最終決戦!
『ガガギギガガ……!』
「でぇああああああ!」
クロウ2:ミカーラ・シェリダンが、擦れ違い様に機械天使を魔法剣で切り裂く。天使の武器は魔法剣と切り結べる数少ない物理兵器だが、本体は光刃の前では紙同然であり、一瞬で焼き切られてしまう。
「全機、「白兵戦形態」!」
《ラージャラージャ!》
さらに、混戦が極まり高機動戦があまり意味を為さなくなってきた所で、乗っていた箒をスケボーや円盤のような形に変形、ホバリング機能を向上させた状態となった。
『我ラ、フォースノ名ノ下ニ!』
『『『ォォオオオオオオ!』』』
機械天使たちも高機動戦を止め、何故か神剣ではなく聖槍による白兵戦で応戦する。使徒をも滅ぼす聖なる槍と何でも切れちゃう魔法の剣が火花を散らせ、一瞬の隙を突いて相手を一撃で仕留めていく。最強の武器は一瞬でケリが付くのだ。
もっとも、テコナの配下たる魔女っ子メイドたちは、そう易々と落とされたりはせず、逆に一人が三機ぐらいの割合で落とすぐらいに押しているのだが。
『押サエロ! コレ以上進攻ヲ許スナ!』
そんな空の様子に内心毒吐きつつ、機械天使兵団の指揮官が叫ぶ。
こちらもまた押されている。PD部隊だけでなく、ゴーレム騎兵団までもがシャインでスパークな特攻をかましてくるようになった上に、ネフィリム巨神兵団が次から次へと投入されてくる為、物理的に圧殺され始めたのである。隠密機動天使による事前爆破も、ファランクス兵団による面攻撃も大して効果が出ていない。
おかしい。さっきまでは拮抗していた筈なのに。
まるで、向こうが強くなったというより、こちら側が弱まっているような……?
(マサカ……!)
指揮官は虚空を見上げた。
◆◆◆◆◆◆
『………………』
その虚空の中で、ウリエルは黒い血反吐をぶち撒けていた。身体中傷だらけで、あちこちがショートしている。サイボーグ天使としての寿命が近付きつつあるのだ。
予想通り、彼はベクターノイドに押し負けつつあった。変形合体を繰り返す上に攻撃パターンが各形態でまるで違う為、戦闘用マニュピレーター対応が遅れ、結果追い付く前に限界を迎えてしまったのである。
だが、ウリエルは戦の信奉者。戦いの中に生を見出し、死を救いとする戦闘狂。故に降伏も撤退もしない。敵を滅ぼすか、自分が滅ぶまで戦い続ける。
殺す者は殺される覚悟を持たねばならず、誰かを討ち滅ぼしに来た者は誰かに討ち滅ぼされねばならない。それがウリエルの考え方だ。
だから、死ぬと分かっている負け戦でも、全力で挑むのである。
『ヴォオオオァアアッ!』
《チェンジ・バルタザール!》
全身を燃え上がらせながら突進してくるウリエルを、元の暗黒騎士然とした形態――――――バルタザールに戻ったベクターノイドが、二振りのクレイモルゴスを番え、応じる。
ウリエルは天使の輪を新体操の如く華麗に振り回し、バルタザールは荒々しい乱暴な剣捌きで真っ向から受けて立つ。当たる度に原子力級の爆発が起き、火花だけで空間にヒビが入った。一発でも直撃すれば、お互いに一巻の終わりだろう。
『ワハハハハハハッ!』
それが堪らなく楽しかった。ウリエルは今この時、タルタロスの支配者ではなく、無邪気な子供のように殺し合いを楽しんでいた。
いつまでもこの時間が続けばいいのに。彼は心の底から、そう思っていたのだ。
しかし、どんな戦いにも必ず終わりは来る。起きて眠り、生まれて死ぬように。
しかも、それはかなり唐突かつ意外な形で訪れた。
「ヤッダーバァアァァァアアアアッ!」
《《《『ゑ?』》》》
蓄積されたダメージによる維持の限界と、単純に戦いの余波に耐え切れなくなった亜空間を叩き割るように、燃えるゴミが突っ込んできたのである。
◆◆◆◆◆◆
全ては数分前の出来事。
『たぁあああっ!』「ドルァアアアッ!」
『グァヴォォオオオオオオオオオオッ!』
テセウスの賭場会場では、まさに命を懸けた死闘が繰り広げられていた。
烈火の神炎を剣と鎧に纏わせたユダ。
圧縮され過ぎた魔力を剣に宿すカイン。
夜雀のみどりと合体し異形と化したシリル。
それぞれが己の強みを全開にした形態で切り結んでいる。戦いの余波で天蓋はとうに消え失せ、戦火の空が丸見えになっていた。
『てやっ!』「でぇい!」
