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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.2:Attack of the Kreis
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デッド・マックス

『まずはエントリーナンバー01、オワ=コン・デスーノ率いる「アナクローグ1」よ♪ 素材は流木などの木材を流用してるわん♪』

「時代錯誤とかいうレベルじゃねぇぞ」


 最初にスタートラインに流れ着いたのは、木造ハボクックという名のガレオン船、「アナクローグ1」。ご丁寧に帆や大砲まであるが、さすがに推進装置はスクリューのようだ。


『次はエントリーナンバー02、ウソーカ・タロンが頭の「フォールン・オーダーズ」だ! 材料は沈没船の残骸だ! “在り合わせの素材で船体を造る”という意味では、一番しっくり来る船だぜ!』

「ポンコツと言うよりガラクタだな」


 続いて着海したのは「フォールン・オーダーズ」。海底に沈んだ軍艦の残骸を寄せ集めた幽霊船であり、強度に若干の不安があるものの、それでもガレオン船よりはマシだろう。豪勢になったアイアン○ックスとか言ってはいけない。あと、時代の騎士、恨まれ過ぎ。


『……エントリーナンバー03、「ダーク・ペイン」。……舵取りはヘイデン・サンドクローラーだよ。……材料は……珊瑚の死骸や貝殻だね』

「趣味が悪過ぎるだろ……」


 三番手は白化した珊瑚や貝殻などの石灰質を材料にした「ダーク・ペイン」。素材の関係上、名前の割りに真っ白である。船員はヘイデンとナタリーの二人だけのようだが、そんな掟で大丈夫か?


『エントリーナンバー04は「ブラック・ナイト」、操舵手はゴーグルが良く似合う28ビットくん(ペンネーム)♪ 脳と心臓以外は機械化されているサイボーグよん♪ 船の材料は岩礁ね♪』

「意外と弱点が多そうだな」


 縁起の悪い登録番号を担うのは「ブラック・ナイト」。何処ぞの鉄人みたいな奴が船長をやっているが、お前は白き英雄だろと言いたい。船体はほぼ真っ黒だけどね。……作家なら大人しく執筆してなさい、危ないから。


『元バロルシティの外交官で今は寿司屋「十六夜」の板前を務めるインプ……ムエル・トリコが操るのは、エントリーナンバー05「えんがわ」! 素材は死にたての魚介類だが、実に美味しそうだな!』

「ムエルさん、何やってんすかぁ!?」


 五番目に登場したのは、まさかの行き付けの寿司屋の店主だった。乗り物も趣味全開の(遊○王で最近見掛ける)ネタ枠。興味本位で参加しているんだろうが、頼むから自重してくれ。アンタは替えが利かないんだよぉっ!


『……エントリーナンバー06は「シックス・メン」。……奇跡的な数字を引いた船の主は、これまたミラクルなキューブリック氏。……材料は砂礫だね』

「砂上の楼閣どころか砂の城じゃないですか」


 六番目にエントリーしたのは、「シックス・メン」。Xの脇に縦一文字を刻んだエンブレムを頂く砂の城で、海に浮かぶその様は蜃気楼のような違和感がある。発想が病気デスナ。


『ラッキーナンバーに輝いたのは、インド神話の物好き女神「ドゥルガー」が玉座、「ドゥーン・クリスタル」♪ 水晶を主な材料にした、奇麗な船よん♪』

「ふつくしい……」


 ラッキー7は、まさかの女神様だった。スペースゴ○ラみたいな結晶の生えた猛虎を侍らせた八腕四脚のインド美人が、水晶の塔のてっぺんに座す姿は絵になるけど、神様が参加するとか有りなのか?


『八切りには、「八式対魔海多重結界」が登場! PDレースでも活躍した設計士本人の登場だぜ! こいつはスゲェや!』

「お久しぶりです、地獄を味わえこの野郎」


 エントリーナンバー08は「八式対魔海多重結界」。PDレースでも似たような物を造っていた、例のあの人だ。あの時はよくもやってくれたな、この野郎。死と隣り合う恐怖を味わいやがれ。


『……ナンバー09は「マシン・タイザー」。……パイロットはバロメッツの牧場主、デュアル・フリード。……ちなみに女の子だよ』

「そこはジークじゃないんだね」


 九番目は「マシン・タイザー」。亀や甲殻類の死骸を外部装甲にしているらしく、見た目は完全にUFOだが、展開機構を見るに、内部に何か隠し玉がある模様。個人的な予想はスーパーロボット。むしろ、そうであって欲しい。つーか、結構可愛いな牧場主。羊のコスプレした子供にしか見えないんだけど。


『エントリーナンバー10は塩の街「シオカライ」♪ 主に海水の塩分を使っているわん♪ 船長は岩塩採掘所で働く奴隷、コール・ソルトくん♪ 独立を懸けて一念発起したらしいわよ~ん♪』

