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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
28/52

ホントの最終決戦!

『お姉ちゃ~ん!』

「おーよしよし、怖かったねぇ~」


 十三日の金曜日にゴミを処理し終えたサイカが、ヨロヨロと縋ってくるユダを優しく抱き止め、頭をなでなでした。薬の効果で大人びているので、今ならこうして心身共にお姉さんをしていられる。可愛い可愛い♪


「ほら、とびっきりの回復薬よ。はい、ア~ン♪」

『ア=ン♪』


 更には、回復薬を使っての赤ちゃんプレイ。見た目はどちらも美女だが、どうしようもなくバブみを感じる。ままごとか。

 紅茶の決まった紳士淑女なら、この光景を脳内変換出来るはずだ。

 そう、彼女たちの実年齢はまだ四歳以下。見た目は大人だけど、頭脳は子供なのである。

 さぁ、開くのだ、紳士諸君。英国面の扉を……!


「いや、あの、オレも回復してもらえませんか? 心に穴が開いてるんですけど……」

「『そのまま虚化してればいいじゃん』」

「フォローになってねぇよ! マジで風穴開いてるんだから、塞げって言ってるの!」


 仮面の軍勢へようこそ! 職業にライダーを添えて……。


『まだ終わってねぇぞ』


 と、どこからともなくマモンがひょっこり天空島した。


「あれ、マモン様いたの?」

『それが命の恩人に対する態度か。大地に代わってお仕置きすんぞ』

「いやぁ、でも半分はカインの手柄だから……」

『なら、さっさとパテ埋めしてやれよ。可哀そうだろ』

「はいはい。……ハァ~イ、お服脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~♪」

「おい、塞ぐだけなら傷口に回復薬を流せばいいだけ……あ、いや、ちょ、やめ……アッー!」


 必要不可欠な行為(意味深)をしつつ、サイカがカインの傷を癒す。もうお嫁にいけない。


『……って、違う違う! そうじゃなくて、戦いはまだこれからだってんだよ!』

「そんな打ち切りエンドみたいな……」

『じゃあ、あれ見ろ、あれ』


 言われた通り、マモンの指差す先を見てみると、


『「「なぁにあれぇ?」」』


 焼野原広しなディーテシティのど真ん中で、世にも奇妙なストーリーが展開されていた。

 集まる無数の光。煤けた大地を舐めるように蠢く無数の影。それらがたった一ヶ所を目指して移動している。まるで呼び寄せられるように。

 さらに、天空をガラスのように叩き割り、きんのたま――――――金霊が現れ、異常事態の中心部へゆっくりと降下しながら、光と影を吸い上げていく。

 そして、全てを吸収した金霊が花開くように変形し、巨大な何かに変わった。


『フゥゥゥゥ……』


 それは、小柄な女性を思わせる、黄金の蝶人だった。

 肌は金で、髪は銀。瞳は真紅の複眼。頭に鬼のような角と一体化した櫛を思わせる触覚が生え、額には赤紫色のクリスタルが輝いている。耳も鼻もあるが、口だけはない。手首に足首、胸と股間、首周りにフサフサでモコモコの羽毛が生え揃い、背中にオオミズアオによく似た巨大な翅が展開していた。

 どこか夜雀と似ているが、色合いは正反対で、身長は数千メートルにも及ぶ、とんでもない超怪獣が、そこにいた。

 さらに、額のクリスタルに人間に戻った蟲毒の女王が宿り、


『わたしは絶対に死なぬぁあああああああああああぅいっ!』


 金色の姫君(モンスロード)Xが、魔女界に爆誕した。


◆『分類及び種族名称:鬼界蛾(きかいが)超獣=夜雀』

◆『弱点――――――不明……不明……ふME伊……、


                 Unknown……Unknown……Unknown……!


 【原点回帰】が確認されました。ダウンロードを開始します。


 New Loading……New Loading……New Loading……!


