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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.2:Attack of the Kreis
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Let’s Go! ニンジャ

 うーん、容赦しない時は本当に冷徹なのは知ってたけど、母上様やり過ぎ。核兵器なんか持ち出すなや。敵どころか、メイドたちまでバタバタ被爆して死んでるしさ。

 まぁ、本体は屋敷から上がって来た方だから、先遣隊が幾ら死んでも問題ないけどね。どうせ咎人の命を生贄に召喚された分身体だし。

 そんな事ばかりしていたからか、フォモール族の邀撃部隊が「あの狂った吸血鬼共を叩き落せ!」と言わんばかりの勢いと数で襲い掛かって来る。あっと言う間に敵味方入り乱れる空中戦が始まった。


《レイヴン6、FOX2!》《レイヴン9、FOX2!》

《よっしゃあ、撃て撃てぇ!》《核ミサイルはタンマリあるわよ!》《フォモール族ごとテコナを葬るチャンスだぜ、ヤッホウ!》《皆殺しだぁ、テコナ諸共なぁあああああっ!》

《《《お嬢様の為のエンターテインメントよぉっ!》》》


 ……まぁ、敵さんの気持ちも分かるけどね。皆、僕に狂い過ぎ。そんなだから、フォモール族にもモリグナ三姉妹にもドン引きされるんだよ。


『グヴォッ!』

「危ねぇっ!」


 と、フォモール族の一体が、投網を発射して来た。これ地味に面倒臭いんだよな、掛かった傍から切り刻まれる上に電気まで流れるから。

 そんな物を幼女にブチ撒けるんじゃねぇ(今は大きいけど)!


『ガヴヴァアアアアアッ!』

「無駄、オラ、ドルァッ!」


 続いてプラズマ光弾を連射して来たので、BBSの電磁シールドを展開し、払い除けながら接近。思い切りぶん殴った。拳がジーンと痛むが、向こうも痛いからそれで良し。

 そして、死ね。出来るだけ苦しんでな。


「ボラァッ!」『ゴヴァッ!』


 フォモール族が甲殻生物で首を刈り取ろうと腕を振るってきたが、それを華麗に避け、更なる殴打を加え、カットラスを相手の首根っこに突き刺し、それでもしぶとく殴り掛かって来た拳を肘当てで弾き、がら空きとなった心臓部をコークスクリューでぶち抜いた。ハートブレイクショットだ!


『ギャヴォオオオッ!』「このっ……!」


 クソッタレが、本当に次々湧いて来るな。一族郎党、全員で挑んで来たんだろうな。マジでしつこい。皆死ねば良いのに。いや、皆殺しにするんだったわ。戦い続きで忘れてた。

 ――――――そんな事より、“報せ”はまだなのか?

 いい加減、こっちもキツくなって来たぞ。マシン・タイザーは沈められたし、えんがわと八式もそろそろヤバい。ドゥーン・クリスタルも長くは持たないだろう。

 頼むからさっさとしてくれ。報せが無いと、こっちも動くに動けないんだよ。


《……し……もし……もしもし!?》


 すると、脳裏にノイズ交じりの念話通信が。精度低過ぎだろ。

 しかし、ここでテレパシーが来たという事は、そういう事(・・・・・)なんだよなぁ!?


《カインを発見、確保した! 掛けられた呪いもアズライールが告死で解除した! これより脱出する!》


 ◆◆◆◆◆◆


 空中要塞トリスケルが浮上し、あの世史上最大の海戦が始まった頃。トリスケル内部でコソコソと動き回る者がいた。フォモール族の光学迷彩と忍術による臭い消し(・・・・・・・・・)で、姿も気配も完璧に消し去った鼠たちが。

 一人はくノ一、一人は忍者、一人は死の天使。

 さらに、サイカと同レベルの幼女が一人。ついさっきまで瓜二つだったが、今はちょっと悪い顔になっている。

 彼らはサイカ勢の別動隊(・・・・・・・・)。目的は人質であるカインの確保と解呪だ。


《嗚呼、まさかこんな事になるなんて……》


 くノ一のコタローが、念話で現状の有様を嘆く。自分が失敗したばかりに里は壊滅し、虎の尾を踏み、眠れる獅子の目覚めに巻き込まれた。


《まーまー、気にすんなって。遅かれ早かれこうなってたさ》

《その顔と声で言われても、全然説得力無いわよ、ハンゾウ》


 何よりカニより、目の前の幼女だ。彼女はサイカが色んな死体を材料に造った錬金生物で、中身と言うか“魂”はハンゾウである。

 どうしてこんな事になったのかと言えば、それはハンゾウの持つ「アスカロン」の能力によるもの。この聖なる魔剣には呪いが込められており、常に使用者の魂を吸い続け、最後は肉体の方を“剣を振るう為の付属品”に変えてしまう。

