2-1 有馬和樹 「召喚部屋」
一人称の視点変わります。
各話、番号の隣りにある名前が、その人の視点になります。
今回は召喚に落ちた張本人の有馬和樹。
気づけば、ごつごつとした石造りの部屋。
まわりを見る。全員いた。3年F組の全員が落ちたのか!
ついさっきまで、クラス全員で二子玉川の河川敷にいた。みんなで花火をしていたはずだ。
おれの下に魔法陣みたいなのが現れ、身体が沈んでいった。クラスメートが気づき腕を掴んだ。それも引っ張られ、また一人が助けようと腰にしがみつき……
昔話の「おおきなかぶ」みたいになった。だが結局、そのままみんなで落ちたのか。くそっ、おれのせいだ。何があっても、みんなを守らないと。
扉がひらき、灰色のローブを着た老人が入ってきた。頭はツルッパゲ。聖職者? いや雰囲気がちがう。倒すべきか? 重心を沈めて構える。
肩をそっと叩かれた。親友の飯塚清士郎だ。清士郎が首を振る。様子を見ろ、という事だろう。
清士郎の家は古くからの武家で、飯塚抜刀術の家元だ。道場はやってないが、祖父から手ほどきは受けている。真剣で練習をする古武術だ。こういう時の肝の座り方は尋常じゃない。
老人が何かしゃべった。言葉がわからない。そう思っていると、何かを唱えて腕を振った。
「これで言葉がわかろう」
ほんとだ、日本語に聞こえる。
「諸君らを召喚したのが、吾輩である。先に申しておくが暴れようとすれば……」
老人が手をかざすと、身体が重くなり身動きが取れなくなった。横を見ると清士郎も同じだ。
嘘だろ! 魔法かよ!
扉から大勢の兵士が入ってきた。
身動きが取れないまま、鉄のような金属でできた輪っかを付けられる。しまった、やはり入ってきた瞬間に倒すべきだったか!
「その首輪は、諸君らの居場所を探るものだ。危害はないので安心したまえ」
老人が笑っておれを見る。手を下ろすと、身体が動くようになった。
兵士が二枚の羊皮紙と、羽ペンをよこす。一枚が薄っすら赤っぽくて、もう一枚が青っぽい。めくって裏を見ると、何かの魔法陣が描かれていた。
「諸君らに特殊技能を一つ、授けることができる。赤にその名前を、青にその効果を書きたまえ。元いた世界の言葉でかまわぬ」
特殊技能?
誰かに見つめられている気がして、振り向いた。おれのもう一人の親友、蛭川日出男だ。そうか、日出男が貸してくれたラノベと同じか!
日出男と清士郎、三人で馬鹿話をしたことがある。自分なら、どんな特殊スキルがいいかと。
あの時、日出男は言った。自分が最も得意なものであること。そうでなければ、応用が利かないと。へたにチートと呼ばれる最強スキルを狙うと、だいたい上手くいかないらしい。
日出男と目線が合い、うなずいた。やっぱり、それが言いたいのだろう。
日出男は、さらさらと一番に書いた。老人のもとに持っていく。老人がそれを見て口をひらいた。
「無限の魔力、ふむ。無限というのはできぬな」
日出男は新しい紙を持って下がった。また、すぐに書いて持っていく。
「特殊技能の強奪か。できるが、さきほど言ったように一つしか持てぬぞ? つまり、強奪した瞬間に、強奪の能力はなくなる」
日出男は肩を落として帰っていった。そして再び提出。
「乳房の大きさに比例して、自分を好きになる。ふざけておるのか?」
日出男が、ここ一番肩を落として帰った。
何度もそれを繰り返し、ついに納得のいくスキルが通ったようだ。
「これは、何の得があるのか……まあ、よかろう」
老人は二枚の紙を頭上に掲げ、何かを唱えた。紙は燃え上がり、その炎は小さく集まると日出男に向かって飛びこんだ。
「ほかの者はトロール並みの頭か? いつまでかかるのだ」
みんなが、はっと我に返った。急いで書く。
日出男は自分が終わったからか、みんなの紙をのぞいたりと余裕だ。
全員の儀式が終わると長い廊下を歩かされた。
大きな扉の前に来る。
うしろで兵士が廊下をさえぎる鉄格子の門を閉めた。鉄格子の向こうにいる老人が睨みを利かせ、前にでる。
「それでは、諸君らの健闘を祈る」
そう言って、老人は帰っていった。
健闘? あの老人はそう言った。
まずいぞ! この中世に似た世界でそのセリフ。
ここは闘技場か!
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今後の書くカテにして参ります。ぜひに。