サイカと森の主様
『ひ、ひとだ!』『にんげんだよ、おにいちゃん!』
突然の来訪者に驚くマンティコアたち。
マンティコアとは人の身体に獅子の身体と蠍の尻尾を持つペルシャ(現イラン)出身の合成生物で、個体によっては蝙蝠の翼やヤマアラシのような無数の毒毛を持つ者もいるという。近縁種にギリシャ出身のキマイラがいる。
そして、人を好んで食らうマンイーターでもある。人の顔(と喉)を持つのも、人間を上手く騙す為だ。声真似で誘き寄せた阿呆を、獅子の身体で圧倒し、尻尾の毒で止めを刺すのである。
そんな合成魔獣マンティコアの幼獣が、目の前に二匹もいる。顔立ちがそっくりなので、おそらくは双子の兄妹だろう。
それにしても、
「『か、可愛い……!』」
この二匹、むっちゃ可愛いのだ。
マンティコアとしての要素はそのままだが、顔はあどけなく、身体はエキゾチックショートヘアを思わせるコロコロボディ、尻尾も小さく短いと、これでもかと言わんばかりにデフォルメされている。毛色は兄が茶色で妹が灰色。顔はどちらも丸めだが、兄の方が少しだけキリっとしており、妹の方はうじうじしていそうな苛められっ子の顔だった。髪型だけは全然違っていて、兄がボサボサした朱髪のショートで、妹は黄緑色のおかっぱ頭をしている。瞳はどちらも黄色と緑のオッドアイである。
結論:可愛い。他に言う事がない。
これはもう、捕まえるしかないでしょう!
「おいでおいで~♪」『飴ちゃん食べる~?』
『『く、くるな~!』』
しかし、向こうはまだ警戒している。野生動物だから仕方ないね。まずは実力差を見せつけて、屈服させるところから始めよう。大丈夫、マンティコアの子供に負ける程、僕たちも弱くはない。
「よし、行くわよユダ!」『イエッサー!』
バトル開始ィイイイイイッ!
『【召喚魔術】!』『【化石融合】!』
『『いでよ、【大いなる獣】!』』
『キリキリィァッ!』
すると、こちらの敵意を感じ取ったのか、マンティコア兄妹が抜群の連携魔術で、山のように大きな女型の巨神を召喚した。餓者髑髏を思わせる骨格を粘菌らしき生物で肉付けする過程は、まさに悪魔的だ。
太古の昔に生み出された、堕天使アザゼルの負の遺産、ネフィリムの降臨である。
◆『分類及び種族名称:巨神兵=ネフィリム』
◆『弱点:胸部エナジーコア』
『お、お姉ちゃん……!』
現れた闇の巨人を前に、ユダが怯えている。そりゃそうだよね。大きさが違い過ぎるもん。
『ヴァァヴウウウウウウッ!』
「ドワォッ!」『わきゃー!』
さらに、ネフィリムが口から破壊光線を放って来たから、もう大変。わきゃわきゃと逃げ惑ってますよ、ユダちゃん。可愛い。
だが、僕は慌てない。英国淑女は焦らない。
何故なら、木偶の坊に負けてやる程、僕は弱くないからだ。世界を食い尽くした本物のネフィリムならまだしも、マンティコアのガキが召喚したパチモンなんぞ、デカいだけで大して強くはない。
それを今から証明してやろう!
「天・地・開・闢……ズリャアアアアアアアアアアアアアッ!」
僕は堂々とネフィリム(笑)の前に堂々と立つと、【混沌の覇者】のその先――――――最大にして最強の混沌魔法【混沌の終焉】を発動させた。一定のシークエンスの後、左肘に右拳を当てて組んだL字から赤紫色の破壊光線が発射され、パチリムの胸部を穿つ。
魔力を大きく消耗する上に、今の所は一日に一発か二発くらいしか撃てない超必殺技だが、もはやどうでも良かろう。これに耐えられるフリークスなどいないのだから。
『キリィィィッ!』
エナジーコアを砕かれたネフィなんとかは、悲鳴を上げて爆散した。分かってはいたけど、本当にイ○ーク並みの見掛け倒しである。面倒な要素が質量だけってどうなの?
