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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
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黄泉国召喚

「おおー」


 目が覚めると、そこは不思議な世界でした。

 メタセコイアによく似た優に千メートルを超える巨木が生い茂る太古の森と、そこに築かれたファンシーな町。幹をくり抜いて造った文字通りの“木の中のお家”が並び、編み目のように張り巡らされた吊り橋を連絡路として繋がっている。車の類は見当たらず、光源はそこかしこに生えた光る茸だけで、全体的に薄暗い。移動手段は基本的には徒歩である。

 しかし、文明の利器がないかと言えばそうでもなく、中空を立体映像の広告が移ろい、皆当たり前のようにバーチャフォンを持っている。武装もよく見るとサイバーパンクだ。魔法技術も応用されているらしく、あちこちで魔方陣が認証に使われている。

 何とも古典的な、それでいて未来融合している、不思議としか言えない世界観だった。

 そして、ここは始まりの町「アリュール」。自然と科学が融和した、平穏な田舎町である。


「……という設定らしいね」

『その一言で色々ぶち壊しだと思うんだけど』


 知らんなぁ。


「それにしても、色んな種族がいるわねー」


 道行く人々の種族は様々だ。エルフだったり、ドワーフだったり、オークだったり、オーガだったり。獣人鳥人爬虫人類、何でもござれである。装備も服装も人それぞれ、多種多様だ。


『お姉ちゃんはエルフなんだね』


 で、僕のアバターはエルフ(♂)。元の身体(のメ○モ状態)を参考に作ったので、男の娘と言った方がいいかもしれない。

職業は僧侶で、服装もそれっぽい。装備は十字剣とポーション。色はピンク系で統一している。


「長生きしたいからな」

『そんな理由?』

「いいじゃん、別に。そういうユダは聖騎士(クルセイダー)なんだね」


 一方、ユダは人間(♀)で、職業は聖騎士である。黄金の細工が施された白銀の鎧を身に纏い、ミスリルの聖剣を装備している。髪や瞳の色を弄ったらしく、金髪碧眼だった。面影こそあるが、殆ど別人と言っていい。


『どう、似合う?』

「うんうん、カッコいいし、可愛いよ」

『えへへへ~♪』


 中身は変わっていないようで何より。


「……お前らはちっこいままだな」

『しつれいだなー』『もりのようせいさんだよ♪』


 マンティコアたちは揃ってチビのままだ。カルマは小妖精(ピクシー)、アルマは小人(ホビット)を選んだようである。職業は服装と装備からして、元と同じく魔法使いだろう。プク○ポみたいで可愛いなぁ。持ってるステッキだけは蠍の尻尾のようで物々しいけど。


「スップリンは完全に人型だな」


 その保護者であるスップリンは、プリン・ア・ラ・モード時の姿を更に人間に近付けた感じで、種族は小悪魔(インプ)だ。カラメルプリンのようなドレスを纏う様は、まさしくお菓子の国のお姫様。

 ただし、職業は殺し屋だったりする。武器も魔弾式のマシンガンだし。ギャップ萌えでも狙っているのだろうか?


『これなら普通に喋れるので』


 さらに、こいつ喋るぞ!


「お前に至っては面影すらないな」

『キャー♪』


 最後にサラマンダーだが、何とスライムだった。それもメタルで素早いアイツみたいな感じ。どうしてこうなった。「ほら、魔力を込めれば色も変わりますよ」って顔してるけど、ジョーカーでメタルになっただけだろ。

 あと、職業が召喚士(サモナー)で、呼び出すのが主人そっくりの暗黒騎士のせいか、別のアレにも見える。メタルでスライムなダークナイトって凄いな。

 お前、絶対狙ってやっただろ。主人の影響かな?


 ……とまぁ、これが我らがエウリノーム家ご令嬢サイカ軍団のアバターである。気分だけはド○クエだ。統一感もクソもないけど。


『お姉ちゃん、何する?』『きゃるーん?』


 と、ユダが碧色の瞳でこちらを見ながら尋ねてくる。頭の上で、メタスラなサラマンダーがポヨンと揺れた。可愛いなお前ら。


「とりあえず、ギルドに行ってクエストでも受けてこようかー」


 冒険者と言えば、まずはクエストだろう。英国にいた時とやってる事変わらないだろとか言っちゃ駄目。ほら、こっちなら咎人の呪いは関係ないし~?


