いつも星の海で
『ジュワッ!』『シュワッ!』『デュワッ!』『シェアッ!』『ヘァッ!』『タァッ!』『デェアアアッ!』
サイカの呼び掛けに応じて、時空の壁を天元突破して、七つの属性を持った七体の機械神が現れる。
彼らは白きアフラ・マズダーを構成する神機「アムシャ・スプンタ」。ゾロアスター教における不滅の聖霊たちである。
アムシャ・スプンタは、選ばれし者たちと一体となって戦う。
――――――そう、皆で戦うのだ。
「行くよ、皆!」
『うん!』「ああっ!」『りょーかい』『ごーごー!』『バフルン!』『きゃるる~ん!』
アムシャ・スプンタが戦場に散らばるサイカたちを引き上げ、コクピットに転移させた。
内部は外の衝撃が伝わらない特殊な空間となっており、操縦者の感覚が機体に直結するようになっている。人機一体って奴である。
さらに、サイカの搭乗機「スプンタ・マンユ」を中心に、各機が桜色の粒子物質を撒きながら旋回し、巨大な竜巻を発生させる。金色姫の雷撃を跳ね返している辺り、これも結界の一種なのだろう。
だが、これはただの防壁ではない。儀式の場なのだ。
白きアフラ・マズダーを顕現させる為の。
『『「『「フュージョン!」』」』』『バフッ!』『きゃん!』
七人の英国サムライが瞬間、心を重ねて、合体のフォーメーションに入る。スプンタ・マンユに鎧を纏わせるように、他の六機が次々と変形して、一体化していく。
《アフラ・マズダーァアアアアアッ!》
それは七色に輝く、光の巨神だった。
全高は999メートル。勇者の鎧に天使の羽を生やしたような姿をしており、背中から光輪を放っている。スプンタ・マンユ以外の各機が外部装甲を構成していて、それぞれ、
・ウォフ・マナフ(カルマ)が頭部及び胸部
・アシャ(ユダ)が右肩及び右腕
・クシャスラ(カイン)が左肩及び左腕
・ハルワタート(スップリン)が右脚及び右腰部
・アールマティ(ドラコ)が左脚及び左腰部
・アムルタート(アルマ)が両翼
となっている。まさに全身が武器であり鉄壁の要塞なのである。
◆『分類及び機体名称:根源破滅天魔神=アフラ・マズダー』
◆『弱点:なし』
《フゥゥゥゥ……!》
『クォォォンフォンフォン……!』
アフラ・マズダーが見上げ、金色姫が見下ろし、両者が対峙する。
『ハッ、散々勿体付けておいてそれ? みみっちいわね』
明らかにサイズが違い過ぎる。アフラ・マズダーは充分大きいが、究極完全態の金色姫はそれ以上だ。大人と子供どころか、子犬と羆くらいの差である。金色姫が侮るのも無理はない。
しかし、世の中には木偶の棒という言葉がある。確かに大きい方が強いが、デカけりゃ強いという訳ではない。何事も見掛けで判断してはいけないのだ。
そう、こんな風に。
《小さい私は可愛いかぁ?》
『なっ……ぶぐはっ!』
一瞬にして眼前に移動したアフラ・マズダーにぶん殴られる金色姫。天を突く巨体が揺らぎ、地に墜ちた。
当然の結果だろう。どんなに魔改造しようと、金色姫は本来非戦闘要員。機織りが似合うインドアな神様に、世界を滅ぼすのがお仕事の破壊神に正面切って戦える筈がなかった。
『クォォンフォンフォン!』
《無駄無駄無駄無駄ぁっ!》
眷属の津波を起こしても、魔雷を降らせても、アフラ・マズダーには届かなかった。それ以上の爆炎や暴風雨に吹き飛ばされ、神鉄の城が全てを跳ね返す。最高神の名は伊達ではない。
《ドルァッ!》
『マホイミ!』
無言の腹パンからの裏拳を食らい、金色姫が悶絶する。人間がハムスターの一匹に蹂躙されるような物なのである。情けないし、悔しかろう。
『フ……フフフ……』
だが、金色姫――――――否、シリル・エイカーは諦めていなかった。
『かぁああああっ!』
突如、神でさえ失明するような勢いで眩い光を放つ。破壊力こそないが、これでいい。
何故ならこれは“時間稼ぎ”なのだから。
《まぶし……っつ!?》
目晦ましから回復したアフラ・マズダーが驚愕する。
『ギャギャハハハハハハッ! わたしがまともに戦うとでも思っていたか!?』
ほんの一瞬。時間にして十秒も経たない内に、金色姫は完成させた。遥か上空で、もう一つの太陽を。宇宙空間からでもはっきりと確認出来る程に巨大なそれは、彼女の全魔力を黄金の鱗粉に込めて燃やしエネルギーに変換したもので、その威力は水爆すら足元にも及ばない。
そう、金色姫はまともに戦うつもりなど、最初からないのである。甚振るのは好きでも、苦戦するのは大嫌いなのだ。
それにこれは命懸けの技でもある。何せ自分を構成する肉体の大半を使っているのだから。おかげで今やアフラ・マズダーと身長が並んでしまった。だからこその時短なのだが。
そうまでしても、金色姫は、シリルは勝ちたい。自分だけが平穏で平和に暮らす為に。今度こそ幸せになろうと、必死で足掻き続ける。