「塩辛いと言うより世知辛いんですけど……」


 十番目に現れたのは、塩で出来た都市型の船「シオカライ」で独立を目指すコール・ソルト。この船が彼の夢見る街だと思うと、ちょっとやり辛いんだけど。モブに厳し過ぎるだろ。


『ジャックナンバーは優勝候補の「マリン・ダスト」! プランクトンを懲り固めた赤い船で、防御は薄いが速さなら誰にも負けないスピードスターだぜ! 船長はアルカディア・ハードロック! 見た目通りの宇宙海賊さ!』

「宇宙じゃなくてここの海で勝負しろ」


 エントリーナンバー11は、宇宙海賊アルカディア・ハードロックが操る赤い船「マリン・ダスト」。スピードスターと言うよりスターフィッシュ(それも日輪のアレ)みたいな形だが、謳い文句通りに航行速度はかなりのものらしく、オッズも一番高い。速さだけで勝てる程生易しい勝負ではないのだが、それでも優勝候補に選ばれる辺り、マシン・タイザーのような“何か”があるに違いない。注意はしておくか。


『……最後はわざわざディアンシティから出張って来た、サイカ・エウリノームと愉快な仲間の操る氷山空母、「ライオネル」。……オーソドックスに纏めて来たけど、良い出来だね』

「お褒めに預かり光栄だよ、鳥畜生が」


 最後はもちろん、この僕。船名は「ライオネル」。デザインテーマは「聖冠」で、円卓型の土台に十二の逆十字(クルス)が同心円上に並んでいる。遠目なら冠に見えるだろう。近くで見ればコロシアムかな。ここがお前らの墓場(・・・・・・)になる(・・・)かと思うと、嬉しくて堪らないね。

 ちなみに、ディアンシティとは僕らの領地の中心部。即ち屋敷の立っている場所である。主産業は魚介類の養殖と醸造業。(主に母上様と僕のおかげで)医療技術も発達しており、住民は全員只で診察と治療を受けられる。何故か出版業も盛んで、毎年別荘が同人誌即売会になっている。

 ――――――折角なので、故郷の紹介をしてみました。皆も遊びに来てね、死んでから。なるべく地獄に落ちるような事を仕出かしてくれてると助かる。収入的な意味で。

 ともかく、これで参加するハボクックの全艦が揃った。大型の戦艦なので搭乗人数こそ多いものの、参戦する船の数は十二隻しか無い。有り過ぎても管理に困るし、それくらいで丁度良いのだろうが。

 スタートはここトリスケル島で、ゴールはバロルシティの沿岸部。コースは白き魔境「アルビオン」と黒き聖域「エリン」の間を抜ける形になる。いっぱしの大航海だ。一体何隻の船が残る事やら……。


『さて、全艦位置に着いた所で、さっそく始めるとしましょう♪ ……カウントダウン開始ィ♪』

『了解! カウントダウン、10秒前! 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……』

『……ゼェ~ロォ』


 そして、モリグナ三姉妹の何処か間の抜けた合図を皮切りに、いよいよパイクレースが始まる。それぞれのハボクックが各々の推進機構で船体を大海原へ押し出す。


『おっと、さっそくマリン・ダストが前に出たぞ! 戦いはやっぱり速度だよなぁ!』


 頭一つ抜けて来たのは、優勝候補のマリン・ダスト。他の船の三倍は速い。

 その速さに感動したのか、ヴァハが興奮気味にコメントした。彼女の別名はマッハ。偶然だが速さに関する単位と同じ名前である。もちろん速さに目が無い。喜ぶのは当たり前だ。


「させるかよぉ!」「撃て撃てぇ!」


 しかし、そんなにも前に出れば、当然ながらヘイトを買う。大きさから言っても、絶好の的だ。


『フッ、甘いな!』


 だが、マリン・ダストは何と海面から浮き上がり、高速回転しながら反転して来た。殺人兵器じゃん。

 さらに、砲撃を弾き返しながら、後続の船に襲い掛かる。ターゲットはオワ=コンのアナクローグ1。木造船に軍艦のような強度が期待出来る筈も無く、即行で断砕された。弱ッ!