 回帰が完了しました。誕生日おめでとう(ハッピーバースデイ)


           and――――――YOU・ARE・DEAD・END!


◆『分類及び種族名称:異次元蝶人=金色姫』

◆『弱点:不明』


「……なるほど、これがシリル・エイカーの切り札だったって訳ね」


 おそらく、蠢いていた影は蟲妖怪の生き残りで、光は殲滅された奴らの魂だろう。それらと成長させておいた金霊を融合させ、夜雀と同調したシリルと折り重なりリンクを形成、完全な【原点回帰】を果たした金色姫を召喚する。そんな所か。

 本来なら蟲妖怪たちは生きたままで、ディーテシティ全体を贄に召喚される予定だったのだろうから完璧ではないようだが、それでも充分な脅威である事に変わりない。

 何せ【原点回帰】とは神へ還るスキル。今の奴はまさしく神そのものなのだから。

 そんな神還りを果たした金色姫と、その額に宿るシリル・エイカーを見た、サイカたちテセウス船上メンバーは、


「うわっ、まだ生きてやがるよ。ゴキブリ以上の生命力だな」

『蠅より鬱陶しい』

「蚊より耳障りな声だな」

『きゃるんきゃるん』『カメムシより性根が腐ってるって言ってるよ、お姉ちゃん』

『どんなに金ぴかに着飾っても、所詮蛾は蛾だよねー』


 思いっきり罵倒した。眼下や天上の面々にも罵詈雑言の嵐が吹き荒れている模様。

 凄い言われようだ。一体シリルが何をしたというのか……(※ディーテシティを壊滅させました)。


 あ、じゃあ死んでいいや。


『お前ら皆、消し飛ばしてやる!』


 金色姫の額のクリスタルが眩く輝く。翅から光が集まり、そこに集約されているようである。


《全機、撤退!》

『各機離脱セヨ! 今スグニダ!』

『にっげろ、にっげろ!』『きゃわー!』『スップリーン!』

「楽しそうだね、君ら」


 ヤバい物を感じ取ったのか、敵も味方も関係なく、蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。


『わたしの前から失せろ、虫けら共がぁっ!』


 そして、クリスタルに集約されたエネルギーが遂に解放され、滅びを呼ぶ疾風炸裂弾(バーストストリーム)となって裂空し、ディーテシティ全土を飲み込む。


「うーわー」


 光が晴れた時、そこは溶岩地帯となっていた。ディーテシティは地盤ごと蒸発したのだ。ウリエルでさえ一区画ずつしか破壊出来なかったというのに。

 その中心で、金色姫が浮遊している。灼熱の赤と夜空の月光に挟まれた彼女の姿は神秘的で、同時に禍々しかった。

 これが神の力。【原点回帰】を果たした、あの世の究極生命体――――――究極完全態グレート・マザー・モスの誕生である。


《ウリエル、取引しない?》


 その力を目の当たりにしたテコナが、隣を飛ぶウリエルに取引を持ち掛ける。


『……何の話だ?』

《アタシたちに協力して。それから、奴を倒したら大人しく帰って欲しいの》

『ハッ……!』


 ウリエルは思わずない鼻で嗤ってしまった。

 恐ろしく手前勝手で、横暴な要求。それでよくも取引などと宣えたものだ。

 だが、次にテコナが発した言葉が、ウリエルの心を動かした。


《……今から「アフラ・マズダー」を呼ぶわ。アタシの本気よ。おそらく“次”もあるだろうし、その時は全力で戦ってあげる》

『フフフフ、ハハハハハハハハハッ!』


 今度は嗤うのではなく、笑った。心の底から。

 なるほどなるほど、それは確かに素晴らしいメリットである。少なくともウリエルにとっては。


『いいだろう。さっさと呼ぶがいい』

《取引成立ね~♪ それじゃさっそく――――――》


 と、その時。テコナのバーチャフォン(※立体投影型携帯電話。腕輪やイヤリング、ヘッドギアなど形は様々)に着信が入った。取るまでもなく強制的に受信状態にされ、十人の小さな影が彼女の手首の辺りで立体映像(ソリッドビジョン)化された。