『英国諸共、消えてなくなれぇぁっ!』
そして、その執念は実を結び、今振り下ろされた。金色に輝く太陽が魔女界に迫り来る。
《「ホープ・アンド・ディザイア」!》
しかし、英国淑女は退かない。愛する者の為に立ち向かう。
《はぁあああああああああああああっ!》
右手に希望の光を、左手に絶望の闇を宿し、祈るように突撃するアフラ・マズダー。特殊能力も魔法もなく、拳一つで破滅の光に挑む姿は、まさしく勇者の王である。
『馬鹿め! お前がどんなに足掻こうが、恒星を押し返す力なんぞあるものかぁ!』
《くぅぅぅ……!》
だが、やはり恒星級のエネルギーの前では押し切れず、圧され始めた。一時的に止まった太陽が、猛烈な勢いで巻き返し、地獄を目指す。
『ワハハハハハハッ! 勝ったぁっ!』
第三部・完、とでも言い出しそうな笑顔で、勝利を確信する金色姫。
『「それはどうかな?」』
しかし、そこで誰かのそれはどうかなが発動。
《ウチの娘死なせたらぶっ飛ばすわよ!》『ならばまず行動で示せ!』
《クロウ大隊、負けるなぁ! 押し返せぇ!》《ラジャラジャーッ!》
『魔女ニ遅レヲ取ルナッ! フォースト共ニアレェ!』『イェーイ!』
《お母さん……それに天使たちまで!?》
テコナたちが乗るベクターノイド、クロウ2率いるメイド軍団に加え、ウリエルと機械天使兵団までもが太陽に組付き、サイカたちの援護に回ったのだ。誰もが満身創痍であるにも関わらず。
(そうだ……僕はもう……独りじゃない!)
そう、皆が自分の夢に変わっていく。だから、もう、何も怖くない。
《どりゃぁああああああああああああああああああああああああああああっ!》
愛する家族、大切な仲間、倒すべき宿敵の援護を受け、サイカの想いは限界を打ち破った。アフラ・マズダーの神気が七色に明滅する竜巻のような波動砲となり、黄金の太陽を押し返す。金色姫目掛けて。
『うぉっ、何ィ!? ……うごぁあああああっ! 咎人の分際でぇっ!』
避けられる速度ではなく、押し留める威力でもない。躱す事も抑える事も出来ず、金色姫は受け止めこそしたものの、全く対抗出来ずに宇宙へ送り出された。
《はぁああああああっ!》『ぬぐぁっ!?』
さらに、太陽を粉々に打ち砕いたアフラ・マズダーの聖なる鉄拳が、額のクリスタルを捉える。
『嫌だ! わたしは今度こそ、幸せになるんだぁあああああああっ!』
「……なら、いっぺん死んで来いやぁああああああああああああっ!」
シリル・エイカーは見苦しく足掻こうとしたが、皆に背中を押されたサイカのパンチを「そげぶっ!」と食らい……とうとう耐え切れず、崩壊した。
『ちくしょぉおおおおおおおおおっ!』
そして、衛星軌道上で沈黙していた謎の要塞を巻き込んで、宇宙の塵となった。
こうして、孤独を埋めようと藻掻き続けたシリル・エイカーの無意味な人生は、ようやく幕を閉じたのである。
……さて、良い子はそろそろ家に帰って寝る時間だ。
「……フゥ。帰ろっか、皆」
『うん!』「ああ」『らじゃらじゃ♪』『いえすいえーす♪』『プリンチョ♪』『きゃんきゃん♪』
サイカたちは帰る。麗しの地獄へ……。
◆◆◆◆◆◆
その夜、少女は夢を見た。
黒いヘドロに纏わり憑かれ、奈落の闇に引きずり込まれそうになった彼女を、たくさんの救い手が引き上げてくれてる、素敵な夢を。お互いに笑い合いながら、色んな世界を冒険し、楽しく過ごす毎日が続くのを。
だが、それが夢で終わる話ではない事を、少女は知っている。
「……おはよう、サイカちゃん」
ほらね。こうして母上様が起こしに来てくれる。
『ふぁ……お姉ちゃん、おはよう』『きゃるーん』『にゃー』『みゃー』『プリン』
可愛い義妹とシェオル大迷宮で出会った使い魔たちもいる。皆みんな大切な家族だ。
さらに、今日からは新しい家族が増えるのだ。
「あいつ、もういる?」
「ええ、食堂で待ってるわ」
そして、テコナを先頭に皆がドラ○エのように付いていく。エウリノーム家の新メンバーに。
「おはようございます、サイカお嬢様」「おはようございます」「ちわっす! ……いて」
食堂に入ると、アンタレスさんとメイドたちが奇麗に整列して待っていた。その先にいる“彼”が、新しい家族である。
「……いい朝だな、サイカ」
「そうね。さっさと御飯にしましょ?」
本日吉日今日この日、エウリノーム家に新たな長男――――――カイン・アルベルトが加わった。こんなに嬉しい事はない。
第一章・完
◆アフラ・マズダー
ゾロアスター教の最高神にして究極の破壊兵器。善神スプンタ・マンユと悪神アンラ・マンユの戦いの最後に現れ、全てをリセットする役割を持つ。インド神話のアスラ神族の最高神ヴァルナと同一視される事もある。




