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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
4/52

僕の義妹がこんなに強い訳がない

 べつのひっ!


「今日から私の眷属メイドになった、ハーフデュラハンのユダちゃんです!」

『よろしくお願いしまーす!』

「「………………」」


 さっそく先日ゲットしたデュラハン娘――――――ユーダス・カスパールことユダちゃん(何でそんな悪に魂売ってそうな名前?)を紹介したら、母上様とアンタレスさんに絶句された。周りのメイドたちも唖然としている。全員揃って「何やってんだこいつ」と顔に書いてあった。

 だって、仕方ないじゃないか。僕は恩には報いるタイプだし。それにこんな世間知らずを野放しにしたら色々と迷惑じゃないか。

 例え見た目が大人でも、精神が幼い少女を守らなくて、何が紳士だというのか。

 余談だが、勝手に家出した事はみっちりバッチリ叱られた。そりゃそうだよね。おかげでまたしばらく外出禁止令ですよ、トホホ……。


『ところでお姉ちゃん、今日はこれから何をするの?』


 と、すっかり僕に懐き精神年齢相応の態度で接してくるようになったユダが、ポツリと尋ねてくる(初対面の時のアレは、舐められないようにお姉さん風を吹かせようとしたらしい)。出来ればお兄ちゃんと呼んでほしいが、そこはグッと堪えよう。


「……訓練よ。貴女の自己紹介も兼ねてね」


 僕はサムズアップと共に答えた。


 ◆◆◆◆◆◆


 所変わって、屋敷正面の庭園。

 四方を塀で囲まれ、外側には竹林、内側には松や楓などの多様な植樹が生え、砂利の敷き詰められた庭には枝分かれした敷石があり、鹿威しや石灯篭と言った小物も完備。苔むした石組の池には色とりどりの錦鯉が優雅に泳いでいる。

 どう見ても和式庭園です、本当にありがとうございました。

 屋敷本体も数寄屋風の馬鹿デカい書院造で、赤茶けた瓦の屋根をしている為、何処と無く沖縄建築にも見える。門前の置物が狛犬やシーサーではなく白澤が置いてあるあたり、中国の文化も少なからず混じっているらしい。

 やっぱり何処か迷走してるよな、ここの文化……。

 そんな異文化の集大成みたいな、暴れるには色々と不便そうな庭園にて、僕とユダは対峙していた。

 周囲にはアンタレスさんとメイドさんがズラリと並んでいて、僕たちを中心として円を描くように配置している。

 アンタレスさんは審判、メイドさんたちは不測の事態――――――流れ弾による建造物の破壊や万が一怪我をした際――――――に対処する為だろう。魔法は何にしても破壊的だからね。

 今からここで、僕とユダは戦う。訓練と見極めを兼ねて。

 基本は魔法メインだが、それだけではない。得物を使い、拳を交え、蹴り合い殴り合う、まさしく実戦である。子供にガチバトルさせたら駄目だろとか言ってはいけない。我がエウリノーム家は強さこそが全てなのだから。

 ちなみに、戦闘を行うからか、ユダは最初から暗黒騎士スタイルになっている。頭部と胸部の目を遮光板のような物で覆っているが、たぶん【極閃光射】対策だろう。敗北から学んでいるようで良き良き。

 対する僕は、いつものメイド服にカットラスと自作の特殊なガントレットという、かなりの軽装だ。日本出身なら刀にしろと思うだろうが、僕は乱戦の方が得意なので、切れ味ばかりで脆く折れやすい日本刀を使う気は更々ない。

 それに防御面に関しては、この特殊なガントレット――――――BBSバスターブレイドシールドで充分である。

 この装備はその名の通り「撃つ(バスター)」「切る(ブレイド)」「守る(シールド)」を三位一体化させた武器で、普段はリストブレイドの形を取っているが、刃の真ん中から左右に展開する機能があり、間に魔力を変換したエネルギーフィールドを張って盾になる事も(その際に刃が二の腕で合わさるので、即席の手甲にもなる)、少しだけ開いてエネルギーを一極集中した後に発射する事も出来る優れ物。

 この“開き方が魔力で自在に調節出来る”という特性が非常に便利で、使い方によってはマニュアル以上の性能を発揮出来るのだが、それは実戦の中で語るとしよう。


『でも、ワタシは分かるけど、何でお姉ちゃんまで訓練を?』


 と、姿だけは立派な暗黒騎士ユダがこちらを見下ろしながら首を傾げる。こうして見ると身長差だけでなく体格差も凄いな。


「決まってるでしょう。力に振り回されない為よ」


 僕は上目遣いで答える。中身はともかく肉体的には幼年期なんだから仕方ない。はたから見ると「妹のお姉さんごっこに付き合う姉」って感じだが、実際には逆なのだ。精神年齢、実年齢共に。


『力に振り回される?』


 意味が分からない、という顔だった。これだからお子ちゃまは。可愛いからいいけど。


「あんた、魔力さえ高めれば最強になれると思ってない?」

『うっ……』


 どうやら図星だったらしい。二歳児だから仕方ないね。


「“最強武器やチート能力で無双”なんてのは、雑魚相手にしか通じない夢物語よ」


 強い武器、無敵の能力、底知れぬパワー。それらを活かせるかは、あくまで器次第だ。

 納得がいかないというなら逆に聞くけど、伝説の聖剣やら魔剣やらをニートのお前らが持ったところで使いこなせると思いますか?