ユダとカインがアクロバティックに動きながら、一撃離脱を念頭にシリルへ切り掛かる。ダブルイレイザーと魔法剣を同時に二本ずつ操る今のシリルに鍔迫り合いを挑むのは無謀の極みだ。必然的にヒット&アウェイで隙を伺いつつ削っていくしかない。
『舐めるなぁああああっ!』
だが、そんな悠長な攻めを許す程シリルは甘くなく、夜雀から受け継いだ鱗粉攻撃と己が得意とする【波紋降雷砲】を組み合わせ、雷撃が縦横無尽に疾走する結界を作り出し、二人の攻めと逃げ道を無くす。
『死ねよやぁっ!』
「うぉっ!?」
そして、二人が別々に吹っ飛ばされたのを見計らって一気に攻める――――――カインを。一本しかない魔法剣を必死に振るう彼を、シリルは大人気の欠片もなく六本腕をフルに使い、一気に壁際……つまり、一押しすれば真っ逆さまに落ちる奈落への境界線まで追い詰める。その鬼気迫る怒涛の連打からは、可愛いみどりを達磨にされた恨みつらみが滲み出ていた。
「うぁっ!?」
前にばかり集中していたせいで、カインは踏ん張る暇すらなく、足を踏み外した。
しかし、咄嗟に伸ばした手が縁を掴み、どうにか転落だけは免れた。“犬の散歩”でも叩き落せされるくらいにピンチである事に変わりはないが。
ちなみに、ドラコはカインがバランスを崩した際に放り投げられてしまった。
『落ちろ羽虫がぁ!』
シリルが遠慮容赦なく魔法剣を振り上げる。ここまでか……。
『くぁあああああああっ!』
『グルヴォッ!?』
だが、そこへ立ち直ったユダがかっとビング。シリルのダブルイレイザーと魔法剣の迎撃を暗黒剣で受け止め、
『くたばりゃあああっ!?』
『オープンゲ○ト!』
『何ィッ!?』
更なるもう一振りのダブルイレイザーの横薙ぎを、上半身だけを器用に分離・回転させる事で回避。
『【神炎宇龍亜砲】!』
さらに、一瞬の動揺を突くように、鎧の胸部にある口から蒼い炎を噴射。これはただの火炎放射ではなく、神聖な炎を神通力で圧縮したもので、邪悪な者(※シリル・エイカーの事。人間のクズを指す)に対して効果が抜群になる。そのビジョンは宇宙龍の形をした神炎であり、神人と妖精のハイブリットらしい技である。
『何なんだぁ、今のはぁ~?』
『なっ……!』
しかし、何故かシリルには効果がないみたいだ……。
理由は単純、出力不足である。夜雀の妖力でブーストが掛かったシリルの魔力障壁を貫通するには、ユダの神通力では圧倒的に力不足だった。迅雷の鎧を、神炎の槍で貫ける筈がなかった。世界最後の日を生き延びた魔女の力は伊達ではないのだ。
『オラオラオラオラァッ!』
『がっ……!』
魔法剣すら使わない六本腕の連打で、ユダはあっという間に瀕死に追い込まれた。
『お前もだぁ!』
「ぐがっ!?」
カインの方も尻尾で心臓を串刺しにされ、致命傷を負う。
ほんの僅かな隙が、戦局を左右する。いつの時代も、どんな状況でも変わる事のない、絶対的な戦場のルールである。
そして、二人はその法則に従い、死の未来が確定した。
そもそも、甲羅を経た魔女を相手に、訓練を始めたばかりの新米やド素人の凡骨が勝てる道理などない。戦闘経験の差は埋めようがなく、潜ってきた修羅場の数はステータスなのである。
『手古摺らせやがって……』
死体同然となったカインを乱暴に放り投げ、痙攣するだけのユダにブチ当て、動かなくなった二人を忌々しそうに見下すシリル。その悍ましい複眼には、「今からお前らを虐殺する」という強い意志が籠っていた。
『終わりだっ!』
「お前がなぁ!」
だが、シリルの凶刃が二人に届く事はなかった。
「オルァッ!」
『どぺぇっ!?』
神の拳――――――【天界蹂躙拳】が、ドヤ顔でイキっていたシリルの顔面を捉えたからだ。光り輝くグーパンチがヒットと同時に轟き叫び、彼女を修復不可能なまでに爆砕した。冗談抜きで爆発した、光子力級に。
『あ……あぁ……!』
その輝きを、ユダは知っている。これまで何度も見てきた。実際に食らった時もあった。間違いない。これはまさしく……、
『お姉ちゃん!』
「お待たせ、ユダ。よく頑張ったわね」
神拳使いにして破壊の権化、サイカ・エウリノームだった。それも赤玉を二つ使用した、二十代の美女である。
「ドラコ、カインを!」
『きゃるーん!』
