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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.2:Attack of the Kreis
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死の天使、派遣します!

 やぁ、僕だよ僕、サイカ・エウリノームだよ。

 いやぁ、ついさっきなんだけどさ、遂に当主の座に着いたのよねー。殆ど形ばかりの口約束だけど。

 でも、仕方ないよね。“当主だけが知る事を許された真実”が今の惨状に直結しているんだもの。カインを連れ去られて、屋敷を焦がされて、何より僕の平穏な生活を掻き乱された落とし前は、キッチリ付けてもらわないと。

 ――――――さて、それじゃあ、そろそろ現実と向き合おうか。


「粗茶ですが」

『……ペットボトルに入ってるんだが』

「美味しいお茶ではありますよ?」


 今現在、僕は茶室に座っている。正面にはドラキニアシティの支配者:ブランドー伯爵と、その従者:ブルータス(頭領としての名前はサイゾウらしい)。傍目には幼女と紳士のお遊び、内実は当主同士の腹の探り合いである。

 本当に、どうしてこうなった。立ち話は何だからと茶室に案内したは良いが、思いっきり対面座りだし。これじゃあ、面と向かって話し合うしかないじゃないか。助けて母上様!


『……さてさて、まずは襲名おめでとう。これで晴れてエウリノーム家の当主となった訳だ。誇るが良い』

「正直、全然嬉しくないんですが」


 基本的に気苦労が多いだけだからな、上の立場って。

 だけど、これもカインの為、家族の為、スローライフの為。降り掛かる火の粉をお祓いするのだ、権力でな!

 ま、それはそれとして、


「ブランドー伯爵は、私に何をお求めで?」

『お前は魔女界(ハデス)における当主の役割という物を知っているか?』


 質問を質問で返すな。コロッセオの日本語訳を「殺っせよ」と表現するように教えられているのか。会話をしろよデコ助。


「……支配領域の秩序を保つ事ですか? 咎人の暴走を抑え、天界からの干渉を防ぐ、と」

『フム、正しくもあり、間違ってもいる。真の役目はもっと別の物だ』


 あれ、これ本来であれば、母上様から聞く筈の情報を語られるのでは?


『当主の役割……それは「鍵」の番人だ』

「「鍵」?」

『そう、“地獄の鍵”だ。地獄の釜の蓋を開き、魔王の力の一旦を解放する為のな。……「傲慢」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「色欲」「暴食」「怠惰」。所謂、七つの大罪を結晶化させた宝具の管理が、領主に任された役割だ』


 今明かされた、衝撃の真実。ぶっちゃけ聞きたくなかった。七つの大罪って、七大魔王の力その物じゃん。そんな代物を管理とか、ストレスフルにも程がある。母上様、だから偶にキレると怖いんですね……。


「――――――何でそんな物を」

『七つの大罪は、謂わば留め金だ。ヨーロッパ全土という広大な土地を無理矢理一つに纏める以上、補強も無しに維持出来る筈がない。魔女界は薄氷の上に立っているようなものなのだよ。それに生活基盤を保つにはエネルギーが付き物だろう? こんな大掛かりな神々の玩具が、電池も無しに動くと思うか?』

「………………」


 ようするに、屋敷の地下に眠る七つの大罪(おたから)は、運営の要って事だ。死んだ咎人から経験値(きおく)を吸い上げて悪魔界の維持へ回しつつ、魔王の力を利用して魔女界の生活基盤を支える、まさに“地獄の鍵”である。

 だからこそ、サンダルフォンがこれを狙う理由も分かってしまう。揃えれば、地獄を手中に収めたも同然だからだ。完全に案件である。

 しかし、逆に分からなくなる。その真実を知っていたとして、どうして今頃になってサンダルフォンは鍵を奪いに来たのか。機会なら、それこそ幾らでもあっただろうに。


『“どうして今更”って顔をしているな。しかし、引き金を引いたのはお前だぞ?』

「へっ?」


 まさかの僕のせいにされた。何でやねん。


『お前はディーテシティでシリル・エイカーを葬った際、宇宙まで吹き飛ばしたよなあ? その時、衛星が一個巻き込まれているんだよ。一応は半壊で済んだが、監獄としての機能は半ば失われたらしくてね。おかげで、多くの犯罪者が魔女界に密入国したりして大変だったよーだぞ』

「ま、まさか……」

『そうだ。巻き添えを喰らったのは、第五天マホンだよ』


 うわー、マジかー。つまり、今回の騒動は報復って事?