 つまり、剣が本体に(・・・・・)なってしまう(・・・・・・)のだ。

 剣の持ち主は刀身が無事である限り魂が不滅となり、次の後継者を見付けるまで意思が残り続ける。それを延々と繰り返し、敵を滅ぼすまで振るわれるのが、アスカロンなのである。

 そして、現在の持ち主はハンゾウ。肉体は死んでしまったが剣の特性により魂は滅んでおらず、魂の無い錬金生物(・・・・・・・・)を器とする事で、晴れてあの世に舞い戻った、と言う訳だ。


《そんな事より、早く見付けないとヤバいぞ。戦争が始まった》


 ダンゾウが珍しく真面な事を言っている。一昔前なら大歓迎だったが、逃げ道も輝ける未来への道もない今の刀身忍軍からすれば、「勝手に争え」という話である。

 だが、こちらもバリバリの当事者なので知らんぷりは出来ない。


(あの子たちはまだ生きてる……カインと一緒に、囚われている筈……!)


 それにコタローとしても、退けない理由があった。カインと一緒に行方不明になった、鬼の子供たちだ。自分の不始末で餓鬼に貶めてしまったのだから、きちんと責任を取らなくては。


《おット、こんな所にボタンが有りまスネ。ポチッとな♪》

《おぃいいいいいっ!?》


 と、コタローが悲壮な覚悟で周囲を探っている脇で、アズライールが変なボタンを押しやがった。お約束を忘れない、天使のような馬鹿である。ようなと言うか、死の天使だけど。


《いや、意外と正解っぽいぞ》

《マジかー》

《オー、ラッキーデース♪》


 しかし、天使故の豪運か、賞品の格納庫へ通じる道だったようだ。ザル過ぎるだろ。


(……クソッ、居ない!)


 そんなこんなで辿り着いた、メタリックな鳥や飛竜の骨格が捩じくれ合ったようなデザインの格納庫には、カインしか居なかった。きっと、他の三人は別の場所に仕舞われているのだろう。悔しいが今は依頼を優先しなければならない。


《頼むぞ、アズライール》

《OK牧場デ~ズ!》


 どうしよう、一気に信頼出来なくなって来た。

 だが、そこは名のある天使様。厳重に掛けられたカプセルのロックを瞬く間に解除し、カインに降り掛かったモリグナ三姉妹の呪いを解いてしまった。これでも本来の告死力からは程遠いが、その手腕は遺憾なく発揮されたと言っていい。頭はパッパラパーのままだが。


《よし、サイカに連絡を入れて、アタシたちも脱出よ》《おう》《了解だぜー》《ハーイ》


 まだ眠っているカインを背負い、報せも届けて、脱出の準備に入る一行。


「何だ、意外と楽な仕事じゃない……」


 何だかんだでミスもせず、無事に依頼を熟す事が出来た。後は帰りの道中で子供たちも見付ければいい。

 ……そうやって、油断してしまったのがいけなかったのだろう。


『グゥゥゥ……!』

「………………!」


 壁に睨まれている(・・・・・・・・)事に気付かず、声を出してしまった。これまでの苦境と、それによる心労の積み重ねにより、コタローに忍者らしからぬミスを犯させてしまった。

 勝って兜の緒を締めよ。忍者の末裔がこれとは、穴があったら入りたい。今はその穴倉の中にいるのだが。


『ギィグヴァアアアアアアォッ!』


 格納庫の壁面を構成する骨がズルリと剥がれ、ゴキバキと寄り集まり、一羽の巨大な怪鳥となる。

 全身が金属質の羽毛で覆われた、ワイバーンを思わせる姿の、翼長が約150メートルもある妖鳥――――――陰摩羅鬼(おんもらき)の登場である。


◆『分類及び種族名称:死霊怪鳥=陰摩羅鬼(おんもらき)

◆『弱点:口腔内の人体部』


「散開しろぉ!」


 コタローが散り散りに逃げるよう指示を出すが、もう遅い。


『グヴァォオッ!』

『ギャッギャッ!』『ゲァアッ!』『ギャォオス!』

「うおっ!? 口から働き鳥(ワーカー)を吐きやがったぁ!?」


 何故なら陰摩羅鬼が口から以津真伝(陰摩羅鬼の子分的な存在)の群れを生み出して来たからだ。その数、ざっと千羽。鶴じゃないんだから止めて欲しい。


「クソッ、何でこんな所に陰摩羅鬼が居るのよ!」

「いや、普通に倉庫の番鳥なんだろ。むしろ、何も居ない訳がないんだよなぁ……」


 悪態を吐きつつ迫り来る以津真伝を切り伏せるコタローに、ハンゾウが冷静に突っ込む。

 以津真伝も陰摩羅鬼も、死体があれば何処にでも現れる妖怪である。グローバルなこの時代、手に入れるのに苦労はしないし、便利だから飼っていたのだろう。鳥人に飼育される怪鳥って……。

