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9-1 花森千香 「村長の村」

視点変わります。花ちゃんこと花森千香

ほか今話登場人物(呼び名)

飯塚清士郎(プリンス)

姫野美姫(姫野さん)

ヴァゼルゲビナード(ヴァゼル伯爵)

根岸光平(コウくん)

山田卓司(タクくん)

蛭川日出男(ゲスオくん)

友松あや(友松さん)


「おい」


 いつのまにか後ろにプリンスがいた。飯塚清士郎くん。いまはもう、みんながプリンスと呼んでいる。有馬和樹くんもキングって名前で呼んでいい。


 声をかけられたのは、みんなのいる焚き火から離れて、花を見ていたからだ。


「あんま離れんなよ」

「はい」


 3年F組の「北風と太陽」とよく例えられる二人。プリンスがもちろん北風だ。


 眠い目をこすり、みんなの元へ歩く。昨日は一睡もできなかった。


 こういう時、花屋に生まれた私は、花を見ると落ち着く。祖父の代で「花森花屋」という店は、母が「ハナ♡ハナ」に改名した。


 小さい頃から「ハナ♡ハナ」に出入りしてたので、花には詳しい。それでも、ここは異世界なので、見たことがない花が多かった。


 気をつけないと。現実の世界でも毒のある花は意外に多い。眺めるだけにして、摘み取るのはやめておこう。


「花ちゃーん!」


 姫野美姫さんに呼ばれて走っていく。


 男子の一人が、腕に傷を作っていた。山猫のような動物に襲われたらしい。急いで私のスキルで治す。


 出発の準備をして、男子たちが焚き火の跡を消していた。


 目指す行き先は、老夫婦のいた村。


 森を抜け、山を一つ超えるとあるらしい。昨日に乗った馬車は使えない。みんなの足を引っぱらないか、そこが不安。


 山の途中で一泊し、次の日に山を下りることができた。そしてようやく、人の作った道に出る。


 歩いていくと、先頭が止まった。


「あれ、煙じゃないか?」


 プリンスが歩く先の空を指して言った。


「私が見て参りましょう」


 そう言ったのは、私が昨日、治し過ぎたらしいヴァゼル伯爵。


「師匠、わいらも」


 そう言ったのは、陸上部のコウくんこと根岸光平くん。それに水泳部のタクくんこと山田卓司くん。



 三人が下見に行き、しばらくすると戻ってきた。


 老夫婦と話をしている。コウくんも、タクくんも険しい表情。


 老夫婦が泣き崩れた。


 キングやプリンスを中心に、なにか話がされている。近づいて聞いてみた。


「おれ、タク、コウ、ジャム殿、伯爵の五人で行く。プリンスはみんなを頼むな」

「不満はあるが、まあ、しょうがないな」

「伯爵、相手は十人で間違いない?」

「間違いありません」


 盗賊のようなものが、村を襲ったらしい。


 今その盗賊は、村長の家で酒盛りをしているそうだ。


「ぐふふ、拙者をお忘れか」


 ゲスオってすごいあだ名の蛭川日出男くん。今は、ふざけてる時じゃないと思うのに。


「ゲスオ、今回はダメだ。危険すぎる」

「拙者がおられば、不測の事態に対処できませぬぞ」

「十人との戦闘だからな、そこまでにはならない」


 戦闘。映画でも見てるみたい。


「では、今後、拙者は協力いたしません」

「ゲスオ! ふざけんなって」


 珍しく、ゲスオくんがごねている。


 結局、戦闘には入らないけど、村の入口で待機という事で納得した。


 六人が静かに駆けていった。


 私たちは道から外れ、林の中に身を隠した。ほかの盗賊が来た時の用心らしい。


 時々、プリンスと男子数名が道に出て、村の様子を見張る。気づけば、そのみんなは腰に剣やナイフをつけていた。


 私はのんきだったのかもしれない。朝に花を眺めている場合じゃないかも。


「待ってるの、長いね」


 私の隣にいた、友松あやさんが言った。ほんとに待ってる時間って長い。


 どのぐらい時間が経ったのか、わからくなるぐらい待った。


 伯爵が飛んで帰ってきた。プリンスが、みんなを呼ぶジェスチャーをする。


「みんな、まだしばらく待ってて。男はもう数名来てくれ。かなり片付けないといけない」

「それ、うちが行くよ」


 友松さんの言葉におどろいた。


「それはダメだ」

「血を消すのって、うちのスキルが有効でしょ」


 そうか。さっきの「片付け」の意味がわかった。


「あの! ケガをした人は?」


 思わず聞いてしまった。


「タク、コウ、ゲスオの三人だ。命には関わらないから、こっちに連れてくる」


 プリンスと男子数名が走っていった。


「うちが行ったほうが、早いと思うんだけどな」

「あや、さすがに見ないほうがいいんじゃない? 村全滅よ」


 姫野さんと、友松さんが話をしている。


「ちょっと思ったのが、うちのスキルに『死体』って書き込んで、一気に掃除できないかな」

「あっ、なるほど!」


 姫野さんが、空中を下からスワイプするような動きをした。それを見ながら腕を組んで、指をトントンと叩いている。


 そして、意を決したように口を開いた。


「行くか」


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