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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
8/52

僕たちの冒険はこれらからだ!

「知らない天井だ」


 次に目を覚ました時、僕は見覚えのない部屋の、病床の中にいた。前から言ってみたかったんだよねぇ、これ。


『スー……スー……』


 さらに、傍らには我が可愛い義妹が。きっと泣き疲れたのだろう。目の周りが赤く腫れている。

 それにしても、ここは何処で、今は何時なのだろうか。部屋はまさしく江戸以前の寝室って感じだが、どうにもサイズがこじんまりとしている。おまけに小道具のクォリティーも低い。

 ……いや、ここはもしかして、


「オレん家だよ」


 すると、襖を開けてカインが入ってきた。手には看病する為の手桶とタオルを抱えている。


「おはよう」

「はい、おはようさん」


 とりあえず、挨拶をしてみる。カインも普通に返してきた。何か老後の夫婦みたいにあっさりしてるな。僕らそんな関係だったっけ?


「……と言っても、今はこんにちはかな。何せ丸一日目を覚まさなかったからな」


 しかし、次に語られた事実には、さすがに肝が冷えた。

 辺獄に着いたのがお昼過ぎだから……今は次の日の午後って事!?

 あ、これはマズーい。さすがにヤバーい。帰ったら間違いなく折檻だなこりゃ。


「まったく、呑気なもんだな。親に叱られるのを心配するなんてよ。言っとくけど、お前マジで死んでたかもしれないんだぞ?」

「そうなの?」

「右大腿部の半分が壊死、左腹部及び右胸部が融解・消失。おまけに魔力切れで生命維持機能が著しく低下していた。むしろ何で気絶した時点で死ななかったのが不思議なくらいだよ」

「うーわー」


 自分で言うのもなんだけど、何で死ななかったんだろう、僕。


「……で、何で僕は生きてるわけ?」

「あの後、辺獄の皆が【超回復魔法(ディアンケト)】を掛け続けた。お前のお仲間も、必死に【回復魔法(ヒーリング)】掛けてたぞ」

「そうなんだ……」


 頑張ったね、ユダ。回復はあんまり得意じゃないのに。

 僕は未だに寝息を立てている可愛い義妹の頭をそっと撫でた。


『う……ん……』


 と、ユダが薄っすらと目を開けた。いけね、起こしちゃった。


『お姉ちゃん!』


 すると、寝起きも早々に、ユダが抱き着いてきた。おーよしよし、心配掛けたねー。


『あー、おきたー』『いきてるー』『バフリンコ♪』『ギュヴェアアアッ!』


 ついでに、襖の向こうから、ゾロゾロと従魔たちが。この際、敵前逃亡しようとした事には目を瞑ってやろう。

 とにかく、皆無事で何より。


「……ま、礼は言っとくよ。あんがとな」

「可愛くないねぇ」

「うるせぇ。回復したなら、さっさと地上に帰れ。いい加減狭っ苦しいんだよ!」


 そう言ってそっぽを向くカインは、不覚にも可愛いと思った。まさか男のツンデレにほっこりする日が来ようとは。


「……それじゃ、そろそろ帰ろっか」

『『『おーっ!』』』『バフーン!』『ギァヴォゥ!』

「おう、帰れ帰れ。……またな」


 そういう事になった。


 ◆◆◆◆◆◆


 わがやっ!


「サイカちゃん!」

「えー……」


 夕方頃、ようやく屋敷に帰り着いたら、いきなり母上様に抱き締められた。苦しくなるくらいに僕をギュッとして、子供のように泣いている。怒る気配は微塵もない。

 うーむ、てっきり三日三晩拷問でもされるのかと思っていたから、これは拍子抜けだ。というか、反応に困る。どうしよう。


「サイカ様、テコナ様の姿をよーく見ておいて下さい。これが、貴女の軽率な行動が招いた結果ですよ」

「……反省します」


 アンタレスさんの静かなお叱りを、僕は甘んじて受けた。何も言えないし、心が抉れる。下手に怒鳴りつけられるよりキツい。

 その後しばらくの間、母上様は止む事なく泣き続け、日がすっかり沈んだ頃、ようやく落ち着きを取り戻した。


「おかえりなさい」

「……ただいま」


 そして、僕たちの帰還を持って、初めての冒険は終わりを告げた。帰るまでが冒険!

 だが、それで全てが解決した訳ではない。

 むしろ、これから始まるのである。落ち着きを取り戻してしまった、母上様のお説教が……!


