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12-2 喜多絵麻 「菩提樹の精霊」

今話登場人物(呼び名または表記)

喜多絵麻

飯塚清士郎(プリンス)

姫野美姫(ヒメちゃん)

有馬和樹(キング)


 妖精さんは、まだプリンスの服を引っ張っていた。


「どうも、どこかへ連れていきたいみたいね」


 そう言ったのはヒメちゃん。


「ああ。ひつこくてな。ちょっと行ってきていいか?」

「それなら全員で行こうぜ。おれら、行くあてもないし」


 いつのまにか帰ってきたキングくんが、プリンスとヒメちゃんに言った。


「そうねぇ。村長さんご夫婦は、これからどうされます?」

「わしらも行くあてがない。ご迷惑でなければ、ご一緒させてくれんか」


 反対する人はいなかった。


 村長さんの許可をもらい、村に残っていた食料や鍋、毛布などを集める。それをみんなで分担して持ち、出発した。



 妖精さんの案内で深い森を抜け、谷へ下りていく。谷底は迷路のようになっていて、案内がなければ迷うだろう。


「このあたりは、わしらでも来たことがないの」


 横を歩いていた村長さんが言う。地元の人がそう言うのだから、人が歩くような場所ではないんだと思う。


 途中で日が暮れて、野宿をした。次の朝にまた出発。


 しばらくすると川に出た。川に沿って上流へ登る。


 やがて、小さな滝に着いた。


 妖精さんはプリンスの服を引っ張り、滝の中へ導こうとしている。


「これって……」

「ああ、童話なんかじゃ、滝の先は桃源郷ってパターンだな」


 私の言葉にプリンスが応えた。思わず目を背ける。妖精を連れたキラキラのプリンスは、萌えすぎて直視できない。


 プリンスを筆頭に、数名が先に入る。しばらくして戻ってきた。滝の先に行けるようだ。


 濡れるのを我慢して滝に入った。その裏は洞窟になっていた。長い直線で、向こうに出口の明かりが見える。


 暗い洞窟を手探りで進み、反対側へ出た。思わず、ぽかんと口を開けて周りを見る。


 そこは桃源郷ではなかった。山に囲まれた土地。そして、そこにある草木は、どれもみんな枯れていた。


「なんか、とてつもない気配がするんだけどなぁ」

「ああ、殺気や敵意ではないがな」


 キングくんとプリンスが、そんな会話をしている。私には、わからなかった。ただ、枯れ果てた風景が広がるけど、薄気味悪さはない。


 妖精さんは、ここのさらに奥へ案内したいようだった。みんなで慎重に進んでいく。


「おい、あれ」


 誰かが言って、木の上を見ている。ところどころに背は低いが太い木があり、そこに小さな家があった。誰かが住んでいる気配はない。


 大きな道があり、そこを進んでいく。四角に区画された土地もあった。たぶん畑だったんだろうと思う。今は枯れた雑草が茂っていた。


 これは村だ。かつて、何かの村があった場所。


 さらに村の奥に進み、私は、キングとプリンスの言葉がわかった。


「とてつもない気配」とは巨大な樹だった。私が両手を広げても届かないほど、樹の幹は太い。


 その巨大な幹に、違う木が絡まっていた。私は近づこうとしたが、プリンスに止められた。


「グリーンマンだ」

「グリーンマン?」

「ケルト神話なんかで出てくるやつ。『葉の頭』とも言うかな」


 ほんとだ。よく見ると、絡まった木には男性の顔のような窪みがあった。


「うっ」と声がして、誰かが倒れた。


 花ちゃん、花森千香ちゃんだ。あわてて駆け寄って抱き起こすと、目を閉じたまま声を発した。


「わらわは菩提樹の精霊。人の子らよ、わらわの話を聞いて欲しい」


 うわっ! これ「口寄せ」だ。この樹の精霊が話しかけてる!


「聞けんな」

「えっ?」

「とりあえず、花森を離せ」


 そう言ったのはキングだ。


「おれの拳は物を粉砕する力を持っている。花森を離さないなら、お前を壊す!」


 えー! キングくん! ほんとに拳を引いて、樹を殴る構えだ。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい。この子はわらわと親和性が高いのです。媒介がなければ、話すことはできません」


「知らんな。花森の体を使って、どんな影響が出るかわかんない。おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」


 菩提樹があせってる。精霊って、すごい存在じゃなかったっけ。


 誰かが以前に言った言葉を思い出した。


「誰にも屈せず膝を折らない、王様ってそうだろ? 有馬はキングだよ」


 聞いた時は何も思わなかったけど、ほんと、有馬くんってキングなんだね。


 あっ、それよりさっきの言葉、あっちの世界なら録画できたのになぁ。


「おれは、お前なんかより花森のほうが大事だ」


 花ちゃん喜んでるだろうなぁ。ちゃんと聞けたかなぁ。


 私もフライパンの神様にでも乗っ取られて、プリンスが言ってくれないかなぁ。


「お前より、喜多のほうが大事だ」


 なんてやばい。妖精つれてるプリンスに言われたら……は、鼻血出ちゃう!


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