『そ、そんな~』『うそぉ~ん』
残念だな、マンティコアたちよ。これは現実だ。
『ま、まだだ!』『まだおわりじゃないもん!』
しかし、往生際はかなり悪かった。
いや、諦めろよそこは。子供ながらに【召喚魔術】や【化石融合】を使えるのは褒めてあげるからさ。
『『【奇跡融合】!』』
「何ィ!?」
だが、二匹の発動した魔法により、それがただの悪足掻きではなかった事を知る。非常に見覚えのあるポーズを取ったかと思うと、マンティコアたちが融合して、一体の悪魔になったのである。
形態は人間をベースとして首回りや腰回りなどの急所部分にのみ剛毛が生えた獣人型で、背中には蝙蝠型の翼、お尻には蠍の尻尾がそれぞれ一対ずつ生えている。腕や脚は金属質の甲殻で守られ、胸元は肋骨のようなアーマーが発生していた。
双子とは言え性別の異なる魔獣同士が合体したからか、左右非対称かつ両性偶有であり、顔立ちも二匹の容姿を折衷したような感じになっている。あと、合体によって急成長したのか、スタイルが抜群に良い。
まさに美男美女が組み合わさった、伝承に出てくるような悪魔の姿だった。何となくユ○ルっぽい。
◆『分類及び種族名称:猛毒宇宙人=マルバス』
◆『弱点:頭部クリスタル』
『ヴォァッ!』
「……こりゃあ、幼女のままじゃきついか」
さっきまでの弱々しさが欠片も感じられない悪魔マルバスを前に、僕は舐めて掛かるのを止めた。
ここからはふしぎにメ○モる大人モード。つまり、本気だ!
『フッハァッ!』
と、僕がカットラスを構えたからか、マルバスも対抗して武器を錬成した。二本の尻尾を分離・合体させて作り上げた、猛毒の双槍である。
「せぁっ!」
『ヴェァアッ!』
僕のカットラスとマルバスの双槍が火花を散らせる。互いに魔法を帯びた武器である為、金色と紫色が混じり合い、混沌としている。こちらは光属性だが、向こうは闇属性なのだろう(毒系は闇属性に多い)。
毒炎を纏いし双槍の左右からの連打をカットラスとBBSで防ぎ、カットラスの袈裟切りとBBSの至近距離による光弾を双槍の柄で弾き払い、間々に蹴りや肘打ちを交えながら、お互いの隙を突こうと怒涛の攻めを続ける。なかなかやるじゃない。
だけどな、ここにいるのは一人じゃないんだよ!
『【火炎放射】!』『ヴォォアアッ!』
背後から放たれたユダの【火炎放射】を、マルバスが飛んで躱す。背中に目でもあるのかと思いきや、後頭部にも顔があるらしい。両面宿儺かお前は。
しかし、いくら顔が多くても、本体は一つだ。ならば手数を増やせばそれで済む。
「同時に行くぞ!」『たぁっ!』
という事で、僕たちは同時に切り掛かった。
『フッ!』
「なぁっ!?」『うひゃっ!?』
だが、奴に刃が届く直前、何故か急に身体の向きが変わり、ユダへカットラスを振り下ろす破目になった。それはユダも同じだったようで、かなり驚いている。どうにか互いにバッサリ行く事なく受けられたが、一歩間違えれば死んでいた所だろう。
「くそっ、【座標変化】か!」
僕はすぐに魔法の正体を見破った。
【座標変化】は視界内にいる味方もしくは敵二体の攻撃対象を移し替える精神魔法。コンビプレイでこれを使われると結構キツい。だってほぼ仲間割れだもんな。
でも、忘れてないか、マルバス。僕たちの手数は、二手じゃないんだよ!