「……さて、色々と聞かせてもらうかしら、サイカちゃん?」


 風呂より何よりまずは飯、という事で食事の席に着いた所で、さっそく母上様から詰問が飛んできた。さっきの反動なのか、顔は笑ってるけど目が笑ってない。怖いよー。


「詳細はアンタレスから聞いてるわ。またこっそり抜け出した挙句、ギルドカードを作ったって? その後はシェオル大迷宮で文字通りの大冒険。最終的に辺獄で死に掛けたと。一体、何をどうしたら、そういう事になるのかしら? お母さん、その辺の心境について聞きたいなー?」

「……出来心です、スイマセン」

「そっかー、出来心かー」


 怖いよぉおおおおおっ!


「それと、その子たちは何なのかしら? たった一日見過ごしただけで、随分賑やかになっているけれど」


 棘のある指摘を受けて、僕は従魔たちを紹介する。


「えっと、シェオル大迷宮で従魔にした、マンティコア兄妹のカルマとアルマ、その保護者のスップリン。そっちのサラマンダーはユダのペットで、名前はまだない」

「吾輩は○であるみたいな言い方ね。まぁいいわ……」


 さらに、母上様はフゥっと一息吐くと、


「アンタレス」

「はい」

「これから三日三晩、サイカの事よろしくね♪」


 死の宣告をした。デュラハンじゃないのに。


「はい、テコナ様。みっちり反省させます」


 アンタレスさんもノリノリだ。


「いやーっ!」


 やっぱりそうなるのかよぉおおおっ!


 ◆◆◆◆◆◆


 それから三日経った。

 いやー、マジで死ぬかと思った。アンタレスさんの更生プログラムはエグいんだよ。言葉にするのも憚られる。

 ま、それで反省するかどうかは別問題だけどな!

 しかし、心身共に疲れているのは事実。今日は家でゆっくりしたい。

 ……というか、何故僕はこうも外へ行きたがるのだろう。子供だからと言えばそれまでだし、魔女を目指すなら強くなるしかないので仕方ないとも言えるが、それにしたって死地に赴き過ぎな気がする。スローライフは何処へ夜逃げした。

 もしかしなくても、咎人の呪いに突き動かされてるんじゃないのか!?

 無意識に自殺しに行ってないか、僕!?

 破壊神への信仰に目覚めた覚えはないぞ(ぐふっ)!?

 アカン、これはアカン。しばらく大人しくしていよう。ここは命を大事に、だ。ガンガン死のうぜはいけない。色々死のうぜなど以ての外である。死を導くんじゃねぇっ!


「……ところで、ユダは何をしているのかな?」


 阿呆な思考を止め寝返りを打つと、ユダがサラマンダーに何かしらの魔法を掛けていた。僕の部屋を粘液で汚してしまわないようにか、サラマンダーはドデカいフラスコのような物に収まっている。

 いや、あの、邪魔なんですけど……。


『【合成魔術(シンセシス・スペル)】でサラマンダーを改良しているの。このままだと屋敷に住めないから……』


 そうですか。僕には錬金術の実験にしか見えないけどね。その貴金属やらポーションやらを混ぜてどうするつもりなんだ。

 ま、いいか。ユダなら下手な事はしないだろう。魔法の呑み込みが早い子だからね。出来れば別の部屋でやってほしい所だけれど。


「逆にお前らは何をしでかすつもりなんだ?」


 僕は反対側を向いて抗議した。


『げーむだよー』『そーそー、おんらいんげーむ』『バフリーン』


 視線の先では、マンティコア兄妹とスップリンがサイバーパンクなヘッドギアを被り、何らかのソフトをダウンロードしている模様。(ひと)の部屋にあんまり物をゴチャゴチャと置くなよ。


「ああ、VRMMORPGか……」


 どっかで見た事あると思ったら、日本の現世で売られてたヘッドギアタイプのバーチャフォン(※立体投影型高機能携帯電話)じゃねぇか。単体で映像ソフトとしてもパソコンとしても機能する為、現代の日本人なら必ず一つは持っている。一家に一台ならぬ、一家に一機バーチャフォンだ。

 そして、彼らがダウンロードしているのは、所謂VRMMORPGの類らしい。バーチャフォンって魔獣にも対応してるんだね……。


『そうだよー。さっきとりよせたんだー』『たいとるは「World(ワールド) of(オブ) Desire(ディザイア)」。であるた・こーぽれーしょんのじしんさくなんだよー』『バフリコ~♪』

「へぇ……」


 デルタ・コーポレーションと言えば、世界有数の巨大株式会社であり、バーチャフォンの開発・製造元でもある。他にも様々なジャンルに手を伸ばしており、世界の経済の半数は彼らに乗っ取られているとまで言われている。