 仮に身体能力が優れているとしても、ヌ○サクと承○郎だったらどっちの方が星の白金(スタープ○チナ)を活かせますかって話だよ。

 心技体……これらが一級品でなければ、チートを使う事は出来ても、活用する事は出来ないのである。

 それに、いざという時に身を守れるのは自分だけだ。他人を信頼するのは勝手だが、他力本願では、この世知辛い世界では生き残れない。

 だからこそ、僕を含むエウリノーム家の人間は幼少期から修行をする。勉強もするけど、一番力を入れているのは実践訓練である。驕り高ぶり、思わぬ相手に足元を掬われないように。


『……それは分かったけど、今のお姉ちゃんと戦うのは何というか――――――』


 小さい子供を苛めるようで気が引ける。言葉にこそ出していないが、ユダはそういう顔をしていた。

 お前、初対面時の体たらくを少しは思い出せよ。幼女に喧嘩売った挙句惨敗しただろうが。僕も幼女に不意打ちされたけど。

 まぁ、親愛の証だと思っておくよ。義理とは言え、お姉ちゃんを苛めるのは嫌だよね。

 だが、それに関しては何の心配もいらないぞ、ワトソン君。


「……なら、これで対等ね」


 僕は懐から、赤と青の飴玉が入った小瓶を取り出し、赤い方を一粒舐めた。

 すると、あーら不思議。僕は二十歳くらいのお姉さんになりました。メイド服がロングスカートからミニスカになっちゃいましたよ。

 この丸薬もBBSと同じく自作したもので、赤を舐めると大人に、青を舐めると元に戻る。一粒五万円なり。


『……ふしぎなメ○モ?』

「それを言っちゃ駄目よ。それより、構えなさい! 訓練はもう始まっているのよ!」


 さらに、腰に差したカットラスを引き抜き、BBSのシステムを起動させる。これで僕は完全究極態だ。


『行くよ、お姉ちゃん!』


 僕が戦闘態勢に入ったのを感じ取ったのか、ユダが妖術で自分の首を旋回させながら、切り掛かってくる。BBSから光弾を連射して牽制したが、ユダは臆するどころか剣で弾き飛ばしながら一気に距離を詰めてきた。

 なるほど、親がデュラハンと刑天というだけはある。なら、これはどうかな?


「せぃっ!」


 僕は光弾の連射を止め、BBSをシールドモードに変えてユダの剣を受けると、腕を動かしながら刃を閉じて剣を挟むようにして拘束し、がら空きとなったユダの左半身にカットラスを振るう。どうよ、これがBBSの神髄、“受けた状態からの反撃”よ!

 だが、ユダはそれをスキル強化した左手甲で防ぎ、膠着状態に持ち込んだ。その上、胸部装甲の口から火を吹こうとしている。

 うーむ、さすがに鷹の目を常時使える奴を相手にするのは面倒だな。だったら、こうするまでよ!


「オラァッ!」

『がっ!?』


 僕は両手が使えないユダの胸部に思いきり頭突きをかまし、炎を口内で暴発させ怯ませた上で、右足を折り畳んで僕とユダの僅かな間に割り込ませ、ヤクザキックでぶっ飛ばした。


「ヘァッ!」


 そして、充分な距離と隙を生み出した事により、僕は躊躇いなく【混沌の覇者】を発射した。下手すると爆殺してしまうかもしれないが、手抜き出来る程彼女は弱くない。以前圧倒出来たのは、不意打ちが上手く決まったおかげである。

 だから、油断のない今のユダならきっと躱せるだろう。そう信じている。


『フンッ!』

「嘘ぉっ!?」


 しかし、ユダは僕の予想を遥かに上回る回避をしてみせた。てっきり身を捻るなり魔法障壁を張るなりするかと思ったら、まさかのオー○ンゲット(胸・腹・腰の三つ)しやがった。分離して飛ばせるの首だけじゃないのかよ!?


『『【火炎放射】!』』

「あぶっ……あっつぅ!?」


 さらに、背後で合体、【火炎放射】で奇襲してきた。ギリギリ避けたつもりだったが、回避先を読まれていたらしく、首の方から放たれた【火炎放射】を諸に食らってしまった。そんな使い方ありかよ。


「そこまで! 勝者、ユーダス!」


 と、そこで審判であるアンタレスさんから待ったが掛かる。彼に言われるまでもなく、今回は僕の負けである。天賦の才だけでこれだけやれるのだから、訓練を積めばもっと強くなれるだろう。末恐ろしい子……!