サイカはユダに労いと回復魔法を掛けつつ、ドラコにカインを託す。傷口から染み込んだドラコが心臓の代役を務め、死の淵に沈み行くカインの命を見事に救った。
つまり、ハッピーエンド確定だ。後はこれをトゥルーエンドまで持っていくだけ。
目の前の害虫を叩き潰すだけの、簡単なお仕事である。
『き、貴様、一体どうやってぇっ!?』
人間と異形が入り混じった、中途半端かつゾンビのような姿となったシリルが、信じられないと言った形相で叫ぶ。たった一発だが、必殺の一撃になったらしい。
「マモンとカインが半時で仕上げてくれました」
『何だと……!?』
「ついでにマモンとの契約も済んだ。ようするに、私を縛る物はもう何もないって事さね」
そう、サイカは救われた。
テコナがシリルの目を逸らせ、ユダがシリルを引き止め、その間にカインとマモンがシリルの網を破ってくれたかげで、こうして生き永らえる事が出来た。アンタレスやマンティコア兄妹とスップリン、メイド軍団がいたから、テセウスは墜落せずに済んだ。
何より、ユダと仕上げをマモンに任せて駆け付けたカインの命を懸けた時間稼ぎがあったからこそ、魂の帰る肉体が健在したのである。
全ては皆のおかげ。愛すべき家族と大切な仲間たちのおかげだ。サイカにあって、シリルにはないものである。
さらに、マモンとの契約が完了した事でサイカは正式に魔女の仲間入りを果たし、咎人の呪いが解けただけでなく逆にそれを取り込み、力を増した。悪魔の加護と彼女自身の才能が成せる業だ。
咎人の呪いは他人を不幸にする怨念の塊――――――人間の闇そのもの。闇に抗い目を背けるのではなく、受け入れる事で糧とする。闇が怖いなら、恐怖そのものになってしまえばいい。これぞ真なる魔女の力……英国面の力である。
破壊の魔女と極東の英雄の血を継いだサラブレットが弱い筈もなく、悪魔の加護まで付いた彼女が強くない理由もなかった。
『この……クソ虫共がぁあああああっ!』
怒り狂ったシリルがサイカに襲い掛かる。
しかし、それは自棄パチの悪手でしかなかった。【天界蹂躙拳】の余波で魔法剣もダブルイレイザーも蒸発し、身体にもガタが来ている。そんな状態で色々と解放されたサイカに挑むなど、自殺と大差なかった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオッ!」
『ぐわばぁあああああっ!』
今までの鬱憤を晴らすかの如く、サイカの【天界蹂躙拳】によるオラオララッシュがシリルを襲う。一発ごとに小規模な核爆発が起き、放射能という呪いを彼女の肉体に刻んでいく。
『ぬぅがああああああっ!』
シリルも必死に抵抗するが、まるで効果がない。そりゃそうだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄WRYYYYYYッ!」
『ぐげぁああああああっ!』
むしろ、ただ怒らせただけであり、【天界蹂躙神拳】の無駄無駄ラッシュで戦闘不能に追い込まれるだけに終わった。
だが、こんな物ではサイカの怒りは治まらない。
こいつはユダを傷付けた。カインも殺そうとした。
何よりカニより、自分の出番を奪い、平穏なスローライフを送る筈だった第二の人生を滅茶苦茶にし、安眠の妨げとなった。
今夜も安心して熟睡する為に、負けて死ねッ!
『や、やめ……』
「やめない! 天・地・開・闢……ズリャアアアアアアアアアアアッ!」「【爆裂魔法】!」「【獄炎乱舞】!」
『ヤッダーバァァァアアアアアアアアッ!』
そして、サイカとどうにか復活したユダ&カインの必殺技――――――【混沌の終焉】【爆裂魔法】【獄炎乱舞】による駄目押しで処刑されたシリルは、夜空に輝く燃えるゴミになったのだった。
◆悪魔との契約
魔女が魔女足り得る唯一にして最低限度の条件。これなくしては、咎人の呪いから逃れる事は出来ない。基本的に充分な年齢に達し、経験と実績を積んでから結ぶものだが、何事にも例外はある。テコナとか、サイカとか、シリルとか。
ちなみに、地獄の法則から逃れるだけなら七大魔王と直接契約しなくとも、同格以上の存在と契約していれば可能ではある。
いずれにしろ、魔女という存在には必ず黒幕が付いている、という事である。




