14-2 姫野美姫 「スマホスキル」
今話登場人物(ニックネーム)
姫野美姫(ヒメ)
坂城秀(ドク)
ヴァゼルケビナード(ヴァゼル伯爵)
ジャムザウール(ジャムパパ)
高島瀬玲奈(セレイナ)
飯塚清士郎(プリンス)
有馬和樹(キング)
遠藤もも(ももちゃん)
根岸光平(コウ)
山田卓司(タク)
蛭川日出男(ゲスオ)
コーラって、嘘でしょ!
わたしも駆け寄る。一口飲んでみた。ほんとだ、コーラだ。気の抜けたコーラ。でも微炭酸だけど、ちゃんと炭酸!
「どうやったの?」
作ったドクに詰め寄る。
「どうって、シロップと炭酸で」
「甘みは?」
「砂糖大根みたいなのがあってね、それを煮詰めて」
「炭酸は?」
「重曹は炭酸水素ナトリウムだから、そこは簡単に……」
さっき思ったけど、ケタ違いがいた。これは才能とスキルのスーパー無駄遣い!
もう、ため息しか出てこない。元いた場所に座って、食事に戻る。
「師匠ー!」
なんの声かと思ったら、ヴァゼル伯爵がコーラを吹き出した。初体験だと、そりゃ刺激が強いよ。それを見てたジャムパパが、そっと飲むのをやめたのも見えた。
食事を終えて、コーラをちびちび飲む。光る菩提樹をしみじみ眺めた。
周りでは、みんなが浮かれたようにしゃべっている。ここまで大変だったので、無理もない。
あっ、と思い出して表計算を出した。残りの食料を計算しとかないと。
「ワーカホリック、仕事中毒ね」
透き通る声に振り向くと、高島瀬玲奈だった。
「今ぐらい、明日を考えるのをやめたら?」
セレイナの意見はもっともだ。表計算をしまった。
「ヒ、ヒメ、あれ……」
プリンスが通りがかった。それは問題ではない。問題は全身が光ってることだ。連れている妖精まで光っている。
「プリンスそれ……」
「ああ、生き物でも光るか? って実験でジャンケンしてキングに負けた」
颯爽と去っていく。
プリンスは切れ長のハンサムだ。それが光ってるんだから、美的破壊力がすごい。
「彼、変わったわよね」
セレイナが言った。
「ほんと。何が人を変えるのか、永遠の謎だわ」
「アタシは、けっこうわかるわよ」
「ええ?」
「昔から、チヤホヤされてたから」
そりゃあ、チヤホヤされるだろう。小さい時の写真を見たことがあるが、おめめクリクリ、まるで天使だ。
「だから、このクラスに来て良かったわ。井の中の蛙。よくわかった」
「あー、キングとプリンスがいるから?」
セレイナが、わたしを見る。まつ毛長っ! いや、そうじゃないか。
「まさか、わたし?」
「才色兼備ってのが、ほんとにいるって思い知ったわ」
「わたしが? ないないない!」
「しゃべらなかったら、もっとモテてるわ」
「わちゃ。反論できない。あと胸とね」
「それで胸があったら嫌味よ。そのぐらいでいいの」
「わたしは良くない」
「もう少し欠点欲しいぐらい。何かないの? 水虫とか」
「ぎゃはは」
「クラスにヒメがいて良かった」
「むむ。照れますな」
「だから、あんまり無理しないで」
セレイナが言いたいのは、そこなのね。私はうなずいた。
『ちょっと! 我がクラスの女子ツートップが、そんな隅にいないでくれる?』
急に声が届いた。
「ももちゃん! おどろくから急はやめて!」
「えっ? 誰?」
セレイナが周りを見た。そうだった、セレイナには聞こえないんだった。
「遠藤もも、彼女のスキルはスマホ。いや画像はないからケイタイか。電話できるの」
「そんなスキルあるんだ!」
ももを見つけたので、セレイナに教える。こっちに手を振って、片手は耳を押さえていた。隣には、コウとタクの二人がいる。
『今、コウたちと話してたんだけど、あたしもヴェゼル忍者クラブに入ろうと思うの』
ヴァゼル忍者クラブ……そんな名前になったのか。
『あたしのスキルって、これ向きかなって。あたしが中継基地になれば便利じゃない?』
たしかに軍事的に言うと、索敵とか斥候向きだ。身体が小さいのに、バスケ部でレギュラーだった機敏さもある。
「うん。わかった。無理しないでね」
『りょ。あ、さっきプリンス見たわよ! ちょっと女子も負けてらんない。どっちか光ったら?』
「なんの勝負よ!」
『じゃあ、せっかくだから、セレイナに一曲でも歌わせればいいのに』
不思議そうな顔をしているセレイナに伝えた。
「一曲歌えって」
「ええ! 嫌よ」
「セレイナは嫌だって」
『ケチだなぁ。減るもんでもないのに』
とつぜん通話は切れた。遠くにいたゲスオが、はっと顔を上げ、ももに向かって駆けていく。
今日は、嫌な予感しかしないわね。