《そうはいかないぞ、テコナ・エウリノーム!》《アフラ・マズダーの使用など、絶対に許可しない!》《そうだそうだ! ただでさえ蟲毒の魔女のせいで恥をかいてるのに、それを上塗りするつもりか!》《お前はあくまでこちら側の人間だ、それを忘れるな!》《左様!》《それでなくとも、アフラ・マズダーは破壊神!》《これ以上破壊神を顕現させるなど、あの世のシステムが崩壊しかねない!》《山本五郎左衛門の件、忘れたとは言わせんぞ!》《貴様は好き勝手にやり過ぎなのだ!》《従え、地獄の十王に!》


 十人の小人――――――日本のあの世における地獄の十王たちが口々に喚いているが、テコナはそれを鼻で嗤い飛ばした。


「あんたらの許可はもう必要ない。パイロットはもうアタシじゃないからね」

《ニャニィ!?》

「登録名はサイカ・エウリノーム。ベクターノイドを召喚する際に、ちょこっと弄らせてもらったよ。これで“アタシが発進させるには元所属地である十王たちの許可がいる”という制約に縛られる事はなくなった訳だ。まぁ、次は七大魔王と正式に契約しなくちゃいけないけどね」

《き、きそま~!》《我々の兵器を持ち逃げするなど……!》

「アフラ・マズダーは元々スプンタ・マンユとアンラ・マンユの合作物だ。お前らの物じゃない。そもそも、アタシをいつまでも縛っておけると思うのが間違いだ」

《ふざけんな、返せ、このアバズレ!》

「お黙りニート。穀潰しに価値なんかないんだよ。少しは七大魔王を見習え。じゃあね~♪」


 ゴチャゴチャ煩い連中に手を振りつつ、テコナはバーチャフォンを破壊した。登録データのバックアップは別にあるので、一台くらい壊れたところで痛くも痒くもない。

 むしろ、これで故郷と完全に決別出来て清々したくらいだ。


『何か問題でも?』

《いや、五月蠅い虫を叩き潰しただけよ。それより、時間稼ぎをしてちょうだい。あの子にあれを送り届けるには、少し手間が掛かるから》

『分かった。約束、忘れるなよ』

《もちろん》


 テコナの返事に満足したのか、ウリエルは指揮官と共に金色姫へ向かっていく。


「……さぁ、始めましょうか。ホントの最終決戦を」


 破壊の魔女が、ニチャリと笑った。


 ◆◆◆◆◆◆


『突撃! 金色姫ヲ撃滅セヨ!』

《フォーメーションΣ! 全機、一斉に撃て!》


 機械天使の指揮官が叫び、ミカーラが咆哮する。標的は他の誰でもない共通の敵、金色姫のみ。発射された光弾や火球にミサイルが次々と殺到し、黄金の蝶人を直撃する。


『小賢しいぃっ!』


 しかし、まるで意味がなかった。防御力云々以前に質量が違い過ぎた。数千メートル単位の身体に魔法攻撃など、マシュマロをぶつけているようなものである。

 さらに、鬱陶しい攻撃に嫌気が差したのか、無数の雷を発生させ、飛び交う魔女や天使を焼き滅ぼしていく。その威力はシリル単体の時を遥かに上回っており、当たった者は消し炭どころか塵さえ残らず、一瞬にしてプラズマ化して光に還った。


『怯ムナ! 攻メ続ケロ!》

『シカシ、コチラノ攻撃ハ一切通ジテオリマセン!』

『我ラニハウリエル様ガ付イテイル! ドチラニセヨ、アンナ化ケ物ヲ野放シニハ出来ン! コレハあノ世ノ存亡ヲ懸ケタ聖戦ナノダ! ダカラ、戦エ! 我ラ、フォースノ名ノ下ニ!』