「まだだ、まだ終わらんよ!」


 しかし、コアは破壊されなかったらしく、破片すらも取り込みながら、逆再生するかの如く高速で再生し、大砲で反撃する。撃ち出すのは砲弾ではなくプラズマ弾だった。

 なるほど、防御を捨てて攻撃を取ったか。火元は船体そのものだろう。ある意味リサイクルの極みである。


『そんな物!』


 だが、マリン・ダストの装甲は熱を反射するようで、バチバチと稲妻のようなエフェクトを纏いながら、プラズマ弾の雨あられを悉く跳ね返した。


「フォースと共にあれぇ!」


 攻撃を封じられたとなればアナクローグ1に勝ち目は無く、とうとう残機(スコア)限界に達し、沈没した。

 パイクレースにはスコア制度が用いられており、一定数撃破されるとコアが強制的にシャットダウンして、沈没判定になる。システムコアは高価なので、完全に壊れてしまわないよう施された措置だ。

 むろん、乗組員の生死は勘定に入れていない。このレースに参加する時点で自殺しているようなものだからな。実に紳士的な発想である。


『次は貴様だぁ!』

「ひっ……く、来るなぁ!」

『ぬぐぅ……やるじゃないか!』


 お次はシオカライが標的か。海水を水圧砲として放つというシオカライの攻撃方法は割と効果的なようで、数発明中した所でマリン・ダストが爆散し、墜落する。


『……ところがギッチョン!』


 しかし、それで終わりではなく、マリン・ダストは何と幾つかの子機となって再生し、群体となって再度襲い掛かった。

 フムフム、コアを複数に分割出来るのか。搭載出来るコアは一基だけだが、それを更に(・・・・・)分裂させては(・・・・・・)いけないとは(・・・・・・)規定に書いてない(・・・・・・・・)からな。ルールの穴を突いた見事な設計だ。素直に感服する。


「ああ、ボクは独立して、小さい頃からの夢を――――――アッー!」


 あ、遂にシオカライが轟沈した。さすがに編隊飛行で襲ってくる小型機には敵わなかったか。とりあえず、冥福を祈っておくよ、コールくん。南無南無。

 つーか、最早戦艦でも何でもないじゃん、マリン・ダスト。PDレースのパンジャン・ドラムも大概だったけどさ。


『落ちろ、ガガンボ!』

『……失礼な奴ね。全員、戦闘態勢。あの羽虫を撃ち落としなさい』


 続く対戦カードは、マリン・ダストとドゥーン・クリスタル。赤い日輪と青い結晶塔が戦うって、中々神秘的で良いね。

 しかし、内容自体は割とガチである。

 ドゥーン・クリスタルの攻撃手段は結晶の槍を無数に発射するというシンプルな物だが、ドゥルガーの念力で操られたそれはまさしく彼女の手足で、四方八方から襲い来るクリスタルが飛び交うマリン・ダスト編隊を次々と撃ち落としていく。

 墜落したマリン・ダストは再び一つになり、神風アタックを仕掛けたが、飛び散った筈の結晶の槍衾が船体を抑え込み、身動きを封じられてしまう。速度が命のマリン・ダストにとって、それは息の根を止められるに等しい行為だ。


『くっ……何たる事だ!』

『ざまぁ無いわね。神に逆らうからよ。各員、甲板戦用意。カーリー、指揮を執って』『ヒィハァーッ!』


 しかも、ドゥルガーは戦闘員を送り込み、船員を一人残らず殺戮するという徹底ぶり。その上、陣頭指揮はあの暴力装置的な戦闘の狂人、カーリーである。この瞬間、マリン・ダストの運命は決したと言える。

 ……本当にズルだな、ドゥーン・クリスタルの連中。神様がそんな事したらアカンだろ。

 ちなみに、僕たちは今、最後尾にいる。無用な戦闘を避け、後半で追い上げをする為だ。それにこの海域は様々な魔物が潜んでいる危険地帯。勇み足を踏み出すのは、そのまま死に直結する。


『お姉ちゃん、前!』

「さっそく来たか……」


 と、前方の海に濃い霧が掛かり始める。古今東西、海上に発生する濃霧は化かし合いの合図、魔物が出現するサインだ。

 ある意味、ここからがパイクレースの本番と言っていい。


「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……」


 それ以外の何かが出るのか。僕たちは逢魔ヶ時に備えて、気を引き締めた。

 そして――――――!

◆ドゥルガー


 インド神話に登場する戦闘の神で、アスラ神族と敵対するディーヴァ神族が生み出した戦闘兵器。

 ディーヴァ神族から直々に神器を与えられた完全武装の女神であり、元々は名も無き殺戮人形に過ぎなかったのだが、アスラ神族の王ドゥルガーをぶち殺してその名を奪ったと言われる、生粋の戦闘狂である。

 他にも「ディーヴァ神族と男には殺されない」という何処ぞの魔王みたいな設定を持つアスラの猛将マヒシャを、「女神」という特性を利用して虐殺した事から、「マヒシャ殺し」と呼ばれて恐れられている。どんだけ殺すんだこいつ。

 ちなみに、破壊と殺戮の女神・カーリーの母親だったりもする。蛙の子はやっぱり蛙だった。

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