『くえすとかー』『ぼうけんだー』『はいはい、焦らなくてもすぐに行けますよ~♪』


 クエストと聞いたちびっ子たちが、ピョンピョンと喜んだ。こっちも可愛いな。

 つーか、人語を介していないだけで、あのバフみにはそんなバブみが含まれていたのか。さすがは保護者。人間(?)がよく出来ている。

 という事で、ギルドと思われる一際デカい木に造られた建物に向かった。内部は酒場も兼ねているようで、受付の前にはたくさんのテーブルと椅子が並び、昼間っから飲めや歌えやと出来上がっている冒険者が何人もいる。暇か。

 今ステータスに表示されている職業はあくまで“それぞれに向いている職種”であって、ゲームの恩恵を受けるにはギルドでカードを発行しなければならない。そこらへんはあの世もこの世も二次元も三次元も異次元も変わらないようである。

 ――――――よし、まずは恒例の、アレやるか。


「すいませーん、冒険者登録お願いしまーす」

『分かりました。カードを作りますので、こちらの機械に手を触れてください』


 ファンタジーと言えば、まずは「俺TUEEEEE!」でしょ。このゲーム、初期値にプレイヤーの素質も加算されるらしいからね。魔王で魔法少女な僕なら、「僕TUEEEEE!」が出来るはず。


『わぁっ、これは凄いですね! まだレベルが低い筈なのに、各種ステータスが平均以上あります! 特に魔力値が高いです! 幸運値は逆にマイナスですが……それを補って余りある程の強さですよ!』

「おおっ、私TUEEEEE……って、ラックマイナスかよ!」


 ここでも咎人の呪いからは逃れられないらしかった。解せぬ。

 他の面子も大体が同じような感じで進み、滞りなく冒険者登録は終了した。

 その結果、カルマとアルマが魔力と知力に特化した典型的な頭でっかちで、スップリンが中ボス級の魔王と遜色ないオールラウンダー、サラマンダー(強化)が体力が低い以外は神話級の強さを持っている事が明確に数値化された。マンティコア兄妹とスップリンは以前の戦いで何となく察してはいたが、お前はワープ進化し過ぎだろう、サラマンダーよ。その内メガ進化とかするかもしれない。

 まぁ、仕方ないよね、ウチの義妹は天才ですからぁ♪


「……そう言えば、この子に名前とか付けないの?」

『そう言えばそうだね。何にしよう?』


 頼むからちょ○すけとかは止めてあげようね。ちゃ○っぱもなし!


『じゃあザ○ボラーとか……』

「デッカい時の鳴き声は似てるけど駄目!」


 TSUB○RAYAからスペ○ウム光線食らっても知らんぞ。


『じゃあ、妥協してドラコで』

「何に折れたかは知らないけど、まぁそれなら……」


 苗字はマ○フォイだろうか。お呪いはフォフォイのフォイ!

 そんな感じで、サラマンダーはドラコになりました。元の種族を尊重しつつ何となく強そうな、秀逸なネーミングだと思います。


「さて、それじゃあ何を受けようかな」


 さっそく掲示板を見漁る。張られているのはスクロールだが、触れるとデータが満載の電子画面が中空に表示されるという未来オーバーな代物だったりする。


『ステータスは初心者にしては高めだけど、だからって油断しちゃいけないよね』

「だね。でも、どれが初心者向けなのか、見当も付かないんだけど……」


 一応、危険度はA~G(Gが一番低い)でランク分けされてるけど、こういうのって意外な落とし穴があったりするもんなんだよなぁ。


「お困りのようですね!」


 すると、いつの間にそこにいたのか、年端も行かない女の子が立っていた。とんがり帽子にローブ、宝玉付きのワンドを持っているなど、古典的な魔法使いの恰好で、髪は黒く瞳は紅い。紅○族かな?


「えっと、誰さん?」

「我が名はアベル! 【爆裂魔法】の使い手にして、この世界に破滅を導く者!」


 その上、中二病全開の自己紹介をしてくれた。帰っていかな。むしろ、お前が帰れ。


「……とまぁ、冗談はさておき」

「冗談かよ」

「お前らこんな所で何やってんの? 実は暇なのか?」

「は?」『何ですか、貴女は?』


 何だこいつ、いきなり馴れ馴れしいんだけど。何だチミは。


「分からないか? オレだよ、オレ。カイン・アルベルトだ。アベルってのはここでのアバターだよ」

「『えええええっ!?』」


 まさかの知り合いだった。

 あ、でもよく見ると、面影はあるかも。元々気の強い女顔だし、髪も青から黒に変色しただけ。胸はぺったんこなのでスタイルにあまり影響していない。あいつが性転換したらこうなるだろうな、という感じがありありだった。

 ……って言うかさ、


「ネカマじゃなえか!」

「お前こそネナベだろうが」


 そう言えばそうだった。エルフの男の娘じゃん、僕!

