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魔王少女サイカの英国武士道記  作者: 三河 悟
Episode.1:The Phantom Maze
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ご注文は契約ですか?

《フォーメンションΛ! PD隊に後れを取るな! 機械天使兵団のファランクスを突き崩せ!》

《了解! クロウ3、FOX3!》《クロウ9、FOX3!》


 カーミラから指揮権を引き継いだクロウ2:ミカーラが攻撃を指示し、各メイドが魔法の杖からプラズマ化した火球やレーザーを放つ。

 この世界における“FOX”は現世のそれと違い「狐火ウィル・オ・ザ・ウィスプ」の隠語であり、航空魔導隊による火力攻撃(つまり火属性や光属性の魔法攻撃)を意味している。FOX1が対艦(もしくは空中要塞)攻撃、FOX2が対空攻撃、FOX3が対地攻撃を示す。この場合は地表のファランクス隊を攻撃しているので、FOX3だ。


『グギッ!』『ギギャァ!』


 PD戦車隊が先行して自爆し、結界強度が落ちているファランクス隊に魔女の大火力を防ぐ手立てはなく、次々と撃破されていく。

 しかし、機械天使も好き勝手され続ける程惰弱ではない。すぐに高機動天使が増援として投入され、魔女っ子メイドたちを迎え撃つ。


《各機散開! あの破廉恥なカトンボ共を叩き落せ!》《ラジャラジャ!》《クロウ20、FOX2!》

『誰ガ破廉恥ダァ!』『コノ糞ビッチドモガァ!』『ヤッチマイナー!』


 PD航空隊も交えた激しい空中戦が展開される。魔女が魔法を撃ち、機械天使がビームして、飛べるパンジャンたちが色々と巻き込みながら自爆する。

 とんでもない混戦状態だが、意外な事にフレンドリーファイヤーはあまり発生していなかった。パンジャンたちのAIが優れているのもあるが、敵味方双方が相当に手練れているからであろう。この程度で自滅するような奴は、そもそも生き残れない。


隠密機動天使(アズラエル)兵団、発進! ドラム缶ドモヲ転ガシテヤレ!』

『………………!』


 それは地表戦力も同じ事。指揮官の命令により、馬無しの巨大な戦車(チャリオット)が発進。

 さらに、上部装甲版が展開したかと思うと、中から両腕が鎌になった如何にも忍者っぽい天使がポリプ状態でニョキニョキと生え、空中で続々と分離・拡散して、PD戦車隊に攻撃を仕掛け始めた。

 彼らは死の天使アズラエル。飛び道具こそ殆ど持ち合わせていないものの機動力に長け、ヒット&アウェイの戦法で敵の命を刈り取っていく暗殺者である。

 当然、小回りの利かないパンジャンたちは為す術がなく、次々と脇を刺されて爆発していく。自爆に巻き込もうにも敵が速過ぎて、捉える前に逃げられてしまう。こうなると装甲の硬さはあまり意味をなさない。

 そんな厄介者を乗せた死の直送便がどんどん追加されるので、戦線が少しずつ相手に押され始めた。このままでは防衛ラインを突破される。


『ネフィリムきょしんへいだん、でばなをつぶせ!』『ボッコボコニシテヤンヨー!』

『ギリッ!』『ギィリリリッ!』


 だが、機動力が意味を為さないネフィリム巨神兵団の重過ぎる物理攻撃が隠密機動天使を襲う。ある者は生え際を殴り飛ばされ、別の者は戦車ごとひっくり返された。反撃を試みようにも相手がデカ過ぎる。

 結果、地表戦線は再び膠着状態になった。

 いや、むしろ更に混沌とし始めた。空中と違い逃げ場がない地上では同士討ちも容易に起こる上に戦っているのが全員機械なので、どちらも遠慮容赦なく自爆に特攻、道連れで出血を強いている。


『ヴォォォッ!』『キシャアアッ!』


 ゴーレムの竜騎兵が機械天使を一体討ち取った次の瞬間には別の天使たちの餌食となり、そこへスパイダージャンのネットが降り注いで、動けない彼らをギガントマキュラが轢殺して、ファランクスへ到達する前に隠密機動天使に切腹されて大爆発、周囲の敵味方を纏めて焼き尽くした。

 ファランクスに押された竜騎兵団が次々と串刺しにされ、前進し過ぎた所をネフィリムの戦車投げでストライクになり、ダニのように纏わりついた隠密機動天使にとうとう殺られた別のネフィリムが全てを巻き込み昏倒する。

