15-2 小暮元太 「ゴーレムとの決闘」
今話登場人物(ニックネーム)
小暮元太(ゲンタ)
飯塚清士郎(プリンス)
遠藤もも(ももちゃん)
蛭川日出男(ゲスオ)
姫野美姫(ヒメ)
根岸光平(コウ)
「ゴーレム?」
「土で作った人形に、命を吹き込んだ物」
横にいた遠藤さんが、ぼくに聞くので答えた。
「これなら、魔法は消せぬぞ。異世界の子らよ。さて、どう戦う?」
ローブの老人は自信満々だ。
ゴーレムは荷台から降りて、こっちにゆっくり歩いてくる。高さは三メートルはあるかも。こっちの五人はゆっくり下がった。
「お茶目な落書き!」
ゲスオくんが遠藤さんにタッチした。
『プリンス! 大丈夫?』
姫野さんの声だ。遠藤さんの通話スキルを全員に拡張したのか。
「どうだろうな、やってみないと」
「動き鈍そうや、いけるで」
『コウ、無理すんなよ!』
この声は、コウくんと仲がいいタクくんの声か。
『ちょっとみんな、話すの控えて! プリンスのほうの状況だけ、誰か伝えて』
「オッケー。あたしにまかせて」
遠藤さんが答えた。ぼくはしゃべらないほうがいいだろう。
プリンスとコウが剣を抜いた。コウが早い動きで背後を取る。剣で斬るが「キン」と硬い音がした。
次にプリンスが正面に間合いを詰める。詰めたと思ったら、横に動き、飛び上がって頭に剣を刺した!
「パキッ」と音が鳴る。プリンスの剣が折れた!
呪文を唱え続ける老人が、にやっと笑ったのが見えた。
「ヒメ! プリンスの剣が折れた! このバケモノ、剣が効かないみたい!」
『ももちゃん、無理せず逃げてよ! その敵だったら、相性いいのはゲンタくんぐらいしかいない』
ええっ? ぼく?
「姫野さん、ぼく?」
『そう、剣がダメな相手は、ぶったたくとかしかないの。でも、無理しないでいいから!』
そうか。姫野さんは、ぼくのスキルを知っている。ぼくのスキルは単純に力を強くする、それだけの単純なスキルだ。
『逃げるのって、いつでもできるぜ。せっかくなら、一発かましてみれば?』
横から入ったのは、キングの声だ。
『ちょっと! 無責任に言わないでよ!』
『だって姫野、プリンスとコウ、ゲスオもいるんだ。危なくなったら、なんとするさ』
逃げるのはいつでもできる、か。
キングくんは、いつも青臭い。
相撲部は三名しかいないので、だいたいの大会には人数が足りなかったりする。あきらめていたのに、学校中から臨時の部員を集めてくれたのは、キングだ。
「やってから考えようぜ」
と、あの時もキングくんは言ってたなぁ。ただ、キングくん、臨時で入ったのに、けっこう勝っちゃうから恐ろしい。
やってから考えるか。よし!
「ぶちかましてみます!」
『おお! そういや、ゲンタって相撲部だった。ぶちかませ!』
男子から「オー!」という声援も入った。
「ヒメ、ゲンタがシャツ脱いだよ」
『ええっ! そこ脱ぐ必要なくない?』
顔に張り手をして、気合を入れる。スキルの発動はスキル名だ。息を思いっきり吸って叫ぶ。
「元気ですかー!」
『そっち!』
耳から大勢の人のツッコム声が聞こえた。元気があればなんでもできる。
「全国7万5千人のプロレスファンのかた、お待たせいたしました。プロレス中継の時間です」
「中継かい!」
「今日の実況は、わたくし遠藤もも。ゲスト解説にゲスオさん、プリンスさん、コウさんに来ていただきました。よろしくお願いします」
「お願いします」
「……」
「プリンス、無言やん!」
「さて、ゲスオさん、今日の時間無制限一本勝負。ずばり見どころは」
「やはり体格差でしょうか。ゲンタ選手もヘビー級ですが、相手はさらに上。正面からは行かないでしょうね」
「遠藤はプ女子だったんかい!」
「おおっと! こちらの予想に反し、がっぷり手四つ。ゴーレム選手が上から体重をかける」
「いけませんね。力勝負をしては」
「これにはゲンタ選手も膝を……おおっと!ヘッドバットで奇襲だ!」
「相手の目でしょうか。目の位置に埋め込んでいる石に頭が当たりましたね。思わずゴーレム選手も腕を放しました」
「目は反則ですが、レフェリーは止めません」
「レフェリーおらんて! っつうか、わいは、あれか? ツッコミ役なん?」
「おや? ゲンタ選手、相手に背を向け走って距離を取った!」
「何か、狙ってますね」
「そこから助走しての……ドロップキック! ドロップキックー! これにはゴーレム選手も後ろに倒れる! いかかでしょう? 今の技、ゲスト解説のプリンスさん」
「……両足がきれいに揃い、当たる瞬間にバネのようにぶつけました。見事です」
「プリンス乗るんかい! んで、なにげに知っとるやん!」
「さあ、ゴーレム選手が起き上がり……おや? ゲンタ選手を見失ったようです」
「うしろですね」
「ああっと! ゲンタ選手、うしろからゴーレム選手に腕を回した!」
「バックドロップの体勢です」
「ぬけるか! ぬけるのか!」
想像以上に重い。
気合を入れるぞ!
「行くぞー!」
「ゲンタ選手ほえたー!」
「1・2・3!」
「ダー!」
「ぶっこぬいたー! そしてがっちりホールド! これは3カウント入るか?」
「うん? わい? わいの役目なん? ニンニン!」
「レフェリーが素早く駆け寄る。ワン・ツー・スリー! 決まったー! ベルトを手にしたのは、挑戦者のゲンタ選手だー!」
胴を持った手を放し、ブリッジした体勢から立ち上がった。ゴーレムの頭は地面に打った衝撃で、体にめり込んでいた。
ピクリとも動かない。良かった。倒せたようだ。
「放送席ー放送席ー、それではゲンタ選手に、勝利の一言をいただきたいと思います。勝った感想を一言」
「ごっつぁんです!」
「最後だけ相撲かい!」