 しかも、それって僕をぶっ殺したあの作家志望と同じやないかーい。何にやってんだ僕は。


「でも、何で分かったの?」

「ハンドルネームがそのまんまだし、知り合いから見れば一発で分かるくらい目立ってるからだよ」

「さいですか……」


 つーか、ログインしておいて今更な話だけど、このゲームあの世からでも入れるんだね。どんなシステムなんだろう?


「ま、こっちじゃ魔法少女アベルで通してるから、そのつもりでいてくれ」

「はぁ……」『わ、分かりました……』

「こちらからも、よろしくお願いしますよ、皆さん♪」


 そう言うや否や、カインはカインを止めて、アベルのキャラに戻った。普段が苦労人っぽいから、こっちでははっちゃけたいのだろうか。

 いや、いきなり石ぶつけてくるような奴だから、単に素が出ているだけかもしれない。辺獄ではともかく、外出中のこいつはクソガキだもんな、マジで。


「さーて、それでは、わたしオススメのクエストを紹介してあげましょう!」


 そして、カイン改めアベルは、一枚のスクロールを引っぺがして、自信満々に見せつけてきた。


 ◆◆◆◆◆◆


 所変わって、「フォルアビス大湿原」。

 泥だらけの地面と人大の芦が延々と広がる緑一色の草原で、小さな川が毛細血管のように網を張り、アリュールからの恵みを余す所なく運んでいる。発光性の微生物が繁殖しているのか、土地全体がボンヤリと光っていた。所々に大きな岩が転がっているが、おそらく大雨でアリュールから流れてきた物だろう。

 ここが今回のクエストの舞台であり、討伐対象が大繁殖している魔境だ。

 うんうん、シチュエーションだけなら、これぞ冒険の始まりだって感じである。


「……ってカエルかよ!」


 問題は、狩りの対象が馬鹿デカいカエルって事だな。何で異世界くんだりまで来て、カエル倒さなくちゃいけないんだよ。その上、アマガエルじゃなくてヒキガエルだし。ブツブツが絶妙に気持ち悪い。

 つーかさ、デカ過ぎるだろ、あのカエル。体高五メートルって、大型トラックより大きいんですけど。あんなのと戦わなきゃいかんのか。ハードル高くない?


「そうは言っても、あれはGランク――――――つまりは最低ランクのモンスターですよ? 贅沢言うんじゃありません」


 面倒な奴ですね、と言わんばかりの表情を浮かべるアベル。この野郎、ネカマライフを楽しみやがって……!


「いや、他にもいるだろう、ゴブリンとかオークとかさ」

「野生のゴブリンはFランク、オークはEランクです。集団化すればDランクやCランクに食い込みます。ステータス頼りの初心者が挑んでいい相手ではありません。大人しくカエルに挑んでください」

「ぬぅ……」


 確かにまだこの世界では経験値が圧倒的に足りていないのは自覚してるけど、もっと夢があってもいいじゃん。本体のステータスがある程度トレースされてるんだからさぁ。


「ですが、エルフの身体を使った事などないでしょう? 人間の魔女とは大分違いますよ。それは他の皆さんも同じ事。せめて慣らしてからじゃないと、すぐにピチューン☆となって終了です」

「分かったよ、やればいいんでしょ、やれば!」


 どこかの乳製品のリーダーみたくはなりたくないしな!

 あいつもカエルになっちゃったけど、何の因果かなっ!?


「……では、まずはわたしからお手本を見せますね! 【爆裂魔法マジカル・エクスプロージョン】!」

「うぇえええいっ!?」


 だが、僕が動く前に、アベルがいきなり【爆裂魔法】をぶっ放しやがった。暴走した魔力が極大の爆発を起こし、哀れなカエルをこの世界から消滅させる。後にはツングースカ大爆発もかくやと言わんばかりのクレーターが残るばかりだった。


「ちょっ、おまっ、何してんだよ!? お前、【爆裂魔法】撃ったら動けなくなるだろうがよ!?」


 それとも何か考えがあるのか。もしくは撃っても倒れない仕様になっているのか。


「……そこに標的があるからです!」


 ただ撃ちたいだけだった。顔から地面とキスしていらっしゃる。アホかこいつは!