 もはや誰が誰を相手にしているのか分からなくなってきた。隙を見て航空戦力も積極的に地表を攻撃してくるので、更に訳が分からない。

 しかし、そんな大乱闘も所詮は時間稼ぎにしか過ぎない。


 全ては、時空の彼方で繰り広げられる頂上決戦の結果次第なのだ。


 ◆◆◆◆◆◆


 そして、ここは時空の狭間。

 本気を出したウリエルにより形成された、戦いの為の亜空間。

 ここには何もない。誰も入れないし、出る事も出来ない。戦いに勝利した栄えある勇者以外は。まさに決戦のバトルフィールドである。


『咎人よ……何故藻掻き、生きるのか? 滅びこそ我が喜び。死に逝く者こそ美しい。さぁ……我が腕の中で息絶えるがいい!』


 紫炎を纏った天使の輪を忙しく回しながら、破壊天使(ウリエル)が威厳たっぷりに挑発する。まるで始まりの国を支配する大魔王のようだ。

 まぁ、灼熱地獄(タルタロス)の支配者なので、あながち間違いでもないが……。


《ほざけ、天界の狂犬が。あんたに抱かれるくらいなら、アンタレス一晩寝た方がマシよ!》

《それは褒めてるんですか、貶してるんですか?》

《私はどちらでもOKです!》

《《そう言う話はしてないない》》


 テコナたちも軽口で返しつつ、応戦の構えを取る。その手には「クレイモルゴス」という巨大な剣が握られていた。


《行くぞ、「ベクターショット」!》


 だが、出すのはビームである。額のクリスタルから強烈な破壊光線が放たれた。


『ピポポポポポポ……』


 しかし、前方に移動した天使の輪がウリエルの盾となり、そればかりかビームを全て吸収してしまった。


『ヴォァアアアアッ!』


 さらに、吸い取ったエネルギーを神炎に変換、凄まじい爆炎として打ち返した。


《「ラムダ・ブライク」!》


 だが、直撃する前にベクターノイドが元の戦闘機に変形・分離して回避。


《チェンジ・カスパール!》


 移動しつつ再合体。さっきとは別の形態に変化した。

 戦乙女(ヴァルキリー)をサイバー化したような姿をしており、純白の装甲と美しい翼が特徴。主兵装は螺旋力を持ったランス「ストレイト・クロス」とビット化するスカート「ヴァルキリー・スカート」。


《「ストレイト・クロス」!》


 さっそくストレイト・クロスをドリルのように回転させながら突っ込むベクターカスパール。この形態はスピードに特化しており、火力や馬力は低いが距離を詰めるには一番のタイプチェンジだ。

 現にウリエルの火球攻撃をマッハでスペシャルな動きで躱し、質量を持ったビジョンを伴って四方八方からの同時突貫を敢行している。


『ピピポポポポポ!』


 しかし、戦闘狂にして前線指揮官たるウリエルの格闘能力は伊達ではなく、迫り来る牙突を新体操ばりの輪捌きで難なく受け流し、逆に目からビームで反撃した。


《ラムダ・ブレイク!》

《チェンジ・メルキオール!》


 対するベクターノイドはまたしても分離と再構成で躱し、今度は超能力重視のベクターメルキオールへ変形する。

 魔法使いをロボット化させたような外見をしており、背中にサテ○イトキャノンを放てそうな八枚の翅を持ち、身体中に魔力石が散りばめられている。何とも豪奢で成金な容姿である。

 この形態は魔法攻撃による遠距離戦を主体としているが、三形態中最も馬鹿力を持っているので、ごり押しと力尽くに特化したタイプチェンジだ。魔法で殴って物理でも殴る脳筋である。


《「オメガ・ストリーム」!》


 メルキオールが手持つ魔法の杖から凶悪な風魔法を放つ。この竜巻は強酸性で触れる物全てを溶かしてしまう恐ろしい技だ。生物が食らってしまったらモザイクなしには見られない。

 しかも、風速そのものも相当なもので、溶かされこそしなかったものの、ウリエルも耐え切れず吹っ飛ばされた。


《「アルファ・タイフーン」!》


 そして、止めと言わんばかりに、スーパーセル級の魔力を宿した台風をぶつけた。風そのものが鋭利な刃であり、直撃すれば大抵の物は粉微塵になる。


『ヴォァアアアアアアォォッ!』


 だが、ウリエルは自らを中心に大爆発を起こし、迫り来る天災をかき消した。相応のエネルギーを使う技だがやらざるを得ない。

 おそらく、このまま戦い続ければ、回避手段の少ないウリエルの方が不利だろう。

 しかし、そんな将来の危機を察してなお、ウリエルは楽しげだった。

 彼は破壊と殺戮の天使。命のやり取りは愉悦でしかない。殺し合いの中にこそ生を見出す戦闘狂である。


 そう、ウリエルはこの日が来るのを待っていたのだ。


『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

《《笑ってんじゃねぇ、気持ち悪い!》》《酷い言い草!》


 頂上決戦は終わらない。楽しい殺し合いはまだまだ続く。


 ◆◆◆◆◆◆


「………………」


 どこもかしこも熱線・烈戦・超激戦が繰り広げられる中、騒乱の原因にして中心となっているサイカは、相も変わらず真っ黒な悪夢に捕らわれていた。

 全身に臓物や骨格がヘドロのように纏わりついている。視界全部がそんな感じである。どこまでも黒いし、いつまでも臭い。腐った骨肉の海に浸かり、サイカもその一部へ成り果てようとしている。