『【闇殺眼光】!』『ギィギアァアアォッ!』
と、真上に回り込んでいたユダの生首が、【闇殺眼光】でマルバスの左肩を撃ち抜いた。【闇殺眼光】は闇属性の目からビーム。音も光も弱く、撃たれる前も後も気付きにくい、割と厄介な光線技である。
「【混沌の覇者】!」『【黒炎弾】!』
『キャァアアアアアアアアアッ!』
そして、僕の【混沌の覇者】とユダの闇と炎の融合魔法【黒炎弾】によって、マルバスは女性の金切り声のような断末魔を上げて爆裂四散。
『にゃー』『みゃー』
その後、元の可愛い子猫ちゃんに再構成され、コロンとひっくり返った。可愛い。
さーて、それじゃあこの子たちをさっさとテイムしちゃいましょうかね~♪
「よーし、【従属魔――――――」
『『たすけて~、スップリ~ン!』』
しかし、【従属魔法】を掛ける前に、マンティコアたちが仲間を呼んだ。
『バッフゥ~ン!』
すると、地面から湧き出るように、巨大な何かが現れた。
「『プ、プリン!?』」
それは、どこからどう見ても超特大のカラメルプリンだった。一応目と口、短い腕があるので生物だと分かるが、スライムばりに現実感のない姿である。まさにファンタスティック!
『バフバフゥ!』
「おわっ!?」『きゃー!?』
さらに、そのプリンは身体の一部を濁流のように発射し、僕とユダを飲み込んだ。僕はギリギリでバリアを張れたが、若干フリーズしていたユダは間に合わず、諸に直撃してしまった。
「だ、大丈夫、ユダ!?」
『うっ……』
幸い質量がある以外は大した威力ではないらしく、ユダは危なげなく脱出した……のだが。
『大丈夫でごわす!』
物凄いデブになっていた。すっごく、丸いです……小錦 八○吉ぐらい。
「ええっ!? どう見ても大丈夫じゃないだろ!?」
『そんな事はないでごわす! あざーす!』
「どこがだよ! 走れない取的になってんじゃん! 何これ、食べた相手を太らせる効果でもあるの!?」
『それだけじゃないぞ!』『スップリンのおにくをすこしでもたべると、いっきにふとってうごけなくなるうえに、プリンたいが300ごくばいまでふえるんだよ!』
「ほぼ即死魔法じゃねぇか!」
つーか、「極」ってなんだ「極」って!?
日常生活どころか冒険者生活でも使わねぇよ、そんな単位!
うーむ、これはマズい。さすがに死んだりはしないだろうけど、現状ユダは戦力外と見るべきだろう。見るも無残な姿になってるからね。
こうなったら、一人でやるしかない!
『ハァアアアアアアアアッ!』
と、僕の覚悟に応えるように、特大プリンの姿が変化する。顔と腕が消え失せ、頭頂部から新たなプリンが段重ねで生えていき、最後にホイップクリームのような髪を生やしたカスタードのお姫様(の上半身)が形成された。まるでプリンがデコレートされたスカートのようだ。
その高さ、約十八メートル。とんでもないプリン・ア・ラ・モードである。
『これぞかんぜんきゅうきょくたいスップリン!』『スプリガン・ア・ラ・モードだよ!』
『キャァアアアアアアアッ!』
◆『分類及び種族名称:粘菌生命体=スプリガン(TYPE:a・la・Mode』
◆『弱点:人型部分』
こいつ、スプリガンだったのか。
スプリガンとは、英国に伝わる妖精の一種で、見るも悍ましい醜悪な外見をしており、他の妖精のボディーガードを務める事もあるという。普段は小柄だが、接敵すると巨大化する事が出来るらしい。
ようするに野生のキモデブ野郎である。
だが、こいつは女だ。つーか、プリンだ。面影が欠片もないんですけど。
しかし、どうする。どう見ても物理攻撃でどうにかなる相手じゃないし、向こうの攻撃は油断すると死んでしまう即死攻撃。勝ち目が全く見えないんですが……。
『ハァワァォアアアアアアアアアア!』
