11 友松あや 「ゴブリン」
視点変わります。あやちゃんこと友松あや
ほか今話登場人物(呼び名)
高島瀬玲奈(セレイナ)
蛭川日出男(ゲスオ)
姫野美姫(ヒメ)
がんばっても寝れないので、起きることにした。
寝ころんで服が汚れたので、掃除スキルをかける。このスキルって、ほんとに便利。
焚き火のとこに行って、適当に新しい木をくべる。ぼう! と火が強くなった。
昔、よく弟たちのホラー映画に付き合わされたことがある。そんな時は眠れなくなった。けど、あれより今の現実のほうが怖い。
でも、そんな映画の主人公より、うちらは恵まれているのかもしれない。なんせ、クラスのみんながいる。頼りになるキングとプリンスもいる。
あれ? そう思ったらキングとプリンスがいない。あとのみんなは寝ている。起きているのは「ヒメ」こと姫野美姫ぐらい。ヒメは自分の表計算スキルで何かしているようだった。
「あやちゃん、キョロキョロして、どうしたの?」
声をかけてきたのは、高島瀬玲奈だ。
「キングとプリンスがいないなって」
「ああ、プリンスは盗賊退治、キングはさっき村を見てくるって」
あ、そうだった。プリンスは、ジャムパパたちと掃討作戦だった。
「セレイナも寝れない?」
「うん」
切なげに笑って髪を耳にかけた。うーん、やっぱり、女子から見ても色っぽい。
背の高さ順で並ぶと、うちかセレイナが最後だ。デッカイ二人だけど、月とスッポン。いや、クルーザーとダンプ。もちろん、うちがダンプ。ほっとけ。デブではない。ぽっちゃりだ。
胸の大きさでは勝ってんだけどな。両手でつかんで持ち上げてみる。ただ、肩がこるのよねぇ。
「むっ! 悪寒がする!」
「……あやタン、弱った拙者に、そんなセクシーショットを見せて」
「見せてねえぞ!」
「おふぅ。口が悪い。全国のぽっちゃり愛好家が嘆きますぞ」
「殺すぞ」
「はい。僕ちゃん寝まーす」
まったく、ゲスオは油断も隙もない。うん? やっぱり、ぽっちゃりなのか。ちと安心。セレイナがくすりと笑った。
「あやちゃん、うらやましい」
「ええっ! どこが?」
「たくましいとこ。事務所の人間に言ってみたいわ。殺すぞ!」
ああ、芸能事務所ね。なかなか思うようにいかないと、前に嘆いていた。歌のほうに行きたいのに、グラビア撮れって。美人にも悩みってあるもんだわ。
「……なにか、音が違う」
セレイナが両耳に手を当てた。うちも耳をすましたが、何も聞こえない。彼女、音楽やってるから耳がいいのだろうか。
「あやタン、みんな起こして」
ゲスオまで起きてきた。これはやばそう。
見張りは? そう思ったら、見張り役の男子は木の下で居眠りしてた。もう!
みんなを起こし、焚き火を背に輪になって固まる。その外側に武器を持った男子。
「みんな、ためらわず切って! 迷うと死ぬわよ!」
そう言ってヒメも剣を抜いた。
ガサッガサッっと、草をかき分ける音が近づいてくる。
「ひっ!」
セレイナが、口に手を当てて指差した。その方向を見る。赤い目だ。木々の間から赤い目が見える。
赤い目はどんどん増えた。囲まれてる。
「セレイナ!」
突然、ヒメが大声を上げた。みんながビクッとする。
「ア、アタシ?」
「セレイナ、歌!」
「う、歌?」
「みんなを鼓舞して!」
敵が見えるところに出てきた。小さい身体。緑色の皮膚。尖った耳に、キザキザの歯。
こいつは、弟がやってたゲームで見たことある。ゴブリンだ。
「セレイナ、歌!」
隣のセレイナは、完全に動揺している。
「だいじょうぶよ! 歌うまいんだから!」
「あやちゃん、なに歌えば……」
「戦歌? 軍歌?」
「そんなの知らないし!」
ゴブリンがじりじり寄って来た!
「セレイナ!」
ゴクリと生唾を飲んで、手を前に組み、歌い始めた。
♪~幸せは~歩いてこない~♪
まさかの水○寺清子!
ゲスオがセレイナに駆け寄った。
「お茶目な落書き!『響く声』を『心に響く声』に!」
♪~だから歩いて行くんだね~一日一歩三日で散歩~♪
「三歩進んで二歩下がるーっと!」
うちも口ずさんだ。焚き火から火の点いた一本を持ち上げる。
♪~人生はワンツーパンチ!~♪
「おおお! アゲ来たぁぁぁ!」
剣を持った男子の一人が叫んだ。
♪~腕を振って~足を上げて~♪
「ワンツー! ワンツー!」
「ワンツー! ワンツー!」
全員で叫んだ。ゴブリンが後退る。
「突撃!」
ヒメの声に全員がゴブリンに向かう!
ゴブリンが逃げた。小っちゃいのに、なんて足の早いやつ!
「待てゴルァ!」
火を持って追いかける。なかなか追いつけない。
♪~蛍の光~窓の雪~♪
違う歌が聞こえた。冷静になって足を止める。
♪…本日の戦闘は終了いたしました。ヒメちゃん、これいる?
あはは。セレイナのしゃべる声まで心に響く。





