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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.2:Attack of the Kreis
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僕の人生ヘルモード

 エウリノーム家の屋敷の上空。

 暗雲を吹き飛ばし、夜闇を昼間のように照らしながら、一筋の光が走る。単なる光なので大した破壊力は無いが、それでも大地を揺らし、庭園の水を蒸発させる程の熱量を有している。

 光源は、宇宙。衛星軌道上に存在する、巨大な宇宙要塞。元々は奇麗な球体だったが、何らかの理由で半壊しており、立体的な三日月のようになっている。

 そんな有様ですら、攻撃システムはまだ生きている。現に今、主砲の発射態勢に入っている。光の筋はエネルギーを効率良く伝導し、確実に目標へ着弾する為の道しるべである。

 発射まで、後数秒。あっと言う間に、エウリノーム家の屋敷は領地ごと消滅する。

 だが、そうはならなかった。


「……来るだろうとは思っていたが、想像以上に大胆だな」


 何故なら、こうなる事を予想していたサイカが、破壊神アフラ・マズダーを起動していたからだ。巨大隕石すら破壊するデストロイヤーに、高が衛星起動兵器が敵う筈も無い。


 ――――――ドギャアアアアアアアアアアッ!

「舐めるなぁああああああああああああああっ!」


 衛星起動兵器の破壊光線と、アフラ・マズダーのホープ・アンド・ディザイアが激突する。拮抗したのは一瞬。すぐさま押し返され、殆ど壊れ掛けだった宇宙要塞は今度こそ終焉を迎えた。

 こうして、エウリノーム家は屋敷と領地を見事に守り通して見せた訳だが、バロルシティにいる筈のサイカが何故ここにいるのだろう?


「備えあれば憂いなしってね。やっぱり役に立つじゃない、錬金生物(ホムンクルス)


 ……そう、サイカはどちらにも(・・・・・・・・・)いたのである(・・・・・・)錬金生物を使って(・・・・・・・・)

 つまり、バロルシティに向かったのは、精巧に再現したサイカの複製人間で、本物は屋敷に残って万が一に備えていた。アフラ・マズダーの識別はシビアであり、本物以外に使用出来ない。故にコピーだけを出立させたのだ。

 ちなみに、錬金生物の素体に使われたのは、ルアク商会の死体共である。今頃は込めた魔力を消費した反動でコピーの精度が落ちていき、“製造当初の姿”に戻っているに違いない。


「母さん、こっちは終わったよ」

《了解。予想通りね。さすがはアタシの娘》

「……そうとばかりも言えないよ。まさか衛星軌道から攻撃されるとは思ってなかったからね」

《宇宙から、ね……》


 通信で情報の擦り合わせをするサイカとテコナ。

 宇宙からの攻撃。それが意味するのは、天国からの干渉(・・・・・・・)

 ――――――ヨーロッパの地獄が大地で一纏まりになっているのに対して、ヨーロッパの天国は宇宙で連合を築いている。機能的に特化した幾つもの巨大な人工衛星が、地獄の宇宙(そら)を巡り合っているのだ。

 ようするに、地獄という馬鹿デカい島を中心に宇宙要塞がグルグル回っている、天動説の状態に近いのである。

 だので、宇宙からの攻撃は、必然的に天国からの攻撃を意味している。

 さらに、地表を直接攻撃するタイプの衛星は数が限られている。此度のような破壊的な力を有しているのは、第五天「マホン」しかない。マホンは堕天使や地獄のスパイなどを幽閉している、謂わば宇宙の牢獄。逃亡者を確実に葬り去る為に、このような破壊力を持ち合わせているのだ。

 では、そんな監獄衛星が、どうして半壊していて、何故に地獄を狙撃するという暴挙に出たのか。


『知りたければ、教えてあげましょうか?』

「《………………!》」


 いつの間にか、アフラ・マズダーの足元に何か立っていた。やたらとサンバーパンクなドレススーツを身に纏った、ロボットと生物の中間的な容姿の女性である。頭頂部には輝く栄冠、背中には鋭利な刃を思わせる一対の翼を持っている。

 ……間違いなく天使だ。それもかなり高位の。


『でも、教えてあげない。貴女のせいで、「地獄の鍵」を取り損ねたからね』

「お前……誰だ?」

『わたしはサンダルフォン。監獄の支配者さ』


 そして、そのアンドロイド風の天使――――――サンダルフォンは、テレビを消すように一瞬でいなくなった。


《サンダルフォンですって……?》

「母さん、知ってるの?」

《第五天マホンを支配する、世界最大の天使よ》


 サイカの疑問に、テコナが答える。


最大の(・・・)? でも、前戦ったウリエルよりずっと小さいけど?」


 サイカの疑問は最もである。ウリエルは炎の巨人とも言うべき、天をも貫く巨体だった。それ以上だと言うなら、人間サイズなのはおかしいだろう。


《あれはただの端末……立体映像(ホログラム)みたいなものよ。彼女の本質は「胎児」の牢獄。つまり、第五天マホンそのものなのよ》

「………………」


 なるほど、それなら確かに最大の天使だ。ウリエルでさえ、あくまで天国に住む側なのだから。

 しかし、それならそれで疑問が残る。それどころか、新たに生まれて来たぐらいである。サンダルフォンがマホンそのものなら、破壊された後に何故端末が姿を見せたのか。そもそも攻撃してきた理由は何なのか。

 ここを地盤ごと吹き飛ばすつもりだったのだとしたら――――――屋敷の地下に、一体何が眠っていると言うのか。


《……サイカちゃん。アタシはその理由(・・・・)を知っているわ。でも、それを聞くには、正式にエウリノーム家の当主にならなきゃいけない。あなたはその覚悟があるかしら?》


