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17 魚住将吾 「サラマンダー」

視点変わります。魚住(うおずみ)将吾(しょうご)

ほか今話登場人物(ニックネーム)

遠藤もも(ももちゃん)

根岸光平(コウ)

飯塚清士郎(プリンス)

ヴァゼルケビナード(ヴァゼル伯爵)

ジャムザウール(ジャムさん)

有馬和樹(キング)

渡辺裕翔(ワタナベ)

玉井鈴香(玉ちゃん)


 あれから一週間。


 みんなから、なだめられ、褒められ、お願いされ、通話スキルの遠藤ももは「奉納の儀」を行った。


「奉納の儀」の最中は、すべての人が里から出て彼女一人が残った。


 儀式の詳細は、もはや彼女のみが……


「魚住、大げさに言うな! 樹の根っ子に穴掘ってしただけだ!」


 あらら。横にいた遠藤さんに怒られた。


 今日は、コウたちが街へ行く日である。コウの潜水スキルで行くワープの道だ。みんなで菩提樹の前に集まり、コウたちを見送る。


 メンバーはコウ、プリンス、ヴァゼル伯爵の三人。


 地脈を通る勝手がわからないので、最少人数にしたとのこと。


 この里で一番強いのはジャムさんか伯爵なのだが、ジャムさんは目立つ。伯爵が行くことになった。


 残った人は、いつもどおり農作業。または狩猟だ。俺も剣や弓を習い始めたが、実際に獣を取れるほど上手くない。


 村長さん、いや元村長さんか。あのグローエンじいちゃんに教わりながら、今日も野菜畑と麦畑で作業だ。


 畑作業の天敵は、蚊でもヘビでもない。妖精だ。特にプリンスがいない時は、いたずらばっかりしてくる。


 その妖精が今日は静かだなと思ったら、畑の端で精霊といっしょにいた。精霊が物憂げな目で空を見ている。


「あれ? 精霊さん、プリンスたちと行ったんじゃ」

「これは、わらわが出す幻影ぞ。二体出せば良いだけ」


 なるほど。基本的に人間と同じ頭脳じゃないってわけだね。


「どうかしました?」

「うむ。どうも不穏な気配がしておる」


 なんとも不吉な言葉を吐いて、精霊さんは帰っていった。


 その言葉は、お昼の時間に現実となった。広場で昼食を食べているところに精霊さんが来た。


「皆の者、草陰に隠れたほうがよい。何かが来る」


 キングは躊躇することなく、みんなを散らせて隠れるように言った。


 俺は樹の陰に隠れた。しばらくすると、聞いたこともない動物の鳴き声が聞こえる。


 見えた。それは、俺ら人間でも馴染みの姿だ。トカゲの胴体に巨大な翼。


「ドラゴンだ……」

「ドラゴン? あれは火を司る魔獣、サラマンダーです」


 隣に精霊さんがいて、びっくり。いや、それより、サラマンダー! ぜったい味方になりそうにない!


 そのサラマンダーは、里の上空をぐるぐる回っている。


「まずい。わらわの力が上がったためか、この土地に興味を示している様子」


 サラマンダーが急降下してきた! あっ! 俺が隠れた樹は、その菩提樹だ!


 サラマンダーは地面スレスレで曲がると、大通りの上を飛んでくる。あきらかに、この菩提樹が狙いだ。


 サラマンダーが菩提樹の近くまできた。

 口を開けた。火がくる! そう思った瞬間、反対側にドラゴンが現れた!


 ドラゴンは、けたたましい鳴き声を上げて翼を羽ばたかせる。サラマンダーは急旋回してドラゴンに向かうと、口を大きく開けて火を吹いた!


 火はドラゴンをすり抜ける。あれは映像?


 あっ、渡辺のスキル「リアリティ・フレーム」か!


 草むらからジャムさんが飛び出すと、サラマンダーの後ろ姿に矢を放った。長い胴体の真ん中ほどに刺さる。サラマンダーは一声あげて空に上がった。


 また降下してくる。


 大通りに沿って飛び、その近くにある木の上の家に向かって火を吐いた。家が二軒ほど燃え上がる。


「玉ちゃん!」


 姫野が大声で呼んだ。玉井鈴香のことか?


「待って! 今行く!」


 俺の後ろで声がして、びっくりした。玉井が大きな麻袋を持って、茂みから出てきた。


「魚住くん! ちょうど良かった。これ持って」


 玉井の麻袋を持つ。


「重っ!」


 玉井の後について広場に出た。


「ボール借して!」


 ボール? 麻袋を開けてわかった。石を削って丸くしたもの。そうか、玉井ってソフト部だ。なら、スキルはきっとあれ。


「レーザー……」


 玉井がステップを踏んで投球モーションに入った。


「ビ~~~~ム!」


 投げた石は一直線に飛んでいく。ゴッと、サラマンダーの頭に当たった。サラマンダーはキリモミしながら落ちると思ったら、途中で気がついて羽ばたいた。


「やばいっ! こっち来るぞ!」


 俺はうしろを見た。うしろは菩提樹、火に弱い。


「走ろう、ここから離れないと!」


 炊事場のほうに走った。屋根の下に入る。ゴオ! という音とともに、屋根が火炎の勢いで吹き飛んだ!


 里の中央に、またドラゴンの映像。サラマンダーがそこに飛んでいく。


 まったくタイミングが悪い。ヴァゼル伯爵がいれば良かったのに。空だと手の出しようがない。


「いや、そうか?」


 自分に思わずつっこんだ。


「魚住くん?」


 玉井が不思議そうに俺を見た。


 俺は、この前の遠藤を思い出していた。通話の圏外かと思ったら圏外ではなかった。スキルは進化する。要はやり方しだいだ。思えば魚がいないから、スキル名を口にした事もない。


爆釣(ばくちょう)!」


 叫ぶと当時に手の中にロッドが現れた。おお、俺がいつも使うシマノのロッドだ。


「魚住くん?」

「あれ? これ見えない?」


 俺は手に持ったロッドを振った。玉井は首を傾げた。そうか、これは俺のイマジネーション。それなら、形も変わるかも。


「サラマンダーって何食うと思う?」


 玉井に聞いてみた。


「んっ? 鳥とか?」


 鳥か。ニワトリを想像してみた。ルアーが形を変え、小さなニワトリの形になった。


 物陰を進み、里の中央まで出る。


 上空ではサラマンダーが、ちょうど旋回をするところ。そのさきを狙って、ニワトリのルアーを投げた。


 ルアーが空中でフワリと止まる。


 リールをじっくり巻くと、ニワトリのルアーは羽をパタパタ動かした。旋回して回ったところに動く鳥。サラマンダーが思わずバクッと口にした。


「フィッシュ・オン!」


 俺はリールを巻いた。サラマンダーが首を振る。これはラインが切れる! ゆるめて泳がす。


 こっちを向いた瞬間に大きく竿を引いた。 その引っぱる動きで、サラマンダーは大きくバランスを崩した。今だ! 俺はリールを猛スピードで巻いた。


 サラマンダーがバランスを立て直そうとするたび、俺はラインを引いた。その引きで右へ左へと身をよじる。


 やがて完全にバランスを失い、サラマンダーは地面に真っ逆さまに落ちた。


 起きようとしたサラマンダーに素早くジャムさんが飛び移り、頭の上から剣を刺す。サラマンダーは動きを止め、バタン! と横倒しになった。


 いやはや、これ、人生で一番デカイ釣果だけど、さすがに魚拓取れないよな……

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