ザ・トリデター
「な、何でこんな所にフォモール族が!?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみろや!」
コタローが驚愕しているが、別にそこまでビックリする程の事でもないだろう。自分で言ってたじゃないか、「ハンゾウは調査に行ってる」って。“何処に”とは明言してないけど、これだけ状況が揃えば間違えようがない。
ミイラ取りがミイラになったのだ。
つまり、ハンゾウは何らかの理由でフォモール族の拠点へ調査に向かったものの、返り討ちに遭った上に里まで尾行された挙句、用済みになって殺されてしまったのである。ダンゾウ共々使えない奴だな。
「……そんな事より、カインは何処だ?」
全開の遭遇時から違和感はあった。何であんな所にいたのかと。ダンゾウはカインを攫いに来たとして、フォモール族が訪れる理由が分からない。今まで闇に潜んでいた狩人気取りの戦闘狂共が、誘拐なんてチマチマした、悪目立ちする事をやるだろうか。脳筋な連中だから、究極的に言えば特に理由は必要無いのかもしれないが、それを言ったら切りが無いだろう。
だが、仮にカインの誘致が目的なのだとしても、やはり違和感は拭えない。光学迷彩に身を包んで不意打ちを仕掛けて来るような奴らだが、誰かを人質にして戦意を失わせるような真似はしない筈だ。戦闘大好きっ子だからね。
だからこそ、考えたのだ――――――もしかして“誰か”に雇われたんじゃないか、と。
そう考えると、今回カインの確保に動いたのもしっくり来る。大方、“こいつを攫えば、エウリノーム家の連中が芋蔓式に釣れる”とでも言われたのかもしれない。
それに伝承を聞く限り、フォモール族は誇りだけは一丁前っぽいから、命令されるのはプライドが許さないだろうけど、傭兵として雇われるなら対等な関係だから、聞く耳くらいは持ったのだろう。
だとしたら、雇い主の目的は何なのか。もし、僕たちを屋敷から動かすのが理由だとしたら……。
『ガヴァアアアッ!』
「……っと、余計な事を考えている場合じゃないか」
ともかく、今は目前の敵だ。こいつら魔法で攻撃出来ないから面倒なんだよねぇ。
とは言え、やれる事はある。やはり戦闘における優位性を決めるのは“情報”だよな。
「【極閃光射】!」『ヴォオオッ!?』
僕はリストブレイドで切り掛かって来たフォモール族の一体に向けて、【極閃光射】を食らわせた。単なる目晦ましに過ぎないが、物は使い様である。
【極閃光射】は、端的に言えば光放つ魔法。出力を上げれば鉄をも溶かす威力を発揮するが、残念ながら魔法が通じないフォモール族には全く効果が無い。
しかし、それはあくまで目潰しに使うからであって、視点を変えれば驚きの結果を齎してくれる。こんな風にね。
「――――――フォモール族自体は魔法の影響を受けないだけで、吸収している訳じゃない! 吸い取っているのは、武器である甲殻生物の方だ! こっちを先に潰せば、身体強化でゴリ押し出来るぞ!」
今回、僕がした事は光による検査。フォモール族に魔法が通じないのは分かり切っているので、より確度を上げたのだ。ようするに、魔法の光がどう無効化されるかを見たのである。
結果、フォモール族本体は魔法を弾くように受け流し、一体化している甲殻生物の方が魔法を吸収している事が分かった。
つまり、甲殻生物を先に殺してしまえば、フォモール族に対して、魔法で身体強化した攻撃を物理的に伝導する事が可能、という訳だ。フォモール族の耐性はあくまで反射してるだけだからね。物理的ダメージを受けるのは前回の戦いで実証済みだし、地力の差は幾らでも魔法で埋め合わせ出来るだろう。タブンネ。
まぁ、相変わらず遠距離魔法は全くの無意味なので、接近戦オンリーになってしまうのだが。本当に面倒な奴らだなぁ……。
『ガァヴヴヴァアアアッ!』『くっ……こいつぅ!』
そして、向こうはプラズマ光弾で撃ち放題。おまけに威力は一発で人体爆散レベルと来た。ちょっと卑怯じゃないですかね。
事実、他のメイドたちも手を焼いている。弱点が分かっても、それが効果的かは別問題である。
メイドたちは吸血鬼。高い魔力を活かした馬鹿力と再生力によるゴリ押しが基本だ。甲殻生物を先に殺さなければ強みを全く活かせないばかりか、弱体化される上に再生を阻害されてしまう。
仮に体良く甲殻生物を始末出来ても、相手はチタン合金を握り潰すような化け物である。幾ら魔法で強化するにも限度はある。僕の私見では、フォモール族一体に対してメイドは五人くらいは必要だ。二人が甲殻生物を殺し、二人が本体の反撃を抑え、最後の一人が心臓を潰すか首を撥ねる。それしかない。
だが、この戦法にもまた問題がある。フォモール族自体の身体強度である。前の戦いでは、人間を十人は木端微塵に出来る爆薬を頭部に集中砲火する事で、ようやく怯ませたくらいだ。破砕するには、その何倍――――――いや何十倍のエネルギーが要るだろう。
ようするに、拳で原子力爆発を引き起こせ、と言っているようなものである。出来るか、そんな事。メイドたちじゃ、【天界蹂躙拳】は使えないからなぁ……。
(お任せ下さい、お嬢様! 遣り様はあります!)