 と、テコナが芯の通った声で質問した。

 サイカはまだ令嬢であって、正式な当主ではない。

 だが、サンダルフォンが何を求めて、こんなにも大掛かりな事を仕出かしてまで攻めて来た理由を知るには、当主として話を聞かねばならない。

 それはつまり、部外秘の事実……それもかなり重い真実を知らされる事を意味している。五歳にも満たない幼女が背負うには、あまりにも重い立場と秘密だ。


「……分かったわ、母さん――――――いえ、母上様。今日この日より、サイカ・エウリノームは全てを背負います」


 だが、サイカは殆ど逡巡する事なく、受け継ぎを了承した。元魔王である彼女からしたら、そこまできつい話ではない。内心は静かに暮らしたいので、不満タラタラではあるけれど。

 それでも、大事な家族を巻き込まれた落とし前をキッチリ付ける為、サイカは当主の座を引き継いだのである。


《……そう。よく言ったわ。なら、教えてあげる。でも、それは帰ってからね》


 まぁ、さすがに電話口で伝える事は出来なかったようだが。嵌められた気がしなくもない。


「分かりました。お待ちしてます」

《そんな硬くならないで。いつもの可愛いアナタでいてちょうだい》

「早く帰って来てね、母さん」

《そうそう、そんな感じ♪》


 そんなこんなで、まだ口約束とは言えサイカはエウリノーム家を受け継ぎ、全ての秘密を知る立場となった。今夜は赤飯ね。


「――――――それで、貴方は私に一体何の用が御有りなのかしら?」


 通話を切り、アフラ・マズダーを時空の海へ召還した所で、サイカは廊下の陰に向かって言った。


『それは勿論、此度の騒動に対する意見交換だよ』


 すると、闇の中から誰かが答える。ヒタリ、ヒタリと歩きながら。

 やがて、一人の大男が姿を現す。銀髪をオールバックにした真紅の瞳を持つ偉丈夫で、フォモール族にも引けを取らない筋骨隆々の肉体を誇る。

 服装は黄色のラインが真ん中に入った黒いインナーに赤いジャケットを羽織っているという、何処ぞの三代目怪盗を思わせるデザインをしているほか、スペードをあしらったサークレットや飾りを付けている。趣味なのだろうか?

 やけに悪い顔色と口元から覗く鋭い牙を察するに、彼は吸血鬼なのだろう。

 というか、実際に彼は吸血鬼だ。それも真祖にして由緒正しき血統の。


「……それは当主同士で、という事ですか? ブランドー伯爵」

『その通りだ、サイカ・エウリノーム』


 そう、彼の名はアルカディオ・ブランドー。ディーテシティ近隣に存在する、ドラキニアシティ(現世のバルカン半島に位置する地域)の支配者だ。

 さらに、かの有名なドラキュラ伯爵(ヴラド三世)と血を分けた兄弟であり、カーミラやミカーラとは別系統の真祖である。

 そんな立場も図体も態度もデカい、超大物が今、目の前にいる。急に胃が痛くなって来た。


「まるで、狙っていたかのようなタイミングですね……」

『憶測は良くないな。証拠も無く人を疑う物じゃあない』


 実に白々しい事を言う。

 最初にフォモール族と接触した際に、ルアク商会が密売しようとしていた相手は、他ならぬ彼だ。偶然とは思えない。

 そして、このタイミングである。どう考えてもわざとだろう。

 サンダルフォンがマホンを使って襲撃し、当主の座を受け継がざるを得ない、この時に――――――それも、前当主どころか関係者が出払っているのを見計らっている辺り、かなり悪辣だ。

 確実に自分が優位な話を持ち込もうとしている。幼女一人を囲う事など簡単だ、という内心が透けて見えた。


(ブランドー伯爵は錬金生物計画プロジェクト・ホムンクルスで懇意にこそしているが、同時に母上様の政敵でもあるからな……)


 下手な事は言えないし、面倒な事を取り次ぐ訳にもいかない。当主最初の仕事が政敵との舌戦である。荷が重いにも程がある。


『そう硬くならなくて良いでござるよ。お館様は高貴にしてお優しいお方ですから』


 さらに、もう一人……否、もう一匹(・・・・)敵が増えた。


「お前……」

『拙者、お館様の忠犬「ブルータス」と申す。以後お見知りおきを』


 それは、ルアク商会の荷物に紛れて寝ていた、犬神風味のコボルト。名前はブルータスと言うらしい。何て裏切りそうな名前なんだ……。


「ご丁寧にどうも。……それはそうと、良い刀をお持ちですね」

『これはお目が高い。刀身の里を抜けた時も手放さなかった、拙者の家宝でござるよ』


 というか、マジで裏切り者だった。コタローが言っていた抜け忍の一人がこいつだった。元より無いに等しい信用が地に落ちた気がする。


『さて、話はサクサク進めましょうか』


 そして、例のブラックボックスも登場。これもまた交渉材料のようだが、一体何に使うのだろうか?

 まぁ、それはそれとして、とにもかくにも、


(……マジで早く帰って来て、母上様)


 勝ち目の無い心理戦に挑まざるを得ない状況に、サイカは内心で冷や汗を掻いた。誰か助けて。

◆サンダルフォン


 罪を犯した天使の牢獄:第五天「マホン」の支配者。“神の代理人”など様々な異名を持つ最高位の天使「メタトロン」の、双子の妹。兄と同じく天からはみ出す巨体を誇り、胎児=全ての命を司るとも言われている。

 その正体は、衛星起動兵器マホンのメインシステム。有する火力は核兵器を軽く凌駕しており、地表へ文字通りの天罰を下す。

 前回の天地大戦でシリル・エイカーが撃破された時に、その巻き添えを食う形で半壊し機能停止状態になっていた筈なのだが、何故か今更になって再起動した。

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