 だが、指揮官は下がらない。


《こちらクロウ13! クロウ2、被害は甚大です! バックアップは取ってありますが、このままでは……》

《テコナ様も戦っているのだ! それに、考えがあるらしい。なら、我らは勤めを果たすまで!》

《ラージャラージャ! ご武運を!》


 ミカーラも下がらない。上司が命懸けで戦っているのに、退く訳にはいかないのだ。

 何より彼女らは信じている。ウリエルを、テコナを。彼らなら何かしら打開策を思いつく、あるいは実行していると。

 その為の時間稼ぎというなら、喜んで殉じよう。それが兵士の(メイドの)役目である。


《ベクターショット!》『ピポポポポポポポポポ!』

《クロウ2、FOX1!》『撃テ撃テ、撃チマクレェ!』


 皆は誰かの為に。誰かは皆の為に。己の信念と大切な者の為に、彼らは戦う。戦い続ける。必ず勝てると信じて。


「うぬぬぬぬぬ……!」


 そんな空中大決戦を、サイカは歯噛みしながら見つめていた。他の者も同様だ。

 戦いのスケールが違い過ぎるし、こちらはサイカ以外ほぼ満身創痍である。今から飛び込んだところで焼け石に水にしかならない。犬死は確実だ。


「くっそー、何とかならないの、三沢!」

『誰が三沢だこのヤロウ。あと様を付けろデコ助』

「付けてほしかったら何とかして」

『無茶言うなよ。分体じゃ出来る事は限られてる。というか、ほぼ何も出来ん。七大魔王はそう出しゃばっちゃいかんのだよ』

「はーつっかぇ」

『契約無効にされたいのかお前は』


 マモンに八つ当たりしてみても、どうにもならないものはどうにもならなかった。七大魔王と殆ど同格の力を持つウリエルが苦戦してる時点で、マモン本体にも手の打ちようがないだろうが。

 嗚呼、せめて自分も(・・・)同じ土俵に(・・・・・)立てれば(・・・・)……。


《立てるわよ》

「えっ、お母さん?」


 すると、テコナからメッセージが。


《“これ”を使いなさい。ちょっと遅れたけど、アタシとアンタレスからの誕生日プレゼントよ》


 同時にサイカの脳内に、魂に、映像と情報が送られる。

 なるほど、こいつは素敵だ。全部台無しにしてやれる。最高の誕生日プレゼントをありがとう。


『お姉ちゃん?』


 今まで指を咥えて見ているしかなかったサイカが一歩前に出た事を疑問に思い、ユダが問い掛ける。


「ちょっと害虫退治に行ってくるわ」


 そんな彼女に、サイカはウインクとサムズアップで応えた。もうそれだけで充分だった。


『……ちゃんと手洗いして帰って来てね?』

「ああ、汚物はきっちり消毒するよ」


 そして、可愛い義妹や仲間たち(あとマモン)の見送りを背に、サイカは【緊急発進スクランブル・ユニオン】で戦場に躍り出て、叫ぶ。


「【決戦融合ファイナル・フュージョン】承認!」

◆金色姫(鳴き声:奈良県の南明日香村に封印されていた邪神)


 インド出身の養蚕の神。元々は見た目が美しいだけの人間だったが、嫉妬した継母の度重なる嫌がらせが試練となり魂が神聖化し、極東(つまり日本)への島流しを引き金に覚醒。日本でも色々あった後に死亡するも輪廻転生を果たし、蚕を従える神へと昇華した。人間として生きていた頃は何一つ良い事がなかった、可哀そう奴である。

 蝶人、蛾妖怪の原点回帰種の一柱。全身が金色に輝く美しい姿をしており、命を絹糸に変えて吸収する能力を持つ。また、その糸で紡がれた繭に取り込まれた者は眷属に書き換えられてしまう。

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