そうこうしている内に、スプリガンが周囲に宇宙のような亜空間を展開。瞬く星々を集め、大規模な魔方陣「アレイスター・クロウリーの六芒星」を描き始めた。
おそらく、あれは対象範囲の敵を原初の闇に追放する暗黒魔法【特異点定理】。食らえば魂まで消滅してしまうだろう。序盤の敵が使っていい代物じゃねぇ。さすが難易度ルナチィック……。
「………………」『どすこーい』
僕は無言で太り過ぎなユダの前に立った。庇っても無駄なのは分かっているが、やらずにはいられなかった。
だってさ……前世じゃこんな良い子、一人もいなかったんだもの。せめて、最期くらいは一緒に――――――。
「……しょうがねぇなぁっ!」
「え?」『ごわす?』
いつの間にか、目の前に誰かが立っていた。
「クソガキ……!?」
「クソガキじゃない。オレはカイン! カイン・アルベルトだ!」
それは、逃げたはずのクソガキ――――――もとい、カイン・アルベルトだった。
「お前、何で……?」
「――――――先に喧嘩売ったのはこっちだし、そのせいで「インガの森」の主に消されるのは、さすがに寝覚めが悪いからよ。だから……」
そして、懐から可変式のマジック・スタッフを取り出すと、それを弓のように構え、魔力の矢を形成する。一見小さな矢だが、込められた魔力は莫大で圧倒的だった。
ま、まさか、それって……!
「お前は、全力で防いどけ! 【爆裂魔法】!」
『キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
破滅の光が矢となって、スプリガンの亜空間を駆ける。
さらに、同時に発射された【特異点定理】の波動砲を真正面から穿ち、スプリガンの胴体に命中した瞬間、物理法則が歪むレベルの超新星爆発が起こった。
あれぞ、まさしく人類最強の破壊兵器【爆裂魔法】。【無限起動兵器】に続く、トラウマ魔法その二であった。
『アギャァアアアアアヴォォオオオオオオオオッ!』
『『ス、スップリ~ン! ……わきゃーっ!』』
そして、何もかもを巻き込んで、スプリガンは閃光の中に消えた。
◆ネフィリム(鳴き声:自称天使の聖なる放火魔にしてキリエの偉大なる種族)
創世記に登場する、堕天使と人との間に生まれた巨人。意味は「空から落ちてきた者たち」。その身体は山よりも大きく(何とビックリ千メートル超え)、平気で共食いする程に野蛮で凶暴だという。最終的に餌(人間)も仲間も食い尽くした末に滅亡した。
◆マルバス
(鳴き声:通常→中の人のせいで悪人扱いされちゃった超古代の光の戦士 被傷時→暗黒物質より生まれし究極の進化を遂げた宇宙の帝王)
ソロモン72柱の一体で、序列五番を務める地獄の大総裁。ライオンの姿で現れ(人間にも化けられる)、疫病に関する知識を授けてくれる。悪魔の割に意外と紳士で、こちらの質問には懇切丁寧に答えてくれるし、趣味の工芸について熱く語ってくれたりする。お前のような悪魔がいるか。
◆スプリガン
(CVイメージ:七色の声色を持つ男 プリン・ア・ラ・モード時→夜天を闇に染め上げた邪悪なる防衛システム)
アイルランド出身の性悪な妖精。全身が黄色く爛れた醜悪な外見で、普段はかなりの小柄だが、接敵すると巨大化する。基本的に人間には優しくないが、同じ妖精に対しては世話焼きらしく、たまにボディーガードを務める事もある。
正体は粘菌が寄り集まった群体型の生物。敵に自分の一部を取り込ませる事で様々な効力を発揮する。天敵は有機物のない金属生命体。
◆カイン・アルベルト(CVイメージ:僕は悪くない! だけど逃げちゃ駄目だ!)
辺獄出身の天才児。同時にその才能を【爆裂魔法】の為に無駄遣いする残念な子でもある。ただし、有り余る膨大な魔力を活かした身体強化は得意。貴族、というか魔女に対して思う所があるようだが……?




