10 山田卓司 「盗賊のアジト」
視点変わります。タクこと山田卓司
ほか今話登場人物(呼び名)
ヴァゼルケビナード(ヴァゼル伯爵)
根岸光平(コウ)
飯塚清士郎(プリンス)
ジャムザウール(ジャムさん)
花森千香(花ちゃん)
盗賊を一人だけ生かしておいた。
アジトを聞き出す。こちらから攻撃して一掃しておかないと、いつ村にくるかわからないらしい。
聞き出したのは師匠のヴァゼル伯爵。今はまだ、そういう役目はするな、と言われた。
「そういう」とは、拷問だ。
アジトを殲滅する。師匠と俺、それにコウ。あとはプリンスとジャムさんだ。
夜の森を駆け抜ける。花森千香の癒やしで、視力も格段に良くなっていた。夜目の利きかたもハンパない。
夜のうちにアジトに着いた。小高い山の中腹にある洞窟だった。入口から光が漏れている。中から音は聞こえず、かすかにイビキが聞こえた。
「寝込みを襲う。コウとタクは残れ」
「師匠!」
「お前たちは、まだ気配を殺せぬ。それができてからだ」
それを言われると返す言葉はない。だってまだ、忍者になって一日目だ。
「プリンス殿はついてきて、私とジャム殿の動きを見て欲しい。声を上げさせず仕留めるには、どう刺すのかを」
「わかった」
プリンスは静かに言った。動揺ひとつ見せない。まあ、プリンスと呼ばれるだけあるな。
プリンスとは中学から一緒だが、元から別格の雰囲気だった。それが高校でキングと一緒になり、さらに変わった。
昔はとっつきにくかったが、今はそうでもない。
「終わった。来てくれ」
プリンスが呼びに来て、中に入った。洞窟の中は思ったより広く、すえた匂いがした。
死体は壁際に積まれていた。心臓を一突きだ。
プリンスが盗賊の荷物を物色し始める。
「……金、盗むのか?」
「うん? 当たり前だろう。俺ら、無一文だぞ。いや、無一文じゃなくても取るか。置いていって何の得もないだろ?」
それはそうだ。
麻袋に入った宝石を見つけた時だった。プリンスが俺のうしろを指差す。
「その木箱、気になるな」
振り返ると、壺でも入ってそうな木箱があった。持ち上げて揺すってみる。カタカタ! と中で音が鳴ったので、びっくりして落とした。
プリンスがそれを拾い、耳に当てた。
「なんか、生き物がいるな」
プリンスは近場にあったナイフを手に取った。
「おいおい、開けんの? 危なくね?」
「それもそうだな。ちょっと離れててくれ」
……きみって、ホントに動じないね。
プリンスがフタの隙間にナイフを差し込んだ。バキッ!っと釘が抜ける音がして、フタが空く。
何かが空中に飛び出した! 思わず、剣の柄を握る。
蝶? 蛾? プリンスのまわりを高速で飛び回り、ピーチクパーチク鳴いている。
「タク、そこの木の枝二本、取ってくれ」
飛び回る蝶を目で追いながら、プリンスが地面を差した。小さな木の枝を拾い、プリンスに渡す。
プリンスはそれをハシのように持ち、飛び回る蝶をパシッと挟んだ。お前、宮本武蔵かよ!
「おどろいた。やっぱ、ピクシーだわ」
ハシに挟まれたのは、羽の生えた小さな女の子だった。
「ピクシーとな?」
「ええ、ジャム殿。俺らの世界では、そう呼ばれております」
ヴァゼル師匠も横からのぞいた。
「ほう、私の世界でも見かけない生き物ですな」
師匠の世界にもいないのか。本の世界では人間の言葉をしゃべるとあったが、鳥のように鳴いているだけだ。
「おお、悪ぃ、痛いのかな」
プリンスは、自分の手のひらにピクシーを置いた。
「痛っ」
プリンスの指に噛み付いていた。思わず叩き潰すかと思ったら、顔の前に掲げた。
「噛み付く前に、逃げたほうが早いと思うのだが……」
プリンスの意見はもっともだが、何を食えばこういう高校生になるのだろう。自分の指を噛まれても冷静だ。ピクシーはまだ、ピーチク騒いでいる。
「落ち着けって。ちょっと水でも飲むか?」
プリンスが岩の上にあった木のカップを取った。口に持っていくと、ピクシーが飲む。飲んで、なぜか倒れた。
「あっ、悪ぃ、これ酒だわ」
プリンスがカップの中を匂って言った。
それからも物色は続いた。ランタンなど、こっちでも使えそうな物も持って帰る。
「……なあ、これ、誰か代わってくれない?」
プリンスの言葉に、みんな無言だ。特に、俺とコウは、目を合わせて笑いをこらえた。
帰りは歩いて帰っていた。そのプリンスの手のひらに、ピクシーが眠っている。
こんなに困ったプリンスを見たのは初めてだ。面白いので、ぜったい代わってやんない。





