚊が来ないのだけが最高。なんだっけ、家が防虫の効果があるとか。いや、家じゃなくて立ってる木のほうだっけ?


「アホなやつって、なんでこんなに、アホなんだろうね」


 となりのミナミに聞いてみた。門馬みな実、ウチと変わらないアホだ。


「うん? 和夏ちゃん、アホって誰が?」

「ウチ。あとは、ミナミとか」


「あたし、アホちゃうし」

「じゃあ、なんなん?」

「んー、回転が遅い? ほら、車でいうと一速みたいな」

「それ、何速まであるん?」

「三? いや、言いすぎ? 二かな」

「……アホじゃん」


「誰もアホなんて思ってないゼイ!」


 板をかついだ茂木あつしが来た。茂木はたしか、高校出たらすぐ大工になるって言ってた。口調まで、わざとふざけて大工っぽい。


「おう、あっしが持っとくんで、両端に釘うってくだせい」


 板の端に釘を打ち、柱に止めた。今、みんなで使う小屋を作っているとこだった。


「女子で大工仕事してくれるやつぁ、おめえさんがたぐれえでさ。たいしたもんさな」

「だってなぁ、ウチら料理できんし」


 ミナミもうなずく。


「それに、この小屋はウチの希望だし」


 そう、クーラー部屋を作ってもらおうと、茂木に頼んだのはウチだった。


 この異世界は、来たころは良かったが、だんだん暑くなってきた。もうすぐ、夏になると思う。


「おう、ちょうど買い出し部隊が帰ってきやがった」


 振り返ると、里の大通りをカッポカッポ馬車が来る。運転しているのは、キングとプロレスラーの小暮元太だった。


「おーい、ガラスあったぞー」


 手を振っているのはキング。ほっとした。


 今回の買い出しは菩提樹のワープではなくて、馬車を使っての買い出しだ。どうしても大きい荷物の買い物が必要になっていた。


 窓ガラスも、その一つだ。でも窓ガラスのせいで、キングに何かあったら、ウチは死んでも死にきれん。


「うわっ! もう枠はできてんじゃん! 窓入れようぜ」


 キングが馬車を小屋の前に止め、うれしそうに降りてきた。さっきのアホの話で言えば、キングはアホじゃないのにアホっぽい人。もう、ウチ、めっちゃ好き。


 ガラスを馬車から下ろし、そのほかの荷物は元太に任した。キングと茂木、ウチとミナミで四つある窓から窓枠を外し、ガラスを入れていく。


 あらためて、四人で中に入った。入り口で靴を脱いで上がる。大きな窓が四つある小屋は、なんだか大昔の学校みたいだ。


「やっぱり、木の床、いいな」


 キングが足で床をドンドン! と叩いた。そう。かんたんな作りの小屋だけど、床まである。


「床までいらないって、言ってた人も多いけど、良かった?」


 床のある小屋を希望したのはウチだった。だって、床がないと冷えそうにない。


「ああ。何があるか、わからないからな。ここなら、布団敷いて寝れるし。木の上の家だけじゃな」


 やっぱり。キングはアホに見えてカシコだ。


「クーラーかけてみて」


 キングが言った。


「黒くまくん!」


「……白くまくんのパクリだな」


うへっ! キングに冷静につっこまれた。


 ウチの周りの空気から、冷たくなっていくような気が……しない。あれ?


「広いから、効くまで時間かかるかも」

「黒宮、スキルかけるのに、どこに向かってかけてる?」

「えーと、自分のまわり?」

「それ、壁とか床でかけれる? いや、むしろ全部」


 壁、床、あとは天井か。

 一度、目で見て確認した。


「黒くまくん!」


 ブーン! と壁や床が震えたような気がし、部屋全体から冷気が漂ってきた。


「おお! いいかも。これで、一時間ぐらいしたら涼しそうだな!」


 キングが言った。ほんとに、夢にまで見たクーラーだ!


「キングよ」


「うわぁぁぁぁ!」


 いきなり、空中に精霊が出てきて、思わず声を上げた。もう慣れてもいいころだけど、やっぱりびっくりする。


「はて、ここは奇妙な風の動きを感ずる」


 精霊は不思議そうに部屋を見回した。


「ああ、部屋の空気を冷やしてるんだ」

「ほほう、ならば、わらわも少し手伝うか」


 精霊さんが手を広げ、何かブツブツとつぶやき始めた。


「氷結!」


 バシバシ! と精霊から冷気が吹き出し、窓や床には霜柱ができた。


「寒っ! 菩提樹、何やったんだよ!」

「何とは? わらわは樹の精霊。風の精霊の力を借り、氷結呪文を唱えました」


 となりにいたミナミが、バツが悪そうな顔をして、一言。


「……どんまい、和夏ちゃん」


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