 怖いなー、絶対裏で何か非合法な事してるよなー、実際してるしなー、ここでは言えないけどー。


『サイカもいっしょにあそぶ?』『たのしいよー』『バフバフ』

「うーん……」


 何だかすっかりフレンドリーになったちびっ子たちが誘ってきているが、どうしたものか。あの会社が作ったもんだからなぁ……。

 だが、現状は暇なのも事実。このまま持て余していると、確実に死の呪いが発動する。

 ……より、自殺しに行くよりかはマシだ。異世界への冒険(笑)と洒落込むとしよう。


「分かった、やるわよ。暇だしね」

『わーいわーい』『ばーちゃふぉんはまだあるからああんしんしてねー』『バプリンコ♪』


 そう言って、マンティコア兄妹は更に数台のヘッドギア型のバーチャフォンを出してきた。お前らそれどっから持ってきた。


『『【錬金術(アルケミック)】でじゃんくからくみたてました!』』

「何気に凄いなお前ら」


 これも保護者による英才教育の賜物だろうか。スプリガンだもんな、スップリン。


「まぁいいや、それじゃあ――――――」

『よーし、完成だ~♪』『きゃるーん!』


 ちょうどユダの【合成魔術】も完了したようである。あの無駄にデカくて小汚いサラマンダーが、今や手乗りサイズのマスコットキャラだ。


「おっ、可愛く出来てるじゃん」


 見た目がデフォルトされたほか、粘液の代わりにゲル状の物質で全身が覆われており、どことなく和菓子のようで美味しそうに見える。触ってみると、ゲル状物質はしっとりとした水饅頭のようにヒンヤリで、本体は恒温性になったのか、中からほんのり温かみが伝わってきた。


「ちなみにどういう合成をしたの?」

『神珍鉄の骨格にヒヒイロカネとオリハルコンの混ぜ物を受肉させたの。歯や爪はアダマンタイトよ。あとゲル状の部分はミスリルで出来てるの。血液がミスリルを液化させたものだからね!』『きゅきゅーん』

「メタル化してるじゃねか」


 さらに、【巨大化(マクロ)】と【収縮(ミクロ)】に【重力解除(ゼロ・グラビティ)】のスキルを持たせている為、大きさも重量も自由自在に変えられるのだとか。

 どんな魔改造を施したらそうなるんだ。名前だけがサラマンダーという別の生命体だよ、それは。

 随分と希少な金属を惜しみなく使っているが、材料の出所は今は亡き彼女の両親の遺品だろうか。色んな意味で重い……。

 家族が増えたよ、やったねユダちゃん!


「……さて、それじゃ改めて、皆でゲームでもしよっか!」

『『『イエーイ♪』』』『きゃうきゃう♪』『バフフフ♪』


 という事で、僕たちはWOD(World of Desireの略称)を楽しむ為、布団を追加して皆仲良く寝転がり、バーチャフォンをヘッドにギアッとして、ソフトを起動した。すぐに視界が暗転し、五感の全てを伴った状態で意識が無明の闇へと転送される。


《ようこそ、「World of Desire」、通称「WOD」の世界へ! ナビゲーションのディヴァ子ちゃんで~す♪ プレイヤーの皆さんはゲーム内で様々な種族に転生し、剣と魔法、あと銃の世界で冒険する事になります! 心躍る冒険に出掛けるもよし、ゆったりまったり過ごすもよし、血生臭い殺し合いをするもよし、地獄のような戦争をするもよし! ここでは全てが自由、好き放題です! さぁ、皆でWODを楽しみましょう~♪》 


 程なくして妙にテンションの高いナレーションが流れ、世界がメイキング用の物に切り替わった。SFでよく出てくるような研究施設のようなデザインである。

 ゲームの設定によると、プレイヤーはここで生み出された人造生命体であるらしい。本体はこの施設にある巨大なサーバーそのものであり、ゲーム内では人型の分身体(アバター)に取り憑くような形で活動する為に自在な出入りが可能、なんだとか。無駄に凝った設定だなぁ。その癖エルフやドワーフになったり出来るから困る。


「さて、キャラメイキングでもするか」

『そうだね。何がいいかなー?』

『ぼくはようせいにするー』『わたしはこびとにしようかなー』『バフ~ン』『きゃっきゃ♪』


 それぞれが自分好みのキャラクターを作っていく。

 やがて、各々のアバターが完成し、WODの世界へとログインする。どんな姿かは入ってからのお楽しみだ。


 ――――――さぁ、僕たちの冒険は、これからだ!

◆デルタ・コーポレーション


 現世の日本に本社を持つ巨大株式会社。様々な事業に着手しており、日用雑貨から戦闘兵器まで殆ど全てに会社のロゴマークが付いている。その実態は軍産複合体だの宇宙人の秘密基地だのと色々な噂が流れているが、真実を知る者はいない。一つだけ分かっているのは、彼らのトップを担う人物のコードネームが「セレン」である事だけである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最終回フラグじゃなくて良かったが、デスゲームフラグが新たに(笑)
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