 ヤバいヤバいヤバい、こんな事が母上様にバレたら、何を言われるか……。


「いや、でもさすがにやり過ぎじゃないですかね? そもそも、あの時はウリエルも一緒になって戦ってたし、こっちにばかり責任を押し付けるのは間違ってるんじゃ――――――」

『元々天国と地獄は争い合う関係だ。隙を見せる方が悪い。大体、シリル・エイカーは地獄側の問題だ。原因がこっちなんだから、幾らでも難癖は付けられるだろーよ。サンダルフォンからすれば、何の関係も無いのにいきなりグーパン食らって重体に追い込まれたような物だからな。怒るのも仕方ないんじゃあないか?』

「………………」


 そう言われると、確かに僕が悪い気がする。軍人のウリエルならまだしも、高が獄長のサンダルフォンに不参加の責を問うのも、報復するなとも言えないしね。彼女は仕事をしていただけだしな。

 だが、それを粛々と受け入れるかどうかは別問題だ。仕返しに魔女界を崩壊させようとするとか、やり過ぎにも程がある。こっちにも生活はあるし、何よりやられっぱなしは面白くない。カイン攫っておいて何言ってんだって話だしな。

 売られた喧嘩は、殺して返す。それがエウリノーム家のモットーである。


「……で、結局私に何をさせたいんですか?」


 とは言え、それは別に彼からでなくとも、いずれ母上様から聞いていただろう。あの人、割と何でも知ってるからな。

 そうなると、ブランドー伯爵にとってのメリットは、“僕に話した”という事実にある。責任の追及と、それに伴う重荷を背負ってあげよう、その代わり分かっているよね(・・・・・・・・)、という話だ。遣り方が某国のレンドリースと一緒なんですけど。ヤクザかお前は。


『サンダルフォンはおそらく、既に新しい器を手に入れている。今回の襲撃は、体の良い廃品処理だ。上手く行けばそれで良い、失敗すればそれまで、って感じだな』

「まぁ、それは分かります」

『そして、その提携先はフォモール族……もっと言うなら、失われた帝国だ(・・・・・・・)。魔法の通じない衛星起動兵器なんて、脅威以外の何物でもだろう?』


 確かにね。マホンを撃墜出来たのは、魔法が通じたからである。フォモール族の技術を吸収して耐性を持たれでもしたら、堪った物じゃない。


「……でも、何でサンダルフォンは天国を頼らなかったんでしょうね? フォモール族を雇い入れるなんて、天国と地獄、どっちも敵に回すような物なのに」


 地獄に……もっと言えば僕たちに報復したいのならば、合法的な方が良いに決まっている。戦力・物資の面から見ても、過去に滅んだ怪しげな連中に頼るより、よっぽど信頼出来る筈である。


『さてな。そこは分からん。だが、何となく気持ちは分かるぞ。奴にとってみれば、天国はメタトロンの(・・・・・・・・・)物だからな(・・・・・)。“カイン・コンプレックス”に天使も悪魔も人間もあるまいよ』


 メタトロンは神の代理人。ウリエルたち四大天使たちを遥かに凌ぐ、最高位の天使。裏切りの堕天使「アブディエル」の密告を受け入れ、最初の天地大戦を制し、今の天国と地獄の関係を築き上げたのも彼だ。

 一方、サンダルフォンは兄のサポートと、戦争の後始末(監獄長)をさせられただけ。華々しい活躍と栄光を極めた兄に対して、彼女はひたすら陰を歩んできた。

 同じ双子なのに、ここまで扱いに差が出れば燻る物もあっただろう。それが今回の騒動を引き金に爆発した。おそらくは、それだけの話である。悲しいね。


『ともかく、壊れた影響かどうかは知らんが、今のサンダルフォンに真面な事を期待しない方が良い。言葉は通じても話は通じないだろうからな』

「……だから、共に倒そうと?」

『そう捉えてもらっても構わん』

「具体的に何をすればいいんですか?」


 結局、話はそこに繋がる。もういい加減勿体ぶってないで、話を進めろよ吸血鬼。


『――――――フォモール族の拠点は、妖精の楽園「トリスケル」(現世で言うマン島)だ。奴らはそこに匿われている(・・・・・・)

「「トリスケル」……」


 あの島は“モリグナの三羽鴉”が支配していた筈だが……なるほど、そういう事か。裏切り者共め。


『近々あそこでパイクレースが開催される。魔女界中のお偉いさんが大勢集まるだろう。サンダルフォンは十中八九、そこでアクションを起こす。フォモール族の復活宣言も兼ねてな』