 しかし、今はそんな事はどうでも良い。問題は、この文字通りの人海戦術をどう突破するかだ。口から次々に以津真伝が出て来て、キリが無い。


『死になサーイ!』

『グルルル……!』

『オーノー! 石化の魔眼は卑怯デース!』


 しかも、この陰摩羅鬼はバジリスクやコカトリスとの混血種であるらしく、様々な特殊能力を備えているようだった。見るだけで相手を殺せる告死天使と言えども、睨むだけで石にする魔眼の持ち主を相手取るのはキツいだろう。まだ本調子じゃないしね。

 その上、以津真伝を巧みに操りあらゆる攻撃に対する肉盾として使い、その隙に本体が襲い掛かって来るから、実に始末が悪い。決定力に欠けるこの面子では非常に厳しい相手と言えるだろう。

 だが、ボヤボヤしている暇はない。カインを連れ出さなければサイカたちもトリスケルを撃墜出来ず、最悪見捨てられた場合は諸共叩き落されてしまう。

 コタローたちには今、時間が無いのである。


「クソッ!」


 舌打ちをせずにはいられない、コタローなのであった。

 しかし、それは彼女だけではない。


 ◆◆◆◆◆◆


「あの馬鹿がぁ!」


 僕はまた一体フォモール族の頭を叩き割った所で絶叫した。おそらく、今の私は顔がピキピキしている事だろう。それこそ鬼の形相を浮かべているに違いない。

 でもさぁ、言いたくもなるじゃん。

 僕も、母さんも、ユダたち皆も――――――せっかくここまでお膳立てしてチャンスを与えてやったのに、声を出して見張りにバレるってお前……忍者失格だろ。忍べない忍者なんぞ、何の価値も無い。死ね!

 つーかさぁ、


《レイヴン7、FOX2!》《レイヴン2、FOX2!》

《……クソッ! お嬢様、核ミサイルが足りません! 火力不足です!》


 ここまで核ミサイルをぶち込んでやったのに、何で落ちないんだよ!

 お前、大きさと規格外の能力を除けば、物理法則に縛られた生物なんだろ!?

 八十発も食らったら、流石に沈んでおけよ、生物として!

 これでは“行動不能にして安全にカインを救出する”というBプランも実行出来ない。このまま名前負けしているあの役立たず共に任せるほか、無いじゃあないか!


《ドゥーン・クリスタル、撃沈!》


 そうこうしている内に、ドゥーン・クリスタルがトリスケルに轟沈させられた。機体下部から一筋の光が走ったかと思うと、周囲一帯を巻き込んで大爆発したのだ(残念ながらモンスター親子は直前に艦を捨てて脱出した模様。そのまま空中戦に参加している)。海水どころか岩礁までもが瞬時に沸騰して蒸発している所を見るに相当な高温である。何をしやがった、アイツら!?


《敵がお嬢様の真上に来ます!》


 その上、これまでにないスピードで移動して来たトリスケルが、とうとう頭上に到達してしまった。その巨体は全ての光を遮り、絶望を地上に齎す。その様は地獄そのものが動いているようだ。

 さらに、稲妻が走るような音を立てながら、地獄の釜の底が開く。機体下部に位置するアノマノカリスの口を思わせる部分が展開し、グロテスクな砲門を見せたのである。

 たぶん、地上攻撃用の主砲だろう。さっきの閃光と爆発もこれが原因か。プラズマの光熱だけではこうはいかないので、粒子砲の類だと思われる。場所が場所だけに、“それ”が何なのかは、あまり考えたくは無いが……。

 つーか、さっきといい今といい、こいつら味方ごと僕たちを葬るつもりか!?

 チクショウ、これじゃあ本当に狂ってるのはお互い様じゃあないか、ふざけやがってぇっ!


「マズいマズいマズい……!」


 ど、どうする、どうすればいい!?

 この迸る波動……おそらく、あの砲門は動力源と直結している(口だから胃袋かもしれないが)。核ミサイル数十発でも沈まない機体の全エネルギーを集中した砲撃(と言うかゲロ)を受けたら、一溜りも無い。この場の全員が塵も残さず、あの世に還元されてしまうだろう。最後の鼬っ屁にしてはあんまりにも派手が過ぎるし、吐瀉物だとしたら普通に汚いわ。恥を知れ。

 クソッ、ここまでは大体計画通りに進んでいたというのに、敵の硬さ(イレギュラー)が強過ぎるぞ!

 どうして……どうして、私の人生はこんなに上手く行かないんだぁああああああっ!

◆陰摩羅鬼


 死者の無念が鳥の形を成して現れた妖怪。特に供養されない野晒しの死体から発生し易く、駄目僧侶しかいない寺院や戦場などに現れる事が多いという。元々は大陸(中国)出身の妖怪であり、姑獲鳥などと同じく人の流れに乗って移動して来た。名前の由来は仏教における障害を意味する「陰摩」と仏敵「摩羅」、「鬼」を掛け合わせたもの。

 似たような妖怪に以津真伝がいる。こちらも死者の無念が呼び寄せる怪鳥で、「いつまで死体を放っておくのか」と喚き散らす事からこの名が付いた。

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