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16-1 遠藤もも 「洞窟のダメンズ3」

視点変わります。ももちゃんこと遠藤(えんどう)もも

ほか今話登場人物(ニックネーム)

小暮元太(ゲンタ)

沼田睦美(むっちゃん)

土田清正

魚住将吾

茂木あつし


「もも、ダメンズ3と連絡取れる?」


 ヴァゼル忍者クラブで、早朝練習をしている時だった。女子の一人から声をかけられる。


「モシモシ!」


 耳を手を当てた。あたしのスキル「遠隔通話」だ。でも何も聞こえない。相手が気づいてないというより「圏外」っぽい。


「あいつら、多分あそこで寝てるわ。あたし起こしてくる」


「ダメンズ3」とは、本人たちが自虐的にそう呼んでいる。目論見が外れて、スキルがまったく役に立たないからだ。


 この世界でスキルが役に立たないというのは、かなり気の毒。


 せっかくの異世界。魔法が使えないので、スキルぐらいは使いたい。


 この世界に来たばかりのころは、魔法とか使えるかも! とわくわくしたが、だめみたい。


 頭良い人グループが言うには、地球の人間と、ここの生物はタイプが違うっぽい。


 剣を鞘に戻し、腰に差した。広場をあとにする。


 広場の隅で素振りをしている大男を見つけた。小暮元太だ。


 手にしているのは……石斧? 木の棒に石をくくりつけている。おお、そんな武器に行き着いたのね。


 あの街への買い出しは、けっきょく中止になった。


 敵のゴーレムに勝つと、ローブの老人はあっという間に逃げ出した。残されたのは荷車が一台。それを引いていた馬が二頭。


 もったいないから、馬ごと荷馬車を連れて帰ることにした。それ以降、街への買い出しは見送り。また見つかったらやっかいだ。


「ももちゃん?」


 呼ばれて振り向いた。呼んだのは「むっちゃん」こと沼田睦美だった。


「洞窟?」

「そう、ダメンズ3、またあそこで寝てるわ」

「じゃあ、私も。そろそろランプ切れてるはずだから」


 ランプとは、むっちゃんが光らす石だ。洞窟なので四六時中ランプがないと見えない。


 洞窟は、この「隠れ里」を囲う山の中腹にあった。かなり深い洞窟で、前の住人が使っていた形跡もある。


 食料が自給自足でいけるのが、この洞窟のお陰が大きい。岩塩が取れるからだ。


 むっちゃんと話しながら、洞窟に向かう。話題は、部屋に置く「むっちゃんランプ」に何が似合うか?


 女子に人気なのは花や葉っぱ。二つほど置いておくと、いい雰囲気の部屋になる。


「男子で人気なのって、何?」

「んー、ただの石が多いけど、一部で人気なのは、動物の頭蓋骨」

「うげっ。男の子の趣味って永遠の謎だわ」

「あれ? ももちゃんは理解ありそうな気がした」


 むむ。プロレス好きがバレたので、あたしは男性っぽいと思われているのか。


 そんな話をしていると、洞窟の入り口に着いた。


 むっちゃんが入り口すぐの石にさわる。


「ピカール!」


 ちょうど台座のような岩の上に置かれた石が光る。明るくなった洞窟を進み、点々と置かれたランプ代わりの石を灯していった。


 洞窟の最深部で、三人が寝ていた。一番近くの土田清正くんを起こす。


「土田くん、起きて!」


「んあ?」と間抜けな声を上げて、土田くんが起きた。


 土田くんのスキルは、酵母菌を見るための顕微鏡になる目。


 土田酒造の跡取りであった土田くんは、この異世界でも酒を造ろうと目論んだらしい。


 悲しいかな、麦はあっても米がない。味噌と醤油も酵母で作るが、豆もない。酒はどうでもいいけど、豆はぜひとも手に入れて、味噌と醤油は作って欲しいな。


「なんだ、ももかよ」


 気だるそうに起きてきたのは、魚住将吾くん。


 魚住くんは、もっと悲惨だ。釣り竿がなくても釣れるというスキルらしいけど、この付近に海もなければ池もない。


 この里の入り口に川はあったが、清流すぎるのか、魚はいないようだった。


「おうおう、なんでい! もう朝かい?」

「茂木くん、江戸弁ぶらないでいいから」


 茂木あつしくんは、悲惨というより切ない。


 父親が大工の茂木くんは、この異世界での物作りは自分の役目だと思った。付けたスキルは「糸ノコギリ」だ。


 複雑な形に木を切るには、糸ノコが必須。ところが、この「隠れ里」があったお陰で、家を作る必要はない。みんなの役に立とうと頭をひねった結果、今のとこ、無用のスキルとなってしまった。


「もう、三人とも、あたしの通話が届かないんだから、自分で起きてよね!」


 ダメンズ3は岩塩の発掘を買って出たのだが、化石がたまに出るらしい。昼は岩塩を発掘して、夜は化石掘りにハマっている。


 まったく、男子の趣味って、わからんわ。


「もも、遠藤ももよ」


 地面からとつぜん、女の霊が出てきた!


「うううわぁぁぁぁ!」


 五人ともが腰を抜かした。


「あっ、おどかしてすまぬ。わらわじゃ」


 よく見ると、菩提樹の精霊さんだ。


「もう、精霊さん! ここ洞窟よ。雰囲気ありすぎ!」

「すまぬ。ちとまずいことになった。わらわの元まで急ぎ、駆けつけられまいか?」


 何がまずいのか? でも精霊さんが言うのだから、かなりまずい!

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