13-2 沼田睦美 「照明のスキル」
今話登場人物(ニックネーム)
沼田睦美(むっちゃん)
友松あや(あやちゃん)
ジャムザウール(ジャムパパ)
喜多絵麻(エマちゃん)
姫野美姫(ヒメちゃん)
「これで、お肉があれば完璧なんだけどな」
ぼそりと友松さんがつぶやいた。
「娘たちの要望に応えよう」
とつぜんの声に振り返ると、トカゲの戦士ジャムさんだった。手には射止めた野鳥を何匹も持っている。
「そこの山に鳥が多くてな」
「ジャムパパ! 最高!」
友松さんが抱きついた。友松さんの肝っ玉は太い。
「あちらで捌いてこよう」
それを見た喜多さんが、意を決したようにナイフを置いた。
「私、教わります!」
みんなが「えー!」とおどろく。
「そうね。この世界だと、やんないといけないことだし。うちも行くわ」
友松さんも行くみたい。
「あやちゃんは鍋見てて欲しい」
「なるほ。オケオケ。じゃあ、ジャムパパまた今度!」
喜多さんほか二名がジャムさんと消える。私は恐ろしくて、手を挙げられなかった。でも、頑張って野菜は剥こう!
そう思ったけど、自分の剥いた野菜をみて、気分が凹む。皮が、分厚い。はぁ、やくたたずだわ。
「ちょっと、トイレ行ってくる」
友松さんがナイフを置いた。
「ランタン借りれないかなぁ」
そう言って周りをキョロキョロする。日が暮れてきた。暗い所で用を足すのは、私も怖い。
「野宿してる時のほうが、ある意味、楽よね。ちょっと離れれば見えなくなるから」
ああ、それは言える。ここだと、人の目から隠れるには、かなり離れて草むらに入らないと。
「友松さん、秘密にしといてね」
私は人参のヘタを手に取った。
「ピカール!」
人参のヘタが光りだす。
「なにこれ?」
「なにって、私のスキル」
「嘘でしょ! むっちゃん、なんで言わないの!」
「えっ? あまりに無駄すぎて」
「無駄? これが?」
「えっ? だって火があれば灯りはできるし」
私はとにかく、暗いと寝れない。スキルを考えた時も、まっさきにそれが浮かんだ。ところが、灯りなんて火があればどうにでもなる。
貴重な一人一個のスキルを無駄にした。今となって考えれば、私も掃除にしとけば良かった。友松さんの負担を軽くできる。
「むっちゃん! みんなに……」
そこまで言って、友松さんは考えた。
「待って。どうせなら、おどろかせたい」
「友松さん、トイレは?」
「それどころじゃないわ。もう引っ込んじゃった」
友松さんは、それっきり、その話はしなかった。何をするんだろう? オバケの真似するとか? みんなに知られたくないなぁ。
喜多さんたちが帰ってきて、いよいよ料理が進む。野菜ゴロゴロの異世界カレーは、ほんとにカレーの匂い!
匂いだけで、お腹が空いてきた。
さばいた鳥は、ぶつぎりにして鍋で焼く。スパイスは量が少ないので、最後に振りかけるらしい。
広場にみんなが集まった。
「料理班、ありがとう」
姫野さんが言った。
「そのうち男子にも料理してもらうからね」
「ううん。いいの。慣れてる人でやったほうが早いから」
喜多さんは微笑んだ。喜多さんの優しさだが、考えようによっては辛辣だ。へたくそは邪魔だと。反省、料理の練習しよっと!
「じゃあ、晩ごはんに……」
「ヒメ、ちょっと待って!」
友松さんが、待ったをかけた。私の横に来る。手には木桶を持っていた。
「ちょっと女子にプレゼントがあるの。並んでくれる?」
女子のみんなが首を傾げながら、友松さんの前に並んだ。一番は料理の達人、喜多さんだった。
友松さんが、木桶から拳ほどの石を取り出した。私に差し出す。
「じゃあ、むっちゃん、お願い」
うわー、そういうことか。笑われちゃうな。石を手に取った。
「ピカール!」
石が光った。
「えっ!」
喜多さんが、それを見て固まった。それからプルプル震えて、頭上に掲げた。
「いやったー!」
ざわめきは波のように広がった。私も私も、とせがまれる。
みんなに一つずつ石を渡し、光らせた。
「ええと、寝る時にまぶしかったら、布をかけてね」
「えー! 要らないよ」
「むっちゃん、これ、時間はどれぐらいもつ?」
「たぶん、8時間ぐらい」
「うわー! 最高!」
すごい喜んでくれてる。私、すごい思い違いをしてたみたいだ。