(あっ、そうなの……)
しかし、カーミラやミカーラはやる気満々だ。その自信は何処から来るんですかね?
『ヴォォオオオッ!』『ぎゃっ……!』
と、質量攻撃を仕掛けようとしたマレイユが、返り討ちにされた。だから、魔力で変形した身体じゃ的がデカくなるだけなんだってば。
『今よ! 突けぇっ!』『『『ハァアアアアアッ!』』』
だが、それは囮だったようで、マレイユをジャイアントスイングで吹っ飛ばしたフォモール族に、カーミラを含む四人のメイドが殺到する。拳で砕くのは無理だと分かっているのか、自分の骨を槍に変えて串刺しにしていた。
なるほど、あれなら圧力が一点に掛かるから、少ない力で貫通出来る。それでも鋼鉄をボーリングしてしまう力が込められているが。どっちも化け物だな。
ただ、串刺しに成功したのは二人だけで、一人は甲殻生物を殺害し、もう一人が脇腹から心臓を貫いた。それ以外は胸部正面の骨で弾かれてしまった。テレパシーによると、皮骨板にグルリと囲まれている上に肋骨が甲殻のようになっているらしい。どういう生物なんだ、こいつらは。
しかし、おかげで襲撃者の内、一体は倒せた。さすがに心臓を破壊されては死ぬしかあるまい。
さらに、それを参考にした他のメイドたちが攻勢に転じ、残りのフォモール族たちも仕留めた。やるじゃない。接敵と同時に戦闘不能になった刀身忍軍とはえらい違いである。
ちなみに、母上様はアンタレスさんとケーキ入刀していた。ケーキはフォモール族で、刀はエクスカリバーだ。他人の物取るなよ。
『コカカカカカ……!』
そして、残るは僕と戦う、この一体のみ。観察に徹していたから防戦一方だったが、ここからは反撃の時間である。
「頼むよ、ユダ! ドラコ、刀身形態!」『きゃるん!』
『了解だよ、お姉ちゃん。他の皆は魔法でサポートして!』
『『わかったー!』』『スップリンリン!』
さぁ、始めようかぁ!
『ゴヴォァアアアアッ!』
「くっ!」『重い……!』
フォモール族が怒りに任せて両の拳を振るってきた。それぞれ剣で受け止めたものの、隕石でもぶつけられたかのような衝撃が伝わって来る。これで魔法強化無しとか、本当にふざけてやがる。正面切っての殴り合いは無謀だな。
だが、生憎僕は真面目に力比べをする気は無い。
「ドラコ!」『ギュヴェアアアアアッ!』
僕の命令で変形したドラコが、甲殻生物を串刺しにして殺す。
甲殻生物は魔力を吸収してしまうが、吸い上げる速さには限度がある。ならば、吸われるより速く魔力を供給すれば、錬金生物でも形状を維持したまま変化気に転じられる。謂わば、超魔力によるゴリ押しだ。
魔王舐めんなよ、このクソ鳥が。
さて、魔法吸収能力が失われた今、こいつは馬鹿力があるだけの鳥人間である。殴れば死ぬし、刺せば殺せる。ここまで来れば、遠慮してやる義理はない。
「『ドララララララララァッ!』」
僕とユダの連続斬りがフォモール族を襲う。これでも薄皮しか剥けないのは納得いかないが、奴はもう終わりだ。
……どんな生き物も、関節を鍛える事は出来ないからなぁ!