「これが咎人の呪いか……」


 今まで自覚はなかったが、こうして電脳世界で自身の魂を客観的に感じ取れるようになると、自分がどれだけ追い詰められているのかがよく分った。片足どころか、両手両足に胴も棺桶に突っ込んで、泥沼の中に沈められている。殆ど死んでいると言っていい。よくもまぁ生きていられたものだ。

 確か魔女の家系には呪いを防ぐ加護があったと思うのだが、たぶんシリル・エイカーのせいで効力を無くしていたのだろう。だからこその、この有様である。

 はてさて、それにしてもこれからどうしたものか。

 正直、どうしようもない。身動き一つ取れないし、外との繫がりは全くない。世界に自分一人ぼっちだ。ハムスターなら寂しくて死んでしまうところである。

 だが、サイカは生憎諦めが悪いし、生への執着心は半端でない。身体は動かずとも、心だけはひたすらに打開策を求め続ける。

 だって、こんな所で諦めてしまったら、あの愛おしい人たちに会えなくなってしまうじゃないか。そんなのは絶対に嫌だ。


『フッフッフッフッ……』


 そんなサイカの下に降り立つ、真っ暗で巨大な影。辛うじて人型なのは分かるが、それ以外は何一つ見通せない、深淵の闇。


「……お前は一体何だ?」

『我はデモン・ヴァイラス。邪悪なる暗黒破壊神の意志を継ぐ者……』


 全く臆さずに質問するサイカに、闇が答える。


「デモンだと?」


 その名前に、サイカは聞き覚えがあった。

 随分昔にクソ親父様が言い残した、“語れぬ神話”に出てくる神の一柱である。

 とある時空の狭間に追放された二十二柱の邪神たちが延々と殺し合う陰湿なその神話の中でも、邪悪なる暗黒破壊神=デモン・ヴァルシングは特に凶暴かつ凶悪で、最後の最後まで自分の妹たつ卑劣なる創造邪神=セレン・ガイロスを殺そうと暴走し続けたという。

 しかし、神々は戦いの最中で次々と死んでいき、生き延びた者も自分の器を保てず転生を繰り返さねばならない程弱ってしまい、最後の決戦の地で全員が滅んだらしい。

 かつて日本のあの世で起こった世界最後の日が、まさにその最終決戦で、デモン・ヴァルシングもセレン・ガイロスも共に消滅した筈なのだが……。


『そう、今はな。だが、いずれ我は生まれ変わる。二十三番目の神、そして八番目の大罪として』


 デモン・ヴァイラスはクツクツと嘲笑う。真実はまだ闇の中だと。


『さぁ、目覚めの時だ。絶望するのはまだ早い(・・・・)のだよ。精々人生を謳歌するといい。我はいつでも傍で見守っていよう。“その時”が来るまでな。フフフフフ、クククク、ヒャッホッハッハッハッハッハッハッ!』


 さらに、意味深な事を言い残して、闇は闇に還った。残るはサイカ一人。


『今のは……まぁいい、待たせたな』


 そして、ダイブしてきた希望の鳥頭。

 そう、シリルの張り巡らせた蜘蛛の巣のような防壁を、実は電子戦に強かったカインの助けを借りて突破した強欲王マモンが、ようやく侵入に成功したのである。ここまで来たら、やる事は一つだけ。


『オレと契約して魔法少女になれよ』

「……笑えねぇ」


 ――――――逆襲、開始である。

◆名もなき神話


 語ってはならないとされている、あの世の黒歴史。

 遥か太古の、そのまた昔に、時空の狭間に追放された二十二柱の邪神たちが、己の目的や趣味趣向の為に延々と殺し合いを続ける不毛かつ陰惨な神話で、何も生み出さないばかりか数々の平行宇宙を巻き込み、自分も相手も周りの全てさえも滅亡させるという非生産的な物語である。

 神々は自分をロクに維持出来ない程に弱まってもなお戦い続け、最後の決戦の地としてこの世――――――つまりは現世に舞い降り、最終的に全員が死滅した。その騒乱の影響であの世は無数に分かれ、各々の道を歩み始めたという。

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