8-2 根岸光平 「覚悟」
今話登場人物(呼び名または表記)
根岸光平(コウ)
姫野美姫(姫野)
山田卓司(タク)
ヴァゼルゲビナード(ヴァゼル伯爵)
有馬和樹(キング)
飯塚清士郎(プリンス)
姫野は思ったより元気だ。
でもまあ、大丈夫ではないやろな。生まれて始めて見る首チョンパだ。わいも正直、今日は寝れへんやろ。
しかし、ここまで来て気づいた。こんな時、どんな声をかけるのか考えていなかった。
「ひっ!」
姫野の視線のさきに、わいもたまげた。人の頭が地面からニョッキリ生え、目がこっちを見ている。いや、よく見ると知ってる顔やん!
「タク! おどかすなよ!」
わいの親友の山田卓司だった。
そのまま、ぬめっと地面から上半身が出てくる。
「いや、なにしてんのかなと」
「なんもしてへんわ! お前こそ、それ妖怪の出かたやで」
わいは伯爵とのやり取りを思い出した。
「そうや、タク、ヴァゼル伯爵に、お前も弟子入りせえへん?」
「うん? なんで?」
「あの人、気配消したりとか、めっちゃ上手そうなんよ。わいら向きやろ?」
「なるほど、俺ら、戦いには向いてないもんな」
「あ……やっぱ、ええわ」
話を切り上げようとしたら、タクに聞き直された。
「なんだよ、言ってみろよ」
「いや、逆やってん。やりたいのは今日の無音鬼みたいなヤツ。うしろからズブリ」
「まじで?」
「ええて。忘れて」
姫野が横から身を乗りだした。
「それって、暗殺ってこと?」
「そうや」
「無茶よ!」
「無茶か? この世界だったら、殺し合い普通やろ。だったら戦いになる前に殺したほうが効率ええやん」
「忍者だな。やろうぜ」
「いや、ええて、タク」
「思えば俺のスキル、土遁の術だし」
タクの胸ぐらを掴んで、地面から引き抜いた。
「わいは、覚悟決めたちゅう話、しとんねん!」
「怒んなよ、コウ」
タクが腕をはらった。
「んで、俺らがそれをやれば、みんなが戦わずに済むって狙いだろ」
「そうなの?」
「知らんがな!」
タクは得意げに、わいを指差した。
「こいつ、よく言うもん。ほんま、このクラスは当たりやわーって」
「当たり?」
「好みの美人が多いんじゃないかな」
「ちゃうわ!」
舞台裏を暴露されたみたいで、腹が立つ。でも、しゃあない、話すか。
「わいは二年時の転校で来たやろ。これ、一年時に転向してきたキングとよく話すけど、転校先のクラスって、めっちゃ当たり外れがあんねん」
姫野も思い出したようで、うなずいた。
「そうか。キングも転校が多かったって言ってたもんね」
「あそこは、親父が裁判官やからな。元裁判官か。わいはちゃうで。オトンが借金から逃げてるだけで。そんでな」
「……さらっとダークな話題ぶっこむわね」
「そうか? まあそれで、このクラスは当たりも当たり。大当たりってぐらい居心地ええのよ。なもんで、恩を感じるっちゅうやつかな」
居心地ええどころやないけどな。女子は、ちょいちょい弁当くれる。男子は、わいがおったら金のかからん遊びをする。
さりげない気遣いやけど、今どき、放課後にカラオケ行かず、空き地で遊んでる高校生なんかおらんで。
「そうなのね……でも、わたし、賛成とも反対とも、言えない」
「ええんちゃう。それで。姫野は知っとく必要あるやろ。これ、キングやプリンスやったら反対するで」
「するだろなぁ。勝手にやろうぜ!」
「軽いな! お前!」
「俺は、こういうのは軽く考えたほうがいいと思うよ」
姫野が両頬をパンパン! と叩いた。
「言えてる! 軽く考えたほうがいいわね」
「っつうか、忍者好きなのは、お前だろ」
「あほぅ! そんな幼稚ちゃう」
「お前のスキル名は?」
「ニンニン!……ほんまや!」
「ほらな」
だめだこりゃ、と首をすくめて姫野がパンを取りに行った。
そういや、なんの話をしに来たんやっけ?