「まぁ、ちょっと熱いだけなんだけどね」

『理不尽過ぎる!』


 ちょっと服が焦げただけで火傷一つない僕を見て、ユダが抗議の叫びを上げる。仕方ないじゃん、効かないんだもん。元魔王の魔法耐性舐めんな。


「素晴らしい物を見せて頂きました。なるほど、これならサイカ様の専属メイドも任せられましょう」


 そんな僕たちのじゃれ合いを見て、アンタレスさんが微笑ましそうに賛辞の拍手を送ってくる。

 だが、何故か目だけが笑っていなかった。まるで獲物を前にした犯罪者のようだ。


「……ですが、お二人共、最強と呼ぶには程遠い。今度はこのアンタレスがお相手しましょう」


 そして、執事にあるまじき凶悪な笑みを浮かべながら挑発してきた。うーわ、何その顔、ムっカつくんですけど!


「さぁ、掛かってきなさい♪」

「野郎、ぶっ殺してやるぁ!」『お姉ちゃん、口悪いよ!』


 こうして、僕とユダ、アンタレスさんのバトルが始まった。メイド軍団が慌てていないところを見るに、最初からこの流れに持っていくつもりだったのだろう。性格悪いなこの人。


「死ねコラァッ!」

「淑女にあるまじきその暴言、減点ですね。【無限起動兵器】!」

「なぁっ!?」


 さらに、埒外の【無限起動兵器】。無数のゴーレムが出現し、僕たちの行く手を阻んだ。どこで使い方を習った!?


「ユダ、薙ぎ払え!」「【火炎放射】!」


 僕は一旦攻撃を中止し、ユダに【火炎放射】で掃射させた。あのトラウマ兵器と同質とは限らないが、厄介な泥人形はこの手に限る。


「続けてこれだ! 【水圧砲】!」


 そして、燃え盛る庭園に【水圧砲】をシュート。水蒸気爆発を引き起こして、何もかも吹っ飛ばした。メイド軍団は全力で障壁を張っていたから大丈夫だろうが(ただ威力を殺しきれなかったようで、何人かはあられもないポーズでひっくり返っていた)、さすがに爆心地のアンタレスさんは無事では済まないだろう。

 ……そう思っていた時期が、少しだけありました。


「ふむ、なかなかよろしい連携ですね」


 アンタレスさんは何事もなかったかのように、爆炎の中から歩いてきた。よく見ると、緑色をしたバリアのような物を張っている。【神風障壁(エア・フォース)】で爆発を遮断したのか。


「そんな馬鹿な!?」『人間じゃねぇ!』

「失礼な。これでも由緒正しき一般人ですよ」

「『嘘こけぇっ!』」


 百歩譲ってもブ○リーにしか見えないよ!


「ですが、テコナ様は遥かに強いですよ? それがエウリノーム家の当主になる、という事です」

「『ええぇ……』」


 神速で首筋に手刀を突き付けられた僕たちは、それしか言えなかった。

 参った。本当に参った……。


 ◆◆◆◆◆◆


 そのよるっ!


『いやー、強かったねー、アンタレスさん』


 僕の隣で添い寝という名の奉仕をするユダが、しみじみと呟く。ちっちゃな僕を抱き枕にするだけの簡単なお仕事です。時給五百円ね。ばぶぅー。


「そりゃ、テコナお母様の片腕だからね。雑魚に務まるポジションじゃないよ」

『じゃあ何で勝負を挑んだの?』

「だってムカついたんだもん」

『えー』


 そう、アレは仕方なかった。それくらいあの笑顔はムカついたのである。あの人、絶対ロクな半生送ってないな。

 しかし、あんな態度を取られて悔しがらない程、僕もいい子ちゃんではない。絶対に見返してやる。

 つーか、困る事をもっといっぱいしてやる。力じゃ全然勝ち目が無いからね。子供は子供らしく、たくさん悪戯しなくちゃ。反省なんぞクソ食らえだ。存分にストレスを溜めるといい。


「……という事で、明日は冒険の旅に出ます」

『ええっ、また怒られちゃうよ!?』

「大丈夫、その時は道連れだから」

『……って、ワタシも行くの!?』

「もちのロン」

『いーやーだー!』

「だーめーだー! 行くったら行くの! はい、決定! そしておやすみ!」

『イヤ~!』


 そういう事になった。

◆アンタレスさん(CVイメージ:当然正位置!)


 エウリノーム家の執事。仕事は完璧そのもので、当主からの信頼も厚く、相応の実力も兼ね備えた文武両道な人。その当主であるテコナとは主従以上の関係を臭わせる事があるが……?

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