「心配いりません。わたしが死んでも、代わりはいるもの」

「それ死に戻りしてるだけだろ! 名シーンを汚すな!」

「【爆裂魔法】を撃って、世界を一部でも破壊した。それだけで本望です」

「いや、燃え尽きるなよ! どんだけストレス溜め込んでんだ、普段の生活で! よかったら相談に乗るよ!?」

『お、お姉ちゃん……!』

「ん? どうしたの?」

『あ、あれ……!』


 ユダがカタカタと震えながら言うものだから、指差す方向――――――つまりは湿原の方に視線を戻すと、


「ええぇ……」

『カァアアルァッ!』『コルルォオオッ!』


 今まで岩だと思っていたものが次々とさっきのカエルになり、こちらへまっしぐらに跳躍してきている。どうやら、あのカエルは岩に擬態する能力があるらしい。元ネタと違い、待ち伏せ型のハンターのようだ。あるいは休眠していただけで、普段はもっとアグレッシブなのかも。

 実際、現在進行形で、マッハベルな勢いでこっちに進軍してるしな!


「『気持ち悪ぅぅうううういっ!』」


 たぶん、女子じゃなくても絶叫しただろう。

 だって、カエルだよ?

 イボイボでぶよぶよした巨大な両生類が、ドシンドシンと地鳴りを響かせながら、一斉に向かってくるんだよ?

 生理的の前に、本能的に怖くなるわ。だって男の娘だもん!


『【流星群(メテオ・レイン)】!』『【神鳴雷撃(サンダー・ボルト)】!』


 と、燃え盛る流星の雨あられと、神の霹靂が降り注ぎ、迫りくるカエルたちをミディアムにした。


『【特異点(オレイカルコス)】』


 さらに、原子を分解する破魔の光が放たれ、無数のカエルが光に還る。


『やったやったー、ぶったおしたー!』『おぶつはしょうどくだー!』『はぁん……濡れるっ!』


 撃ち手は、ハンマーみたいな魔道具(魔槌?)を掲げてピョコピョコしているカルマとアルマ、額にアレイスター・クロウリーの六芒星を浮かび上がらせたスップリンだった。おい、濡れるな保護者。Sかこの野郎。


「ふぅ……助かったよ」『ありがとねー』


 ゲームの中であの世の魔法が使えた事には驚いたが、今は安堵感の方が勝ったので、特に突っ込まない事にした。あんなの頼まれても触りたくないしね。

 それよりも今は、


「おい、そこの頭のおかしい爆裂娘」


 このいい笑顔で倒れ伏している、満足野郎に文句の一つでも言わなきゃな!


「お褒めに預かり光栄であります!」

「褒めてねぇ! 全く、お前と言う奴は……」


 うん、もういいや。不毛だから止めよう。


「でも、これで「蝦蟇(ガマ)を五体以上討伐」というクエストは達成出来たじゃないですか。ギルドから報酬を貰えますよ!」

「あのねぇ、そういう話じゃ……いや、ちょっと待って。今、何て言った?」


 蝦蟇って……どう考えても、自来也のお供として有名な、あの蝦蟇だよな?


「はぁ? 今更何を言ってるんですか、貴女は?」


 すると、アベルは意味不明☆という顔で告げた。


「ここは日本のあの世ですよ? プレイヤーは皆、自分の魂を分身体(アバター)に乗り移らせる形でログインしているのです」


 ――――――どうやら僕は、図らずも里帰りしていたらしい。

◆蝦蟇


 年を経たヒキガエルの妖怪で、普段は森の岩に擬態し、口から放つ香気で獲物となる虫や小動物、たまに人間を誘き寄せて食べてしまう。ガマの油のガマもこの蝦蟇が由来だが、本物のガマガエルの油は普通に毒なので摂取しない事。探検家のバスコ・ダ・ガマとは特に関係はない。

 一応捕食者の立場だが、食物連鎖においてはどちらの世界でも下位の存在であり、あの世では鳥型妖怪や蛇神たちの主食にされている。

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