「随分と詳しいですね」

『ブルータスに調べさせたからな。サンダルフォンの端末が島の主と接触しているのも確認済みだし、間違いなかろう』『ハンゾウが良い感じに囮になってくれたので、簡単に探れましたよ』


 ブランドー伯爵の賛辞に、ブルータスがドヤァと胸を張る。堂々と「仲間を売りました」と言いやがったよ、こいつ。汚いさすが忍者きたない。


『そうだな、簡単な仕事だ。お前に任せておけば万事は解決だな。この場を設けた事も評価に値する。……任務中に昼寝して、危うくフォモール族の斥候に鹵獲され掛けた事を除いてなぁ!』『はぐわぁっ!』


 ……刀身忍軍って能力は高いけど、何処かしらの間が抜けてるんだよなぁ。

 まぁ、やれば出来る子なんだろうけどね。何だかんだ言って、この場をセッティングしたのも、話の流れ的にこの犬コロみたいだし。腰に差した魔剣の力でも使ったのかな?


「――――――つまり、レースに参加しろと?」

『そうだ。元々そのつもりだったんだろう? エントリー費も、ハボクックの材料もこちらで提供する。お前はただ優勝を目指せばいい』


 おや、これは意外だな。まさかのエースをねらえとは。


「てっきり、レースを滅茶苦茶にしろと言われるのではないかと思いましたが?」

『こっちとしてはどちらでも良いがな。……ただ、最近仕入れた情報じゃあ、“珍しい奴隷”が賞品としてラインナップされているらしいぞ。何でも、“魔女のお気に入り”だそうだ。名前はカイン・アルベルト。手に入れられれば、さぞかし良い交渉材料になるだろう。当然非公開の情報だが、知ってる奴は知ってるだろーし、当日は大盛況間違いなしだな~? 何せ、あのエウリノーム家に強く出られるチャンスなんだから』

「………………!」


 クソッ、そういう事(・・・・・)かよ!

 ……これは罠だ。カインを人質にしているのは僕たちをもう一度誘き出す為だし、ブランドー伯爵はそれを分かってて話を持ち掛けて来ている。各々の目的を果たす為に。どいつもこいつも良い性格してやがるぜ。

 鬼の居ぬ間に何する気なんだ、この野郎。


『まぁ、安心しろ。出る杭はしっかりと打ってやるし、不安の芽を摘む為の“切り札”も用意した。それが“これ”だ。……開けろ、ブルータス』『御意! タッターンと!』


 と、ブランドー伯爵の指示で、沈黙を守っていたカプセルがプシューっという、お決まりの音を立てながら展開する。

 さらに、内部で働いていた空間を固定する魔法が解除され、封入されていた者がパッチリと目を覚ます。


「……天使?」


 それは、一人の天使だった。

 見た目は白銀の髪が奇麗な、褐色肌の女の子。

 だが、背中に生えた二対四枚の翼と神々しい雰囲気が、彼女という存在を如実に物語っている。赤い布で大事な所だけを隠しているという、かなり煽情的な格好をしているが、気にしてはいけない。

 ちなみに、どう見ても少女なのだが、胸も股間もモッコリしているので、おそらくは両性偶有である。天使だからね、仕方ないね。


『そうだ。こいつはイスラムの(・・・・・)死の天使(・・・・)。此度の諸問題を解決する為に誘致した』


 おい、こいつ他宗教の天使(スパイ)を誘い入れたって言いやがったぞ。それで良いのか、地獄の守り手。生命を司る天使(サンダルフォン)の相手には、告死の天使ぐらいが丁度良いのかもしれないけどさ。

 そして、目覚めたばかりの天使が、初めて口を開く。


『ここはドコでスカ? ワタクシは誰なのでしョウ?』


 ……あれれ~?

◆ドラキュラ


 おそらく、世界で最も有名なヴァンパイア。今日に伝わる吸血鬼のイメージは、彼が確立したと言っても良いだろう(同時に弱点も露呈したが)。トランシルバニア地方を根城に数々の美女を虜にし、生き血を啜ってきた。十九世紀の末期にヴァン・ヘルシング教授の一行と戦い、滅ぼされる。

 その正体は、ワラキア公国の君主「ヴラド三世」。「串刺し公」として有名な彼は、確かに冷徹な統治者ではあったが、昨今伝え聞くような異常者ではなく、彼を快く思わない者たちに貶められただけの不憫な男であった。だので、彼は死ぬ間際に世界を呪い、人を憎み、やがては怪物へと変じてしまった。

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