「でりゃああああっ!」『ゴァアアアアアッ!』
僕は傷で怯んだ隙を突いてフォモール族の右腕に組付き、ユダの手を借りつつ関節を破壊した。左腕はドラコが使い物にならなくしたから、実質的に両腕が使えなくなったに等しい。
つまりは棒立ちだ。後は煮くなり焼くなり好き放題である。
『グルゥッ!』「逃がすかビーム!」
不利を悟ったフォモール族は鳥らしく空へ逃げようとしたが、行く先で【混沌の覇者】を爆発させれば、簡単に叩き落せる。お前らは物理的な衝撃からは逃れられないからな。姿勢制御が難しい空中では、ご自慢の耐久力は意味を為さないんだよ。
さぁ、いい加減に年貢の納め時だ。
『――――――ゴヴォァアアアアッ!』
……っ、コイツっ!?
「させるかぁ!」
『お姉ちゃん!』
「ナイスよ、ユダ! 【天界蹂躙神拳】!」
『ゴヴァァォオオオオオオッ!?』
僕はユダが投げて寄こしたアロンダイトに【天界蹂躙神拳】を打ち当て、自爆しようとしたフォモール族の心臓を肋骨ごと貫通した。
あっぶねぇ。このアマ、もう死ぬしかないと分かった瞬間、迷いなく道連れにしようとしやがった。心臓から目を離さなくて助かったぜ。
こうして、刀身忍軍に襲撃を仕掛けて来たフォモール族の一団は、“見”に徹した僕らに巻き返され、全滅した。“魔法が通じない”というアドバンテージに胡坐を掻き過ぎるから、そうなるんだよ。
しかし、僕には分かっている。これで終わりではないと。
何故なら、まだ何処かの誰かさんが顔を見せていないからだ。
改めて戦って確信した。こいつらは、フォモール族は、本当に戦う事しか頭にない。何と言うか、“狩りの成功”と“決闘の勝利”を重んじ、“名誉の戦死”を求めている節がある。
さらに、フォモール族は元々ドイツ系のあの世から渡って来た連中である。ヴァルハラ(英雄が死後に逝く、酒をかっ食らって延々と戦い続ける場所)なんて考えだすような連中だし、「生きる事は戦いだ」とか思っていても不思議はない。今回の襲撃も頭数をもっと増やしておけば、確実に勝てただろう。
つまり、フォモール族は戦闘能力こそ高いが、戦略性は大してないのだ。何処まで行っても、ある種のスポーツ感覚を抜け出せていない。徹底さが無いのである。
だからこそ、裏で糸を引いている奴がいると確信出来る。
そして、確信は現実の物となる。
「………………!」
エウリノーム家の屋敷がある方角から、異様な力を感知したのだ。
◆フォモール族
ケルト神話における、聖地「エリン」(アイルランドの事)の第三世代の支配者。深海より来たりし異形の巨人たちであり、その身体は何処かしらが別の生物に挿げ替えられていたという。非常に好戦的だが身内には割と優しく、交配種を生み出した事もある。ただしダーナ神族、テメェらは駄目だ。
その正体は、海鳥を祖とする人型生物。魔力を受け付けない細胞を持ち、魔法を吸収する能力がある甲殻生物と遺伝子レベルで共生する事で、魔法攻撃を一切無効化する。元々はゲルマン系の種族であり、戦いに美学を見出している戦闘狂である。社会構造は完全な女尊男卑。強い女が最強なのだ。
ちなみに、いつも水浸しな生活をしているからか、入浴の習慣がないので、地上の彼女らは滅茶苦茶臭い(取るに足らない獲物の皮を剥いで吊るすのは示威の他に臭い消しの意味もある)。




